#119 第七試合(2)
俺は今日、悪魔に出会った。
その悪魔はただ何をするわけでもなく、自らを守り続けた。
何をされても動じない。何があろうとも傷一つ受けない。ありとあらゆる手を尽くして、出せる限界まで何もかも出して、それでも悪魔は耐え続けた。
そこで俺は気づいた。「この悪魔の矛先がこちらを向いたらどうなる?」と。
こちらの攻撃を何があろうとも防ぎ、無効化する。つまりそれは、向こうが戦う意思を見せればこちらは歯が立たないという事である。
悪魔は攻撃をしない。しかし、確実に少しずつこちらの精神を削っている。
「もうこいつには適わない」と理解させるべく、ひたすら無効化を続ける。
俺の努力は、勉強は、才能は、人生は―――。
この悪魔に傷一つ付けられないほどに薄っぺらいものだったのか?
「なんだ、何だ……お前は」
「だから黒龍の末裔だと言っている。我が名は―――」
「何なんだァーッ!!!!!」
「……聞く耳持たず、か」
地面から浮き上がった水滴が融合して水の槍を生み出し、バリスタのように無数の矢となってヴリトラへと直進する。
「つまらん」
前に一歩進むと同時に正面から迫っていた二本の水の槍に竜の魔力で身体強化した腕を風のような速度で横から手を入れる。そして槍の持ち手部分少し上に中指をひっかけて思い切り引き抜く。
間違いなく腹部を貫通する軌道を描いていた二本の水の槍はその瞬間、溶けた氷のように形を崩して地面に落ちた。
「もっと他のは無いのか?これでは一方的ではないか」
「ぐううぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
「―――む?」
突如、足元に何かが張り付く感覚。先ほど地面に落とした水を操って地面に縛り付けているのだろう、意外と芸達者なものだ。
そして周囲を囲むように水の槍が四方八方に浮いている。先ほどと比べて太さも多さも倍近くはあるだろう。
「ふむ……少し面白いが、取るに足りんな」
一斉に発射される水の槍。各方角におよそ十五本、身体強化で補うには少し面倒な量だ。先ほどのように魔力を『抜く』ことも難しい。ならば―――。
「『紫黒の轟音』」
竜の魔力を少しばかり喉に集め、口で破裂音を鳴らすと同時に全方位発射。咆哮とは少し違ったものだが、全方位攻撃が出来る点では優秀。
魔力の込められた音の波動で水の槍は空中で震え、押し返されるように逆の方向に飛んでただの水へと戻って地面に落ちた。
『黒龍ってすごいな……こんなことが出来るのか』
(まだ片鱗にも満たぬ。この程度で驚いてもらっては困るぞ)
紫と黒の魔力を扱う龍、通称『黒龍』には魔眼を生まれ持つ性質があり、ヴリトラが持つ魔眼『流天』は魔力の流れを見る魔術。魔法は魔力を一点に集中させて発動するものであり、ヴリトラはその魔法の「核」を見て壊すことで魔法を物理的に無力化する。
先程も水の槍が飛んでくる瞬間に横から手を入れ、魔法の核を中指で引っ掛けて無理やり壊したもの。行うには相応の動体視力と腕力が必要になるが、その点はヒサメの身体だけでは足りないので身体強化でカバー。
(黒龍は生まれつき何らかの魔眼を宿す、その眼の希少価値から乱獲されたこともあったそうだ。我も未来を予測する魔眼などを所持していたら狩られていたかもな)
『乱獲か、希少価値ありそうだもんなぁ……ってことは眼球自体が魔術なのか』
さて、いい加減にどうにか場を変えたいところだ。この場の狙いは『戦わずして勝つ』、これが全てである。
我の魔法は破壊と蹂躙に特化している、この場で死人を出さずにやり過ごすのは魔法を使うと判断した時点で無理難題だと思うのが常識だ。
ならば向こうが落ちるまで防御を続ける。こちらには魔眼と身体強化、それだけで十分だ。
こちらに向けられた魔法を全て魔眼で捉え、魔法の核を掴んで絡まった糸を解くように引っ張るだけ。
自己再生にも魔力を消費する、傷を受ける前に何としてでもすべて無効化して身を守る。防御技でも防御を兼ねた攻撃技でもない、攻撃技を防御に使うのだ。
ひたすら守りを続け、相手の肉体的・精神的疲労を誘発。それが出来れば爪の垢程度の魔力でも吹き飛ばすのは容易いことだ。
飛んでくる水の槍を横から手を入れて崩す、地面から生える棘のような水の剣を足で蹴り崩す、上空から降りかかる小雨のような弾幕を棒立ちで当たる部分だけを狙って崩す。
たとえどれほど大きくても、どれほど小さくても魔法は必ず中心部が存在する。それを見極めて指で突く、引く、解く。魔法を魔法で相手するのではなく、内部から分解する体術の一種。
「…………俺の」
「ん?」
先程から五分近く続いていた水魔法の攻撃がピタリと止む。見た感じだと魔力切れのようには見えないが息切れは確認できる、確実に体力は削れているだろう。
「俺の魔法は、こんなに脆かったのか」
怒りとも恐怖とも取れないあの表情、あの怒りと悔しさは自分に向いているものだ。
相手が強い場合、それは恨む理由にならない。相手を恨んだところで弱くなるわけではないからだ。恨むべきは自分自身、相手に届かない自分の力量不足を恨むのだ。
そのことに自分自身で最後まで気が付かないものもいれば、幸か不幸かふとした時に自分で気づいてしまう者もいる。自分の恨みに押し潰されて道を諦めてしまうことが人間の特徴とも言えるだろう。
「脆いわけではない、実直に言えば『薄い』。攻撃に特化しすぎた故に硬度が追い付いていない、今まで防御されることなど考えてこなかった結果だ。さて―――」
首を鳴らし肩を回して、背中の筋を使い魔力を体内で循環させる。この行為は放出用途が無いため意味がない魔法だが、魔力感知が出来る魔法使いなら話は別だ。
「『次は』我をどう楽しませてくれる?」
凄まじい速度で体内を廻る魔力は威圧となりうる。これをいつでも放つことが可能、そう見せつけることが出来る。もっとも、肉眼か魔力観測可能な計測器限定だが。
「さあ、もっと見せつけよ。魔術を、実力を、根性を、生き様を。もう見せるものが無いのであれば……こちらの番だ」
角から体内に流し込んだ魔力を喉に向かって一点集中。竜の構造ならそこまででもないが人間の体内構造だといかんせん口から胃にかけての作りが単純すぎて魔力を留めにくい。
『ちょ、ちょっと待てヴリトラ!何しようとしてんだ!?』
(無論、息吹だとも。慣れない身体だ、十分な手加減になるだろう)
どうやら我が主はよほど我のことを危惧しているらしい。確かに体を貸している異常は道理かもしれないが、我が誇り高き黒龍の末裔であることも頭には入れておいて欲しいものだな。
「我は無駄を好まん。故に一撃で吹き飛ばして見せよう。己の無力さを知り、果て無き空を見上げる。それに意味を見出すかどうか―――楽しみにしているぞ」
絞り出すように言葉を吐き、いったん食道に魔力を戻し、首をしならせながら勢いをつけてポンプのように口から魔力の咆哮を吐き出す。
黒く染まった紫色の炎はどんな生物よりも早く、フィールドの端から端まで数秒足らずで届かせる火炎放射。焼き尽くすより勢いで吹き飛ばすことに特化した衝撃波だった。
防御するよりも早く届き、足で耐えるより早く壁へ押し出し、試合終了の判定よりも早く相手を闘技場の外へ、壁を突き破って吹き飛ばした。
「威力の割には消費が大きかったな。やはり見栄を張って使う技ではない」
全七試合、代役を含む一体七の試合は全てアサカヒサメもといアルゴノーツ選抜メンバーの完全勝利で終わった。
この時のギルドはレイラ曰く「食堂はうるさすぎて音が聞こえなかったわ」との事。
肩こりって、どうすればいいんでしょうね。
肩こりによる頭痛に悩まされてロクにキーボードつついてませんでした。あとインフルにもなってました。毎年A型にやられてる気がします。
なんかやっつけ気分で終わった気がするけど一段落。あとはいつもの茶番に戻る……戻りたい。
どうやらユニーク4000人らしいです。ここ最近サボり気味だけどちょっとずつ伸びるのって嬉しいです。




