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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 2.3 海と水着と海底遺跡《アトランティカ》
125/126

#121 海域

子供の頃に願ったことが誰も一度はあるのではないだろうか。

夏休みが永遠に続けばいい、と。

確かにそれは素晴らしく、あらゆる苦難から解放されることを意味する。

それが正しいのかと言われると曖昧なところではあるが、辛いことから逃げようとするのはとても人間らしい行動だ。

しかしこういう者もいるだろう、休みは労働があるからこそ素晴らしいものになる、と。

好きなゲームも趣味ではなく仕事として強制させられれば嫌になってしまうように、休み続けることもいつかは苦痛へと変わってしまう、ということだ。

さて、ここで疑問なのだが。

もし感染力が高く危険性の強いウイルスが都市部で蔓延して、家から出られない状況になったときに「金と食料はやるからずっと家で過ごせ」と言われて、あなたは耐えられるだろうか?

つまるところ、あなたは休み続けられるのかどうか。さて、どうだろう。

やることがなくなる、運動がしたくなる、外食に行きたくなる等、単純だがかなり条件は厳しいものだ。

一体それが―――うん、俺か?

俺は―――。




「四半世紀だろうが休み続けられるタイプだな」

「いきなり何を言ってんだお前は」

視界に映る色は濃淡の付いた深い青のみ。

目の前に広がる大海原の水平線は空の水色と溶け合ってどこまでも続くかのように広く、そして澄んでいる。

その透き通った空を遮るものは何もないとばかりに、雲一つない晴天にて煌々と輝く太陽。

日差しは強いが正面から吹き付ける潮風は適度な強さで、ただこの場にいるだけでも涼しさを全身で感じさせてくれるのだ。

「だから言っただろミズキ、お前はずっと休んでいられるのかって」

「今は仕事だろうが」

「それはそうなんだけどさー……」

前略、俺とミズキは海に来ている。

……流石に省きすぎたか。回想をすると―――。


事の始まりはつい昨日の夜。

「ヒサメ君、ちょっと仕事があるんだけど」

「えっはい、なんでしょうルリアさん」

既に俺はその時点で怪しさを感じていた。いつもだったら食堂の大テーブルに乗って「総員傾注―!」とか言うだろうに。

どうやら予想通りらしく、食堂のカウンター席で隠れるように小声で用件を聞く。

「……実はあまり大声で言えない感じの内容でね」

「国盗り戦すら大声で言ってたのに、そんなですか」

「ちょっと方向性が違うというかー……近くに海ってのがあるのは知ってる?」

「海? ああ、確かにありますね」

現アズドラークの東側には巨大な湖が存在している、というのは聞いていた。実際に見たわけではないし、あくまで聞いた程度の話でしかないが、ウェルギスは農作物に加えて水産物で供給を保っていたとか。

「……というか、知ってるかって聞かれても王城から見えますよね?」

「そうなんだけど、一応未開の領域だから手を付けれてなくて」

「それで、海で何かするんですか? 魚と海水くらいしか―――」

「そうそうそれそれ! そのしょっぱい水に用があって」

「ルリアさん声大きくなってますよ……それっていうと、塩ですか?」

「元アズドラーク領土は岩塩が頻繁に産出されてたの。でもこっちに移ってからはあそこまで取りに行くのも大変らしくて。需要も増えそうだし」

確かにそこそこ距離が開いているとはいえ、それでも何日かかけて往復できるような距離だ。それで問題が発生しているのならば、消費量の問題としか思えない。

「確かに国を移してから人は増えてそうですけど、それでも足りないんですか?」

「それがね、今はいろんなところに研究資産として塩を分配してて、どこも『調べるには素材が足りない』―って」

「研究? なんでまた……」

塩を使った研究、しかも魔術的な内容なら王城の地下やギルドですればいい、他の所に配って共同研究ということは、生活系統だろうか?

塩を使う、食品系の研究? しかしこの人が食にこだわるとは思えない。

食にこだわらない、塩を、使う、つか、…………。

「ん、塩漬け? ……ああそうか、保存食か!」

「そう、まさしくそれだよ! 只今超特急で塩漬けの保存食を研究してるの」

この世界の四季はあまりはっきりとは言えないが、雨がよく降ったり日照りが続いたりとなんとなく存在する。植物系統は魔法でどうにかなるかもしれないが、タンパク質などの動物系統は気候に左右される可能性がある。

塩に漬けなくとも魔法で手段はいくつかあるようだが、わざわざそのために時間魔法を使う者はいないだろう。

「食料の長期保存と……もしかしてルリアさん、遠征狙ってます?」

「……バレた?」

「バレます」

純真無垢な目の輝きだった。子供の頃に好きなシリーズの本の最新作を手に取ったような、興味と興奮が抑えきれていない顔。

「私たちは何も知らなさすぎるんだよ。そこに見える水平線の先も、オルマトスを超えた山脈の先も、君が来た悠久不変の大地の先も。それを解き明かすにはまず食料でしょ?」

「そう、ですけど……まあ、はい」

この場合、いきなりルリアさんが「旅に出る!」とか言い出したらどうなるのだろうか。

一人で旅に出てギルドリーダーが交代、いや、この人は一人旅はしないタイプだ、途中で寂しくなって帰ってきそうな気がする。

……このギルドの事だから、「建物に車輪付けて自走式にしました」とかやりかねない。

「そんなわけで塩が必要なんだけど、水がしょっぱいのは分かってたの」

「じゃあ何が?」

「私たちもそれを知ってて、使えないかと言ってみたんだけど、近くに住んでる人が『怪物が出るからやめとけ』って言うのよね」

「怪物かぁ……バカデカいタコとか?」

「怪物が出たところで問題は無いんだけど、塩をつくるなら大人数必要でしょ? 安全が確保できてない状態で行うのは無理って事になったの」

言っていることは理解できるが、「怪物が出たところで問題はない」というワードの印象が強すぎて何も入ってこない。この人なら何が来ても拳一つで殴り返しそうだ。

「それでウチのギルドに怪物の調査依頼ってことですか。なんで堂々と言わないんですか?」

「おっ、話が早いね。いや、アズドラークって川はあっても湖は無かったから、変なテンションで仕事できない奴を連れて行くのもダメだなって」

「……それもそうですけど」

「だからこうやって無難な人に頼んでるの。どう? 相応の報酬も用意してるので、どうか!」

率直な感想を申し上げてしまえば面倒だから行きたくないのだが、この人に頭を下げられてまでお願いされることも稀だ。話を聞く限りでは調査だけで面倒ごとも少なそうなので断る口実が用意できそうにない。

「……わかりました、明日ですよね。それで、誰が来るんですか?」

「それはね、ええと……」


そして本日、国外へと出て現在は海岸部北端。長く続く砂浜の端には岩がそのまま転がされたような崖が存在し、アズドラークと近く輸送面で困らないとの事で簡易拠点が組み上がっている。

そこで今、俺は―――。

「……なあヒサメ、これ本当に来るのか?」

「来るだろ、目視できるとこにいるし。……お、きたきた。よっと」

「……なんだ……その白黒のしま模様した魚は」

「俺のいた世界で言うなら、イシダイってやつだな」

俺は今ミズキと、海辺の崖で釣りをしている。

―――……なぜだ?

「ふむ、イシダイで合っておるぞ。刺身にすると酒に合う」

「あ、カリンさんも来たんですね」

「妾はこいつのお目付け役じゃ。バカせんようにと言われておる」

「だって姫様、こんな広い川見て楽しくならない訳無いじゃないですか」

「そういうところじゃぞ」

今回の任務は、海岸部の危険物調査、及び敵性生物討伐ということになっている。

ただの調査ならまだしも敵性生物討伐なんて俺一人じゃ無理、ということで俺の他に何人か来ることになっているらしい。

今は集合場所に早く来てしまったので周囲にあったもので適当に釣竿を作って遊びがてら時間を潰している、というわけだ。

しかし誰が来るのかは全く伝えられておらず、ここにいれば会えると言う事だけ。こんな派手な髪色になっても人間中身は変わらないもので、知らない人が来た時にどう話しかければいいのやら―――。

「にしても遅いな、俺たちこうしてどれくらい待ってるんだ?」

「さあ……朝飯食って出たから、そろそろ昼か……」

「お前らが早すぎるんだよ、一番浮かれてるじゃねえか」

確かにそんな気もするな、と考えたところで今まで聞こえていなかった男性の声が背後から。しかも大分聞き覚えのある低さ。

「「あ、ジルオさん」」

「先に来てた連中ってお前らなのか」

「朝からいないと思ったらこんなとこに来てたのね」

「ん、珍しいな、レイラが仕事に来てるって」

「私もいますよ!!」

初老とはどう見ても言えない筋肉の後ろから出てきたのはギルド食堂のおなじみ看板娘であるレイラと、ジルオと行動圏を共にする魔法技師のイザベラ。

「……なんか意外ですね。イザベラさん、こういう任務浮かれてそうだから選ばれないと思ったのに」

「なんか失礼なこと言われてますけど、私はそもそも海の向こうから来てますからね?」

「それもそうだ……あれ、じゃあイザベラさんってどうやってアズドラークまで来たんですか? ウェルギスに渡国船は無かったって聞きましたけど」

「それはもう、魔法でひとっ飛びです。火と風の魔法で気流を掴んでぐいっと」

「あまり長くは続かないけど、一直線に飛ぶだけなら風魔法だけでもできるわよ」

「マジか……」

魔法という別ベクトルの技能が加わると人間は空に対して抵抗感がなくなるのか、俺が初めて飛行機に乗ったときは恐ろしくて震えあがっていたが高校の頃くらいに慣れたようなものとは格が違う。

「いや、ヒサメも竜化したら飛べるだろ」

「あれ難しいんだぞ、肩甲骨を上下に動かしてるみたいで」

「常人は生涯一度も経験せぬ事柄じゃな」


アズドラーク国最大最強ギルド、アルゴノーツ。

その中から選ばれた者たち六名、アズドラーク東部「ファットフラット」海域調査隊、ここに集結。

一番アサカヒサメ、理由「誘われたから」。

二番ミズキ、理由「戦闘力」。

三番カリン、理由「ミズキの制御役」。

四番ジルオ、理由「未開拓領域の技術調査」。

五番イザベラ、理由「未開拓領域の魔術調査」。

六番レイラ、理由「面白そうだから」。


ギルド史上もっとも仕事が出来る(ルリア基準)メンバーが、この任務に挑む。


「……いや、ルリアさん基準なら誰でも仕事できるって事に―――」

「やめとけ、全員分かってる」

何か月ぶりでしょう、とてもお久しぶりです。

投稿していない間色々ありました。めんどくさかったり、めんどくさかったり、設定を忘れたり、めんどくさかったり。

なろうが閉鎖するまでには完結したい。こんなペースで大丈夫か?

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