#109 第一戦
(まさか覚えられていたとはな。言い表せない感情とはこのことだな)
ルイエは一人、闘技場でぼんやり空を眺めながら時が過ぎるのを待っていた。
会ったのは随分と昔、しかも家柄の立場上覚えることの量は段違いだ。てっきりあの家で勉強まみれの模範的有能マシーンになるとでも思っていたのだが。
「まともに遊ぶことが出来なかった友達のことすら覚えているんだな、あの人は。親の言うことに逆らうな、ではなく、もっと友達を作っておけと言うべきだったか」
どちらの教えも忠実に守った結果がこの体だ。きっとどこかでブレーキを踏み誤ったのであろう、教えなんてどこかへ消え、それどころか一族が消えてしまった。
「貧相な家に生まれたかった、と言ってしまえば反感を買ってしまうな。高貴な家に生まれるのなら未来を予測する目が必要、ということか」
それもいくらか語弊があるな、と考えていると、闘技場の反対側にある鉄製のドアがゆっくりと開く。
「いざ!私は第十席……あれ?」
「すまない、大将は最後まで出たくないそうだ」
「えええぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~…………」
気合いを入れて出て来たのに相手不在により急激に下がるテンションが遠くからでも目に見えてわかる。『強い奴と戦いたい』とか言い出す戦闘狂は雷刀のガキだけで十分だというのに。
「代理システム、知ってたけど使われるとこれはこれでがっかりする……」
「アレが戦闘向きの人間ではないことは知っていただろう。救済処置があれば真っ先に逃げるのは目に見えていたな」
「えーっと……あなたは誰?代理として連れてこられるんだからそこそこ強い感じ?」
「全然。くじで選ばれたから来た」
一つ一つの言葉でがっかりしていく様はもはや見ていて面白い。そこまで楽しみにしていたのだろうか、やはり考えていることが分からない。
「……まあいいや……私はハヅキ、第十席の刀使いよ」
「そうか。俺はルイエ・アンシェリア、ただの魔法使いだ」
「……えっ?あれ、ギルドナンバーとかなかったっけ?西ってあるんじゃないの?」
「無所属だ」
「ほんとに何の関係もない人連れてきてるんじゃん…………」
床に蹲って頭を抱えるほどか。こちらを下に見られているのか理想が高すぎたのか、どちらにしろ相手のやる気はかなり削がれているだろう。
『舞台には双方出揃った!いざ―――』
「む、そろそろ始まるか」
『始めッ!!!』
案外前置きなく始まるものなんだな、と思いつつ顔を前に向ける最中。見えない部分で何かが沸き立つような、嫌な予感がすぐそこまで迫っている感覚がする。
どうにか身体を後ろに引きながら出来るだけ首を後ろに―――横薙ぎの刀を間一髪でよけた。
「チッ、反応だけは良い」
即座に倒れる身体をさらに倒し、両手をのけぞった状態で地面をはじき返す、大道芸のような技だが筋肉バカの赤毛に教えられて以来は何かとできるようになった。改造された肉体は案外便利でもある。
「悪いな、今やただの魔法使いだが少し前までは剣術使いの貴族だったもので」
腰から手のひらに収まるサイズの金属製カプセルを取り出し魔力を流し込む。このカプセルはヒサメの魔導書を元に考案されたもので、魔力を流し込んだ時点で発動する機能。
本来ならば魔力を流し込んで魔法を使うものの、この仕様では魔力を流し込むと『金属を含んでいれば』関係のない道具まで展開することが出来る。
右手にあったカプセルは急速展開、姿形を一瞬で変えて使い慣れたクレイモアへと形を変える。
そして手首のスナップで斬ることよりも相手を押し出すことを重視して体当たりのように突撃。
「うっ……!?」
ハヅキはわずか数秒で起きた事態に対応しきれず、衝撃を直に受けて大きく後ろに引かされる。刀狙いでもなく本体狙いでもない、ただ衝撃で相手を下がらせることに特化した威力。
「ふぅ……人間離れした筋力、いきなり出てきた剣、そして反射神経。……間違いない!あなた妖怪ね!」
……なんでコイツは相手に指を指してまで堂々とこんなことを言えるんだ?
「誰が妖怪だ、れっきとした魔術師……いや、ちょっと違うな」
もう一つ金属のカプセルを取り出し、左手で魔力を流す。小さな魔法陣が発動するとともにカプセルは形が歪み、小さなチップのようなものがいくつか生成された。
「我が名はルイエ・アンシェリア、アルゴノーツ工房班特級魔術専門、魔法学錬金術師だ」
「自己紹介ご苦労様、楽しい試合にしましょ!」
「断る。三徹の研究者に無理をさせるな、早く帰って寝たいんだ」
左手に生成された黒いチップを空中にばらまき、それとは無関係にルイエは突撃。
(どうする……どっちを警戒する?)
相手の手の内が見えない以上は警戒せざるを得ない。上のチップは何が起こるのか分からないし、それを注意しすぎては正面の剣劇に勝てない。もしかしたら第三の選択肢が突如現れるかもしれない。
(いや、正面の件は威力に気を付ければ見切れないほどの速度じゃない!だとすれば警戒するのは―――)
「上だな」
(上のチップ!!!)
…………あれ?
今の声はどこから―――。
クレイモアが喉元に迫っていたのは、瞬きをした次の瞬間だった。
「うっ!!!?!!」
どうにか剣先が追い付いて防ぐも完全に弾かれてしまい、先ほどのように後ろに飛ばされるだけでなく完全に体制を崩されてしまった。
「な、なに……今の……」
「ただの先読みだ。ついでに言えばチップに効果はない」
一瞬遅れて宙を舞った黒いチップがバラバラと地面に落ちる。とても軽い音でカランカラント金属音が小さく地面に響いた。
「魔術もロクに使えず、それを補う剣もない。こんなんじゃギルドの雷バカよりつまらないぞ。帰らせてもらう」
何なんだ、この男は。
剣に強いわけでもなく魔術を誇るわけでもない。強そうとも感じない。だが、恐怖がある。後ろに何があるか分からない、手が完全に見えていない、未知の恐怖。
体勢を立て直そうにも立ち上がれない、体がその通りに動いてくれない。動くが体のどこも小刻みに震える、麻痺のような感覚。
「……待てッ!!!」
その不安を押しつぶして、しゃがんだ状態からクラウチングスタートの体制で踏み切って突撃。日本刀ならではの形状を生かした、伝統の居合抜き。
(こっちを向いていないなら刺せるし斬れる!殺さない範囲で、心臓からちょっとずらして致命傷を―――)刀は、本来は突き刺すものとして生み出されたもの。斬る用途と突き刺す用途で刀の形状は変わってしまうが、どちらでも一応の役割は果たせるようになっている。
後ろ向きの背中、右胸を一点に定めて刀を押し込む、その瞬間。
ルイエの体は、少し右にズレた。
「―――えっ」
制止しようとも止まれる速度ではなく、問答無用に刀はルイエの左胸を突き抜ける。
(やばっ、これは殺し―――)
だが、違和感が既に三つほどあった。
血が出ない、刺されても何の反応もない、感覚に厚みがない。今、貫いているものは、何だ?
「人であれば心臓を突けば死ぬと思ったのが間違いだったな」
その銀髪の人物は、心臓を貫かれても血も出さず、声も上げず反応もしない。ただ一言、そう呟く。
次の瞬間、ハヅキの視界はどこからともなく噴き出した鮮血で染められた。
何の前触れもなく地面から突き出た無数の黒い棘。四肢に穴を開けるように生えた棘は血で赤くなってゆく。
「まったく、心臓のパーツは整備が難しいんだぞ……一つ間違えば取り返しのつかなくなることも多いからな。にしても、まさかあの長身ジジイがお遊びで付けたスペア心臓がここで生きるとはな」
どう修理しようか、と呟きながらくるりと振り返る。床に転がっていたのは、先ほどまで刀を振るっていた女が血まみれで倒れている姿だった。
「剣は発展途中、魔術を使わず、予測もできず、そして相手を疑わない。さすがに人が良すぎるな、剣の道は向いていないんじゃないか」
相手の言葉、たった一言も疑えない。『チップに効果はない』という嘘の一つすら鵜呑みにしてしまい、そうしてまんまと罠に引っかかる。
『……テンカウントケーオーッ!一戦目からなかなかバイオレンスなオチになってるが大丈夫か!?救急班はすぐさま行ってください!』
「……まったく。見ていてくれと言ったのに未来視もロクに使えなかった。やはり雷バカを当てておくべきだったな」
過 去 最 高 の 手 抜 き
描写割きすぎじゃないですかね……本来なら二回分くらいにまとめるものをなんで圧縮しようと思ったのか、コレガワカラナイ
いつか書き直すにしても字数すんごいことになりそうで悩み中。しんどいなぁ。




