#16 大打撃
頭に血が上ってるからか相手は一直線にこっちに向かってくる。その間に火の玉を実体化。どこに置いてもあまり差は無いから体の周りにでも飛ばせておこう。
せっかくだから相手に合わせておこう。相手の冷静さを失わして勝つには相手と同じようなことをするのが一番だ。
突っ込んできた相手は迷うことなく右から胴を狙ってくる。
剣道だったら普通なら使わない逆側。まあこっちがハンマーだからかもしれないが。
(とりあえずハンマーの持ち手で剣を防いでそのあと右から胴を・・・)
いや待て落ち着け、マジで落ち着け俺。俺はそんなに死に急ぎ野郎じゃない。
(このハンマーは青銅!相手の刀の素材によっては斬られる!)
相手の刀が鉄で出来ているとは限らない。もしかしたら元の世界には無かった金属かもしれない。だとしたら攻撃を受けるのはリスクがある。
(ならば避けるべき!この体勢で避けれて攻撃に転じることが出来るのは―)
今は重心を低くして懐に潜り込む形。この状態から胴打ちを割けて、ハンマーを当てるならば。
(右に出てから戻ってくるしかないなッ!)
右足で前進速度を軽減してから右斜め前に八艘跳び。左目の端に刀をしたまで振り降ろすのが見えた。
(そんでもってここから相手胴に当てるには距離を詰める!ならば突撃!)
当然、フィールドに陸上のスターターがあるわけでもない。空中で踏み込んで逆側に突撃する必要がある。普通なら慣性の法則により不可能。だが_。
(こちとら不可能を可能にしないと死ぬんだよッ!)
先ほど実体化した火の玉を八艘跳びで着地するまでの右足の裏にセット。
どうやらこの火の玉は内部のボールの周りに火が付いているらしい。今まで使ってきたときも硬いボールをぶつけていた感じだ。ならば踏める。多少は靴の裏が焦げようともここで死ぬよりかは幾分かマシ。足裏にセットした火の玉を着地で踏み込む。
そして着地と同時に地面に放出。反発力で慣性を打ち消して推進力すら与える。
(そんでもって相手が体勢を立て直すまでの間にいいいいいいいい!!!)
「ふんぬううううううううううううううううあッ!!!!!!!」
重たいハンマーを相手の右わき腹に打ち付ける。どちらかと言うと火の玉ブーストの速度でハンマーを当てに行った感じ。
今の間は約2秒。だが使った集中力は計り知れない。ハンマーの重さも相まって体力の消費が激しすぎる。
「ぐうううぅぅぅぅ・・・ふうぅ、胴当てが無かったらヤバかったな・・・!」
「あっ、ずりーぞテメェ!」
ミズキは袴の間に挟んでいた胴当てらしきものを取り出す。ハンマーの衝撃で原形をとどめていない。
「ここで負けたら国に帰る顔もねえんだよ!」
「知るかっ!さっさと負けて大人しく祖国に帰れ!」
そして二度目の突撃。どうやら得意技は面打ちからの変則らしい。
(正面に刀を振っておいて横に・・・ずれない!?フェイントなしか!まずい、刀が振り切るまでにハンマーを持って来れない!)
火の玉で防ぐにもかき消される可能性が高い!どうにかして、どうにかしてこの刀をずらさなければ!
(どこまで有効か分からないけどやってみるしかねえ!)
武器に魔力を入れるなんてやったことないからわからない。いつもスマホを使うような感覚で、それっぽいことを叫ぶ。
「『魔力注入』!」
ハンマーが紫色のオーラを纏う。そのオーラがハンマーの先端を覆った直後、目の前に近づいていた剣先は真横にずれ、ハンマーからくっついて離れなくなった。
「なっ・・・!?何、しやがった・・・!離れねえ・・・!?」
「さあな!お前が知らない技術とだけ言っておくぜ!」
ハンマーを持ち、刀がくっついたままハンマーをフィールド外に放り投げる。
「なっ・・・!」
「ちゃんと聞いてたぜ!『剣以外は素人』ってな!」
試合前にカリンに教えて貰ったアドバイスがここで活用できるとは。
さて、そんな素人をどうやって倒そうか。やり方はいくつかあるが、一番相手の『頭に来そうな』ものが真っ先に思い付いた。
「ヒサメ君のここがすごいぞポイントその1ぃーっ!」
フィールド橋ギリギリまでダッシュ、そして助走をつけて相手に走る。
幅跳びのように距離を付けて、高跳びのように美しく高く。
「えっ、あっ、あ!?」
そして落下地点に相手を補足して_。
「『角が凄く硬い』ッッッ!」
重力と慣性、それと首の筋力をすべて使って角で全身全霊の頭突き。
脳天から打ち下ろしたことによって頭は揺れ、相手は意識を失って倒れる。
「・・・挑戦者側気絶!ギルド側勝利~~~!!!!!」
物凄い歓声が巻き起こる。昨日ボロ負けしたこともあるのかもしれない。
「ハァ、ハァ・・・あっぶな、ハンマーの発動タイミングうっかりミスってたら死んでたな・・・」
え?勝ち方?何を言ってるんですか、言った通りでしょう、『頭に来そうな』勝ち方って。物理技じゃないなんて言ってないしセーフ。
これこそ有言実行、やることを成し遂げた後の達成感は素晴らしいものだ。
「まさか一番の武器が頭突きになるとはな・・・ただいまー」
「ヒッくんすごい勝ち方しましたね・・・」
「これで角の硬さに感謝するのは2回目だぜ・・・」
「そういえば私たちの初対面の時も角使ってましたね・・・」
相手が人型であれば高確率で脳震盪を引き起こせる頭。・・・もしかしたら使い勝手がいいかもしれない。痛覚が通ってないおかげで頭突きの痛みもほとんどない。
「さて、しっかりかってきたけどこれでいいかい、姫様?」
「その呼び方はやめてくれ、アイツ話すだけで結構疲れるのじゃ・・・」
「というかもう2勝しちゃったからこっちの勝ちが確定してるけど・・・アイツギルドに引き抜いちゃっていいのか?」
「まあ、悪い奴ではないからの・・・弱いわけでもないし、ここのメンバーに揉まれてれば少しは友好的になるじゃろ」
「姫様ーっ!!!俺は負けませんからね!!!!!」
「いやもうすでに二敗しとるじゃろうに・・・」
「というかさっき頭揺らしたのにもう復活したのかよ!?」
普通、脳震盪のダメージはかなり残るはずだが・・・頑丈なのかもしれない。
「じゃあ第三戦の抽選始めるよー!」
「もう勝ちが決まってるのにやるのか・・・」
「ここのギルドって割と戦闘狂多いですよ?」
「マジかよ・・・でも既に一回やったから安心して見れるな」
さすがに一回当たった人は抽選から外れる仕様になってるらしい。
「それっ!えーっと、1番!・・・あ、私だ」
その一言で騒がしかった室内が一瞬で静まり返る。基本的に昼も夜も誰かが起きているこのギルドでは一番静かになった時間かもしれない。
そして次の瞬間_。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「やめろおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「なんで!?私これで当たったの今までで2回目じゃん!」
「お前1回目で何しでかしたのか分かってんのか!?」
ルリアとジルオの口喧嘩が抽選機の前で始まってしまった。
「え?何?ルリアさんはやっちゃダメなの?」
「いや、うん・・・まあ見ていたらわかりますよ」
ジルオを振り切ってルリアがミズキに聞きに行く。
「さて、第三戦はこの私!どうせだから私に勝ったらあの人連れて帰ってもいいわ!その代わりに負けたらウチに入りなさい!分かった?」
「上等だ!アンタを倒して姫様を連れて帰る!」
じゃあ何のために俺達戦ったの、と頭を抱えて悩んでしまう。
横目で見るとカリンも何とも言えない表情をしている。恐らく同じ心境だろう。
「・・・まあいいや、ルイラはどっちが勝つと「ルリアさんです」
セリフ中断させて言ってきやがった、と思いつつも心にしまっておく。
「ルールはさっきまでと同じ。・・・もうどうなっても知らねえからな」
呆れたジルオがルリアの代わりに審判としてルール説明をする。
「レディー、ファイ!」
「ぬうっ!」
突撃の体勢でミズキは刀を構えて突撃していく。通り抜ける時に相手を突き殺す、剣を使う上ではかなり重要な形だ。
「せぇいっ!」
そしてミズキは勢いよく方の前に出して相手目掛けて突く。
「良い勢いだけど甘いわ!グランツの方がもっとキレあるわよ!」
心臓に一直線だった刀はルリアが右に避けることで空を切り、そして。
右拳で刀を横から叩いて間からへし折る。
「なっ_」
どちらかと言うと『横から叩いたらバキバキに砕けちゃった』が正しい。
ミズキがリアクションをする前にルリアは体を捻って体勢を元に戻し、今度は左拳で顔面を殴打。
痛々しい音と共に勢いに耐えきれなくなった体はフィールドを飛び越え、反対側の壁に体を叩きつけられる。
・・・なるほど、入り口後ろの壁が少しへこんでいるのはそういう事か。
「・・・挑戦者場外、ギルド側の勝ち」
「よっしゃー!新人ゲットー!」
誰もが渋い顔をして心で思っている。『やりすぎ』だと。
「・・・ね?言ったでしょう?」
「揃いに揃ってルリアさんを止めたのはその為か・・・」
部屋の中で全力で喜んでいるのはルリアだけだった。
ねえ(留年の危機)感じちゃう・・・!
既に未来がヤバいですがどうにか元気です。




