#115 第五試合
『さァさァ次だ、第五試合!両者共に控室入りの情報が入ってきた、次は誰だ!』
「順番的に代理最後だけど誰?」
「ミズキですね。あの面子だと一番戦闘タイプですけど」
「殺しちゃダメって言ってある?」
「……不安になってきました」
さすがにそこまでではないと思うが、もしかしたらルールも読んでいない可能性がある。その点は本当に「ルールくらい理解しておいてくれ」と願うばかりである。
「ヒサメ君と違って容赦ないからね、彼」
「容赦ない、っていうか自分の正義感に忠実なんだと思いますよ。俺みたいにふわふわした感じじゃないし。座右の銘しっかりしてそう」
「ヒサメ君の座右の銘は?」
「『不可も可の内』ですかね」
この世界に座右の銘は存在するのか、ぼんやり答えながら映像に映る控室内部のモニターを覗く。
「……寝てる」
「……寝てるね」
「えっ、これどうするんですか!?もうすぐ始まりますよね!?」
「どうしようか……これって失格にしていいのかなぁ……」
同時刻、控室。
「すかー……んび、んご……」
ミズキは演技などではなく、本当に長椅子で寝ていた。鼻提灯まで出して見事な熟睡っぷりを映像モニターに映していた。
「これ、起きんか」
「んぐぉっ!?」
突如どこからか出てきた手刀により鼻提灯もろとも顔面に一撃を食らう。寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると手刀の主はカリンだった。
「お主の番じゃぞ、いつまで寝ておる」
「……えっ、マジですか……案外早いな、姫様は何秒で勝ちました?」
「二秒もかからんかったぞ」
「うっわ、それは勝てそうにないな……」
ミズキは辺りをきょろきょろして自分の刀を発見。拾い上げて刃こぼれを確認するその時、カリンにいきなり何かを投げつけられる。
「ぃでっ」
完全に不意打ちで妙に硬く重い、もうちょっと速度があればこのまま気絶していただろうな、と思いつつ頭を押さえながら前後回転。
「いきなり何するんですか、てか何投げたんですか……」
「今回の試練じゃ。この戦いはそれを使え」
『それ』が何を指しているのか分からずに一瞬思考が停止し、先ほど投げつけられたものだなと理解して足元を見る。それは―――。
鞘が無い、抜き身の刀。
「…………いや、あぶねぇな!?」
「お主が寝ぼけておったから丁度良いと思うての」
「柄以外が頭にぶつかってたらもれなく控室で不審死ですよ、俺」
この人は本当に人の命を何だと思っているんだ。その割にはこういう危ないちょっかい系統は一度も失敗したことが無いから困惑する。従者としてはいつか失敗するんじゃなかろうかと心配で仕方が無い。
「で、何ですかこの刀。新しく作ったとか?」
「妾が作った」
「……もう驚きませんよ」
堂々とした仁王立ちで何を言い張るんだこの人は。いつから鍛冶職人に転職したのか知らないが、出来栄えは非常に良好。全身が漆塗りのように黒く光る、それでいて歪みのない刃文。黒刀の実物を握るのは初めてだ。
「それはコウキが隠し持っていた鉱石の山に混ざっておった石で作った刀じゃ。見たことない素材であったから隕石だと思われる」
ああ、そういえば炭鉱夫していた時があったと言ってたなとミズキは思い出す。随分と少なくなってしまった兄弟の一人、彼は自分が旅で集めたものを国外の平原に穴を掘って貯めているんだとか。
「で、それで作ったのがこの刀って訳ですか。……これ、もしかして」
「素材的にはヒサメの小型大砲とほぼ同じものだと推測した」
「…………あれ、隕石でしたよね?」
「だから隕石だと言っておるであろう」
まさかの、ここにきて武器のアップグレード。できればこの闘技場に来る前に渡してほしかったのだが、事前に知っていてもこの人は渡してくれなかっただろう。
「えーっと……今回の試合はこれを使えと」
「うむ。その刀は魔力伝導率が異様に高く、岩を切っても刃こぼれ一つ起こさない硬さの変わりにとても重い」
確かに今まで使っていた『神鳴』と比べると随分重い、二倍とまではいかないがそれなりの重量がある。以前と同じ感覚で扱えば個々の動作が間に合わないだろう。
「お主の刀もあの鍛冶老人が良く作ってくれておるが、それでも素材はただの安い金属。その試作品を元に情報を集めて正規の品をあの鍛冶老人に作って貰うのが狙いじゃな」
「そのテストプレイが、なんで今日なんですかね」
「善は急げじゃ。注目も集まっておるし良かれと思うた」
良くない、全然良くない。不慣れな武器で一対一をすることの危険性はギルド入りたての頃のヒサメが身をもって証明している。
「はぁ……今日は何秒ですか」
これも姫様からしたら暇潰しの一種なのだろう。それでも俺は従者、主の銘に文字通り身を粉にしてでも応じる。それが仕えるものの使命であり、生きがいなのだから。
「ふむ……十五秒じゃな。その刀は最悪捨てても構わん、十五秒で相手を捻じ伏せよ」
「了解、仰せのままに」
抜き身の刀を手にして、ミズキは控室を後にした。
先ほどまで光の当たらないような薄暗い控室にいただけあって、いきなり日の当たる場所に出てくるとうまく目が働かない。辺り一面の眩しさの中、反対側に誰かが立っていることだけは分かる。
眼が冴えてきて見えるその容姿は金髪のつんつんした髪の毛の少年。青年ではなく少年、ミズキよりさらに年下のように見える。
「初めましてお相手さん、自己紹介の前に刀を抜くのはちょっと非常識じゃない?」
「あー、悪いな。この刀には鞘が無いんだ、理解していただきたい」
意外と律儀な対応が来たのでこちらも精一杯の律儀な対応を。鞘が無いので切先を地面に突き刺して無力の素振りをする。
「僕はタングス・トリニアム、好きなものは雷と雨!あ、雨ってのは飴と雨をかけていてー……」
「ほーん。俺はミズキ、ひょんなことからこの国に流されてきた雷の剣士だ」
その発言の直後、言葉の代わりに両者の間でパリッと何かが弾ける音がした。
「雷属性かぁ!いいねぇ、僕の雷光に耐えられる自信は?」
「大アリだ。初手から全力で来いよ、十五秒で潰してやる」
両者の表情筋が同時に上がった瞬間、お互いの魔力が干渉して微弱な放電が発生した。その放電は両者の間でバチバチと音を立てて弾けている。まるでお互いの殺気がぶつかり合うように。
「魔法は『武器』さ。その一手で相手を突き刺し、相手を動かなく出来る。どんな武器より圧倒的に使い勝手が良くて便利なものだよ」
「いいや違うな、魔法は『手段』だ。自らの一手を極めるために必ず踏む一歩、その力を用いて自らの最大の一撃を生み出す。その為の刀だ」
『有利不利関係なしの同属性対決ッ!勝つのは魔法の刃か、それとも物理の刃か!いざ―――』
これでもかと言わんばかりの完璧なタイミングで挟まる開始の合図。目を閉じ、息を吸いながら刀に手を伸ばし―――。
『始めッ!!!』
合図とともに右手で刀を掴んで地面から引き抜いた。
雲一つない快晴の空に、二つの雷雲がぶつかり合う。
第五試合
ギルド無所属:狂乱雷人「タングス・トリニアム」
対
ギルド『西』:従者「ミズキ」(代理:アサカヒサメ)
ヒサメの座右の銘『不可も可の内』は、私が友人に「『他力本願』みたいな、やる気のない感じの座右の銘を教えて」と無茶ぶりをしたらこんなものが出たのでそのまま採用しました。
ちなみに、その友人自身の座右の銘は『三文芝居で儲かる人生』だそうです。ほんとに何を考えて生きてるんだろう。




