#10 攻勢
民主国家『カガミマチ』。和風な文化に包まれた、アズドラークと同じタイプの他の国の文化を極力こばんだタイプの国。用水路や竹林が生えていたりとどこから湧いたのか知らない和風要素が要所要所にある。この世界においては中々に珍しい民主主義の国。
だが、実際に民主主義とは言い難い、と国民の間ではささやかれているとか。
なんでも、国のトップたちが揃って風俗に通い詰めてるんだとか。
そこで酒と女と金で頭の中が空っぽになったところに次の政策を吹きこまれればはい終わり。頭の中で『それが普通』として常識が置き換えられる。
実の所、政権を握ってるのはお偉いさん達が行く風俗の風俗嬢たち。
結局は『人』と『金』と『女』と『酒』。これらの内どれかが狂った時点で民主政治なんて到底無理ということなのだ。
そんな国で、朝一番から噂が飛び交っていた。
『国外をうろうろする不審な輩がいたらしい』『外の国の者だそうだ』『見つけて捕まえたら金が出るらしい』朝からこの国はそんな話でひっきりなしだ。
「・・・こりゃあまたまた、結構噂されちゃってるもんなんだな」
「いや、俺達がこの街うろついてるのもどうかと思いますよ」
「ねえあの木なんですか?なんか手みたいな形の赤い・・・」
「ああ、あれは『紅葉』って言ってな。ここら辺の特殊な木らしいぞ」
「・・・そう言えばグランツさん、なんでこのタイミングでギルド特注の甚平なんて持ってたんですか?」
「この国ではこの服装が溶け込めるって知ってたからな。お前達は持ってきてないだろうから予め3つ持って来ておいたそれよりも新人デミドラ君、あの一瞬で外壁にあった矢打ち窓なんてよく思いついたな」
「中に飛んだら一発でバレますし・・・それに中が直通だったら一発でバレてましたよ」
何が起こっていたのかを話せる限りで出来るだけ解説しよう。
『逃げるってどこに逃げるんですか!?ここ平原ですよ!?』
『ルイラ!これ!』
ヒサメが一瞬で外壁右端の矢打ち窓を写真で撮り、それをルイラに見せる。
『この中ですか!?わかりました!』
そこに場所トレースでルイラがワープ穴を造り、全員退避。
『どわっ!?』
『あっぶ・・・何とか中に入れましたね・・・』
『よし、二人ともこれ着ろ。サイズはめんどいからフリーの奴を持ってきた』
グランツから渡されたのはギルド特注の甚平。
『これ何に使うんですか!?』
『着るんだよ、よく考えろ。さっき門の前で出待ちしてた連中がこんなの着てただろ。ちょっとデザインは違うけど』
確かに少しデザインは違えど、似たようなものを着ていた。
『来たか?よし、外出るぞ』
『もう出ていいんですか!?ほとぼり冷めるまで待ちましょうよ!』
『逆だアホ。ここもいつかは捜索が来る。それまでに街に出て溶け込んだ方がばれにくいだろ。理解したらさあ行くぞー』
『・・・グランツさんなんで慣れてるんですか・・・』
『さあな。ギルドの連中は基本的に過去は探んない方が良いと思うぞ?』
そして今に至る。
「思ったんですけどもう敵対されてるってことは任務達成できそうにないですよね?どうします?」
「それなんだよなー・・・新人君何かアイデアない?」
「さては意地でも名前呼ばないつもりですね・・・んー・・・国のトップに聞きに行ってみるとか?」
「本来ならばそうしてる所なんですけど・・・そうはいかないんですよね・・・」
「てか国のトップってどこにいるんですか?やっぱりあのでかい建物?」
どこにいても見える外壁と一体化したような城っぽいもの。
大通りから直通である事もあって存在感は桁違い。
「・・・いや、あれ風俗じゃないか?すごい酒臭いぞ」
「ちょっと待ってくださいグランツさん、直線距離でさえかなりあると思うんですけど匂うんですか!?」
「それほどまでに強い匂いって事だよ。少なくともあそこで国を動かしてるとは考えにくいな」
確かに酒の匂いがする部屋で政治の事を考えられるとは思いにくい。
「でも聞くにしても・・・この国他との外交ほとんど切ってますよ。『あそこは何ですか?』なんて聞いたら異国民バレバレだし・・・」
「ふーむ・・・おっ、いい感じの事思いついたぞ」
自信満々の笑みでグランツが堂々と指差した場所は_。
「・・・掲示板、ですか」
「人が必ずいて、それでいて話を途中から理解しやすい。まあ見てなって」
グランツはそこで待ってろと残して掲示板の方へ向かう。
掲示板には結構大事なことがあるのか話しかける人は十分にいる。
今回は正面にいるいかにも普通って感じの男性にしよう。
「やあそこの方。今日の速報は?」
「どうやら与党の党首が風俗嬢にいろいろ吹き込まれてたって話だ。こんなんじゃ野党も与党も関係ないようなもんだけどねぇ」
「またなのか・・・いい加減こちとら同じ情報ばっかで飽き飽きしてるのになぁ。今回はどこの常連だったんだい?」
「今回はさすが金持ちってとこだ。『鈴林』に通い詰めてたらしい」
チラリと視線を外して中央のひときわ目立つ建物を見る。昼間だからあまり見えないが、夜にはネオンで煌々と輝くであろう『鈴林』という看板がついている。
「はー・・・あんなとこにか。税金の無駄遣いとは、まさにこの事だわな」
「全くだ。こんなこと続けても何の成果も出ないのにねぇ・・・」
そしてグランツは話を聞いた男性に軽く挨拶をして帰る。
「・・・何か分かりました?」
「大体わかった。今の国のトップはあの中央の建物『鈴林』って風俗にいることは間違いない」
「根拠は?」
「今日のニュースは『与党党首が風俗嬢に吹き込まれ』だった。ああいう金を溶かす場所は上司から部下へ伝染する。与党全体があそこにハマっててもおかしくは無い」
仮説交じりだが、それを仄めかすようなものがありすぎる。
「そしてあの店に野党はいない。風俗嬢を通して情報が漏洩したらマズイからだ」
「そりゃあ風俗嬢がちゃんと情報を守る証拠がありませんよね」
「・・・とまあそんな感じだ。一応党がある建物にも行ってみて確証を得る行為が必要だが情報収集は十分・・・・・・」
「・・・グランツさん、ルイラ固まってます」
まあ、確かに14歳が政治の話とか無理にも程がある。高校生でも結構キツイ。
「・・・じゃあ党がある場所に向かってみるか。それでわかるだろ」
そして徒歩10分程度。この国は人の割には国土はそんなに広くない。拡張する気も起きないのだろう。
一戸建ての建物に少しばかり年を取った人物が何人か集まって出たり入ったりしている。
「来てみたは良いけど・・・どうやって確認するか」
今知りたいのは党首、深く行けば総理大臣がどこにいるのかが知りたい。
脅して外交のサインでも拇印でも押させれば任務は完了なのだ。
「でもこれさすがに中に入って聞くわけにはいきませんよね・・・」
「ルイラのワープでもダメだろうな・・・絶対バレる」
さすがにどうしたものかとスマホを取り出してみる。指紋認証でロックを解除。そのまま_。
「あっ、やべ」
ついいつもの癖で起動したら真っ先にSNSを開こうとしてしまう。電波が無いから開いても何も変わらないのは分かっているのだがアプリを消す気にはなれない。
「でもさすがにこれは・・・・・・SNS・・・つぶやく・・・?」
つぶやく。そう、『つぶやき』。それはネットに向かって一対不特定多数に発信する心の声。
「もしかしたら・・・!」いけるのではという疑問を解消するべく右手に魔力を送る。SNSを開いて右手の魔力をスマホに移す。その結果。
「・・・お?お、おお・・・ん?」
タイムラインとして一気に流れてきた文字の嵐。素晴らしいことに日本語表記。
@から後のIDは文字の羅列だが、アイコンは本人の顔写真が使われるようだ。
「現代学生のSNS利用力なめんじゃねえェ!・・・黒の袴で肩に白いラインが一本入ってる服を着た顔が厳ついオッサン・・・ダメだ!こいつ晩御飯の事考えてやがる!次!顔骨が出ている紺色に近い黒の袴の・・・こいつエロ画像ばっかかよ!ああもうめんどくせぇ!」
「・・・何してるんですか?」
「なんかこれ使うと人の心が読める・・・みたいな?」
「そんなのがあるのか!?その板ますます謎だな・・・」
「こうなったらステータス検索だ!今の与党は自由党!そのワードをステータスに含んでいて一番フォロワーが多い・・・いた!内閣総理大臣!こいつだ!」
文字の嵐を隅々まで調べた結果出てきた顔写真。掲示板とかに貼ってあった顔だ。
「・・・56秒前ツイート?・・・『風俗楽しい~今の党内は混乱してて大変(f^_^;)さっさと逃げるに限る三┗(┓卍^o^)卍』・・・歳の割に2000年代の顔文字連発してる気がするが大丈夫なのかこのオッサン」
まあ、こっちの世界で2000年代なんて言っても通じないだろうからスルー。
「えっと・・・今ので何が分かったんですか?」
「56秒前ってのがポイントだ。まだ中にいるって事だろ」
昼間とは言え、匂いと存在感で摩天楼と言わざるを得ないあの建物。
「風俗だから昼間が有利だ。色仕掛けに弱いジジイの顔面ブン殴りに行こうか」
「「了解です!!」」
「・・・・・・どうやって行くんですか?」
「・・・どうしよっか・・・」
昼間から酒と汗の匂いでむせ返りそうになる。それが風俗。
立ちこめる雰囲気は一般人からしたら異様で、思わず吐く人もいるとか。
「・・・ところで、先ほどの不届き者はどうなったかの?」
「・・・誠に申し訳ございません、逃げられえぼっ!?」
報告をしていた男性は謎の力で壁際まで吹き飛ばされる。
「この永年都市で、侵入者が出たらどうなるかわかってるの?」
「はっ、はいぃ!直ちに探してまいりますっ!」
報告に来ていた男性は青ざめた顔で即座に帰って行った。
男性が出て行ったふすまと反対側のふすまから別の男性が来る。
「花鈴様、御指名が来ております」
「・・・またあの中年男か。しつこいのう、何度来ても変わらぬというのに」
溜め息交じりにキセルを吸い、そして吐くと同時にキセルを指先で回す。
今日は機嫌が特別悪いようだ。それは荒れ狂う尻尾から一発で判別できる。
「・・・まあよい、通せ。御贔屓様じゃからの」
はっ、という男性の声と同時に別の男性が入ってきた。見た感じで小太りの中年男性と言うことが誰からでも判別できてしまう。
「何回も通い詰めて・・・党の資金そんなに溶かしたいのか?」
「金なんていくらでも積めばいい!お前さえ、いてくれれば・・・」
「嫌と言うておるのに。誰かの所有物はもう嫌なのじゃ」
「そ、そんなぁ・・・」
こやつも懲りないのう、と妙に多い尻尾を右手で押さえながら窓を見つめる。
「ああ、昼間から妾は何をやっているのだろうか」という失望感。
ここは城の中でも最上階。高い場所にあり過ぎて鳥くらいしか窓には映らない。
「ふう・・・・・・ん?」
いや、なんか鳥にしてはえらく近いというか、ガラスにくっついてるというか。
「みぃつけた」
どこからかそんな声が聞こえた瞬間、目の前の窓ガラスが何かで貫かれた。
一人が開いた穴を両手で押し広げ、その後に二人が入ってくる。
「オラ行けー!取り押さえろー!」
「「ラジャー!!」」
何だコイツらは、と思ってる間に後ろで常連の小太りな男性が縄で縛られていた。中々の早業。
「よっしゃルイラ、こいつ窓際に縛っとけ!あと窓の外少し下とここにワープ設置!」
「了解!準備完了です!」
常連の男性がなんだこれはとあたふたしている。状況を説明してくれと視線を投げてくる。すまない、全然わからない。
「スタンバイオールオッケー!新人やってよーし!」
金髪の男に指令を出されたオレンジの髪の男は黒い棒状の何かを取り出した。何かを殴るには最適な形をしている。そしてオレンジ色の髪の男、いや少年に近いだろう。それ以外の銀髪の少女や金髪の青年、全員が満面の笑み。
「いっくぞー!『国民の税金使って風俗に行く奴はどいつだー!?』」
オレンジ色の髪の少年はその黒い何かを振りかぶる。球技にありそうな構えだ。
「「「コイツだこのハゲェーーーーーーーーーッッッッッ!!!」」」
黒い棒的な何かは常連客の右頬を思いっきり叩き、衝撃で窓へ・・・ぶつかるどころか穴から落下していった。
「おっしゃあクリーンヒットォ!」
すぐ近くにある謎の渦から縄で縛られた常連客が気を失って出てくる。
「あの打点、あの斜角・・・完璧だな!何かスポーツでもやってた?」
「いいプレーって見てる側もスカッとしますよね!」
目の前で綺麗な弧を描きながら飛ぶ姿は見事だった。中年のハゲ頭でなければ。
「・・・・・・思ったんですけど、任務どうするんですか?」
「「あっっっっ」」
「やべえよやべえよ・・・完全に調子に乗ってた・・・」
「どうするんですか・・・ルリアさんになんて言います?」
「『あの国もう滅びるから外交無くていいです』とか?」
「全然理由になりませんよそれ」
「あ、あっと、あの・・・・・・」
何が何やらわからない。いきなり上り込んで、いきなり一直線で男の顔をひっぱたいて、それでいて任務が何のと焦る。意味が分からない!
「あっ・・・・・・ここの方ですか」
「挨拶でもしときますか?」
「してもいいけど誤魔化す?グランツさんどうします?」
「いやもう言っちゃっていいんじゃない?殴っちゃったし」
「そんな適当でいいんですね・・・」
オレンジ色の髪の少年は困り顔で頭を掻いた後に言う。
「人種混合自衛ギルドアルゴノーツ、この国の外から参りました」




