#11 迎撃
いや、本当にどうしようかなコレ。
堂々と上り込んでお偉いさんの顔面をブン殴った。この一文だけでいろいろと分からない。普通上り込んでお偉いさんは殴らないし、この高さまで登って来れない。
そもそも縄やケツバットはどうしたのかと言うと_。
『せっかくだから道具でも揃えるか。雑貨屋とかあるかな』
『さっきの曲がり角の手毎あたりにそれっぽ荷がありましたよ。文字読めないから確証はないですけど』
『へえー。じゃあ行ってみるか』
グランツに先導されて曲がり角を戻る。確かに見た感じ色々売ってそうな店があった。・・・というか、見た目は百均ショップにすごい近い。
『縛り上げるための縄・・・あとは何かあるか?』
『パーティーグッズのケツバットありませんかね?あれプラスチックの割にすごい音と威力あるんですよ』
『ケツバットって何だ・・・?お前の国にはそんな禍々しいパーティーグッズがあるのか・・・?』
『毎年大晦日にいい大人が尻ブッ叩かれてバラエティになるくらいには。お、あった』
・・・どちらかと言うとこれおもちゃの野球バットに近いのだが、まあいいだろう。
さらっと金を払って撤収。金なんてあるわけないので金品で現物取引。
『ところであれどうやって行くんですか?』
『俺は爪を使えば登れるが・・・ルイラがキツイな』
『いや俺もキツイですよ。翼どころか尻尾すら生えてないですもん』
ふーむ、とグランツは少しばかり顎を抑えて首をかしげる。
『・・・国のトップならどこにいると思う?』
『『一番上ですかね』』
『だよなぁ』
実質、城ならば(攻められたらどうしようもないが)一番警備が強くて侵入者が入りにくいのは一番上。それは東洋でも西洋でも変わらない。
『あの建物の壁、目視圏内ですけど移動しますか?』
『おっ、じゃあそれで』
『えっ』
そら行くぞ、とグランツに首の後ろを掴まれて穴に放り込まれる。
『おあっ!?よっ・・・・・・なんだこれ』
目の前に出てきた謎のパイプをとりあえず両手でキャッチ。そして_。
『よし、いい感じにワープできましたね!』
『良い感じって何ぉぉわあああぁぁぁむがっ!?』
うっかり足元を見てしまった。地面は遥か下、重力を全身で感じる。
(この上にいるかもしれないんだから気持ちは分かるが静かにしろ!)
(むがが・・・グランツさんよく俺の口抑えたまま片手で掴めますね・・・)
(壁に足の爪刺してるのもあるんだけどな。さて、ちょっと覗くか)
懸垂の要領で体を上に押し上げ、頭を少し出して中を覗く。
中では一人の女性と中年の男性、そして後ろに控えている男性がいる。
(あれがそうですね・・・・・・グランツさん、あれ何の亜人種ですか)
(狐・・・・・・だと思うが・・・)
(尻尾・・・多いですよね。私の知ってる狐って一本だと思うんですけど)
ルイラの意見は間違ってない。というか大正解。尻尾が二本以上に狐なんて(少なくとも現代では)発見されたことは無い。だがあの姿、耳、尻尾。伝記物などで時折伝説急に描かれる例のアレにそっくりだ。
(・・・・・・九尾?)
(多分狐の亜人種なんだろうが・・・突然変異でもしたのか?)
(グランツさん、多分あれ元からそういう物です)
(マジかよ)
(これいつ突入します?)
(あのオッサンがこっちを向いてない時がいいな。・・・あ、なんかすごいしょんぼりしてる)
ガラス越しではあまりわからないが落ち込んでいることは明確だ。
(今は下向いてますけど突撃します?ワープで入ります?)
(まだとっておけ。俺がこじ開けるからその後に来い)
((了解!!))
そして今に至る。
「今回は他国との協定を結ぶために忍んで国を歩いております。なにとぞご承知おきを」
グランツのセリフに「あれ、それ言っちゃっていいのだろうか」と軽く疑問。ルイラに視線を向けると「それ私も思ってました」みたいな顔をしている。
「あ・・・あ、ああ・・・し・・・」
狐の亜人種らしき女性は顔が凄い事になっているそりゃあインパクトは凄まじいだろう。
「しっ、侵入者だーーーーーっ!!!」
グランツが「あれ、何が間違ったかな」みたいな顔をしているが俺もルイラも「そりゃそうでしょうね」みたいな顔していると思う。
「まあ分かり切ってましたよね。じゃあ逃げますか」
「一回見た事あるならルイラ行けるよな?国外行ける?」
「距離範囲的には。じゃあ行きましょうか」
「ほらグランツさん行きますよー。余った縄持って帰りましょうね」
「え?あ、ああ・・・おう?」
グランツをワープ穴に引き込み、そして颯爽と退場。
「き、消えた・・・!?どこへ!?」
「どうされましたか花鈴様!?」
「侵入者がいた!まだ遠くには逃げてないはずだ!付近を探せ!」
そこにいなかったように消えた。国外ではそんな魔法が生まれているのか。
「一体なんだったのだ今のは・・・!?」
一方同時刻国外。ルイラのワープによってとりあえず撤収。
「ふう・・・とりあえず出てきちゃいましたけどどうします?」
「一応私たちの目的って国外調査ですよね?別にいいんじゃ・・・」
「いや、その後の貿易目的もあるから友好的でないといけないんだが・・・」
「俺思いっきり国のトップ殴っちゃいましたよ?」
「それなんだよなぁ・・・・・・」
全員一致で頭を抱えて悩みたくもなる。ノリと雰囲気は恐ろしや。
「何か打開策ってないですかね・・・?」
「アズドラークから誰か連れてきて和解を狙うのはアリだが・・・ギルドは今防衛戦してるし・・・」
「ルリアさん連れてくればまだマシなんですけどね・・・」
二人が頭を揃えて悩んでいるのを見てどうしたものかとしばし考える。
そして出てきたアイデアは一つ。アイデアと言うより発想の逆転のそれ。
「・・・防衛戦が早く終わったら呼べるんですよね・・・?」
「え?まあ・・・そうだろうけど・・・」
「なんかそんな兵器的な物って無いかな・・・」
ぼそっと呟きながら写真フォルダをとりあえず漁る。
規模が大きすぎるのはいけない。市街地でやったら(ある程度非難はしているだろうが)他の住民に被害が出る。
「爆発系じゃなくて対兵団戦で強い・・・投石器とか?でもそんなものフォルダにあるわけないし・・・」
普通はあるわけない。世界史特攻でもしていなければ画像フォルダに保存するわけないのだ。_だが、それに近いようなものは一つ。
「・・・・・・あ、この写真使えるかな?」
見つけたのは去年の夏に祖父母の家に帰った時の写真。
家の近くに対して流れが強くない川があるのが特徴。
そしてそこの河原で十数mサイズの大きい岩を見つけたのだ。
スマホを貰いたてなこともあって、とにかくいろいろ写真を撮っていたのだ。
そして今、その『とにかくでかい岩』の写真がフォルダにある。
「これ、使い方によっては・・・出力」
右手に魔力を流し込んで写真を選択。正方形の写真が生成される。
「さて、テレパスって・・・電話だっけ。えーっと・・・いや番号なんてあるわけないか。連絡帳からできるか・・・?あ、あった」
『電話を掛ける』のボタンを押して耳に当てて2コール。
『あれっ、どうかしたの?そっち何かあった?』
「あー、えっとですね・・・って、え?まだそっち始まってないんですか?」
『あと10分くらいはあるね。どうかしたの?』
「お、それじゃあ・・・ルイラ、ルリアさんのとこにワープ穴」
「へ?いいですけど・・・」
指示してすぐに実行できる辺りは優秀。・・・いや、まだ自分に人を評価できる権限なんてあるわけないのだが。
「そっちに一枚の紙を投げたんで、その紙を相手の真上で魔力を入れてください。3秒くらいで発動します。あと、なるべく市街地に被害が出ないように」
『ふーん・・・トラップみたいな感じ?わかった、了解!』
「あっ、それでその代りと言ってはアレなんですけどお願いしたいことがありまして」
「よし、作戦会議終了です。こっちの指示があったらルイラのワープがあれば可能だと」
「なるほど、それがあるなら随分と楽だな。・・・さて、どうするか」
「考えてる暇あります?ルイラ、『さっき行った場所』ならワープできるよな?」
「おっ、さてはヒッくん考えてること私と同じですね?」
「なんだそのヒッくんってのは・・・まあいいけど」
「さて、じゃあ行くか。・・・・・・武器とかいいか?」
「俺は魔方陣と火の玉、あとケツバットあるんで」
「私は空間魔法あれば大丈夫です!」
「お前らどうなってるんだ・・・・・・よし行くぞ!」
「まったく、まだ見つかっておらぬのか・・・」
数十分ごとに一度入ってくる知らせはいずれも「まだ見つかっていません」だけ。
ここまで無駄な報告も無いのに国の制度上しなければいけないという厄介極まりない制度。
「見つからなければ報告しなくてよいのに・・・効率化を知らぬのか・・・?」
溜め息交じりにキセルをふかして中指を軸にペン回しの要領でキセルを回す。
目の前のガラスはよくわからぬ侵入者三人組によって半壊していた。
「まあ、風通しは良いが・・・・・・いや、そうじゃないのぉ」
呟いてまたキセルを口に戻そうとした時、慌ただしい足音が耳に届いた。
「・・・?何じゃ?ここは走るのは厳禁じゃのに・・・」
慌ただしい足音はどんどん近づいてきて、ついにはふすまを開けた。
息を切らした中年男性がそこにいた。右の頬は大きい絆創膏のようなものが貼られてある。
「ここにいたか・・・!」
「ん?なんじゃお得意様、この店で走るというのはどういう事か・・・」
「聞け花鈴、お前と共に逃げるぞ」
「・・・・・・・・・・・・は?????」
意味が分からない。意味が分からないのになぜこの男は私の腕を既に掴んでいる。
「既に隠れる場所は決めてある!そこに逃げるぞ!」
「ちょ、ちょっと待って!なんで隠れる必要が!?」
「侵入者が来ただろう!?五男私もお前も狙われるかわからない!それにもしかしたらお前が奪われてしまうかもしれんだろう!そうなる前に!」
「なっ!はっ、離せ!警邏!警邏―!」
呼ぶと足音がする。すぐ来てくれるあたりさすが。・・・はて、警邏の足音はこんなに多かったか?確か来ても3人程度なはずだが_。
ふすまから現れたのは見知った顔ではなく、最新式の魔力弾装填発射機構―『銃』と言ったか。それを抱えている男が十数人。
「なっ・・・!?警邏は・・・・・・」
聞き質す前に分かる。男たちが来た方向から少しばかり焦げる臭いがしているのだ。
軍で正式に作られている物に消音器は付いてなかったはずだが・・・軍事機密とやらだろう。さすが秘密警察と褒め称えたくなってしまうほどだ。
「さあ、侵入者が何かをしでかす前に!ここから逃げるぞ!」
「いっ、嫌じゃ!誰かっ、誰かーーーーーッ!!!!!」
逆らい続けたら並んでいる男たちから「ついうっかり」程度で銃弾が放たれてしまう。それでも嫌だ。この男について行くのだけは嫌だ。民主政治ならば自由であるべきなのに!
目を瞑るほど必死の抵抗をして、掴まれていた右手の感触が消える。
目の前で腕を掴んで連れて行こうとした男は左側へ吹き飛んだ。
目の前を肌色の何かが2本、男の右頬と左頬を同時に殴って飛ばした。
先ほど割れていないガラスの方へ少々脂がのった体が叩きつけられる。
一体何で吹き飛んだのか。驚きで引きつった首をどうにかしておそるおそる回す。
「・・・新人、『男としてあるべき条件』って何だと思う?」
「『守りたいものを守れること』ですかね。後悔なんかじゃ足りなくなりますよ」
「今殴ったことに関しては守りたいこととかあったか?」
「いや全然。ただ『アイツは徹底的にブチのめさなきゃ気が済まない』と直感で判断しました」
「なるほど、筋が通ってるようで全然通ってねえな。だが今回に関しては俺も同意するぜ!」




