#107 裏方
アズドラーク王国は中央に王城があり、そこから大通りが数本伸びる構造になっている。その大通りに沿うように商店街が形成され、その近くに住宅が、ということ。
その関係か、大きな闘技場のようなものを設置しようとしてもスペースが圧倒的に足りなかった。
ちょうど一年前のルリアはとても悩んだ、国外に作るのは治安が問題視される、かといって無理やり国内に作って住宅をどかすのは批判が来ないわけがない。
三徹に差し掛かったルリアは、生気の無い虚ろな目で天井を見上げながらこう言ったのだ。
『あ、空に作ればいいじゃん』と。
「で、これですか」
王城の上から見上げるは天空に浮く小島。下から見た感じだと学校の体育館よりちょっと大きいくらいのサイズだろうか、いやそれでも大きいな。
「あれ一体どうやって浮かしてるんだ……」
「詳しい原理はまだ何も。元から浮くことは調査されてたみたいですよ。一度落ちましたけど」
「一度落ち……ってそれ、俺とレイラが行った遺跡じゃねえの!?え、あんな感じに改造されちゃったの!?」
「ルリアさんは資源の有効活用と言ってましたけど」
原理の分からないものを勝手に改造して使うとかどう考えても宜しくないけどあの人だったらやりそうだ、というか誰も止めなかったのか。確かにスペースはいらないし被害が想像以上でも空中分解で済むとは思うが。
「……ところで、俺はここにいて大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないですよ、実況席行きましょうね」
「あぁ、うん……え、実況席?」
空中闘技場「エスパニオン」、それは一年半前に突如地面から浮き出た空中神殿が落ちてきた後に改造してもう一度浮かせたもの。
浮遊する原因は内部にある鉱石に魔力が反応することのようで、魔力供給源を用意すれば常に浮かせられることも実験済み。空中のために観客もおらず、ただ一対一の試合をするためだけの施設。
唯一の欠点は観客席が存在しないので、試合の内容は映像と実況で伝えられることだろう。
『ンハッ!盛り上がってるかーーーぁぁぁぁぁああああい!!!!!』
お祭り雰囲気にやられた男の陽気なコールで国のあちらこちらから絶叫のような返事が聞こえる。期待度が高いどころではない、視聴率で例えるならば90%は超えていてもおかしくない活気だ。
『お昼休みは終わり、いよいよこれから拳と魔力と権力争いの後半戦がスタート!実況席はこの俺、グランツと毎度おなじみ第一席ルイゼリアさんに来てもらってるぜ!!!』
「……何してんのグランツ」
『王室管理の方々から直々に実況放送の司会役で呼ばれたんですよ、いやぁー人気者って大変ですねぇ!』
まぁ、確かにグランツはあのギルドの中でもかなり民衆との関わりが強い。ギルドの潜伏・隠密作戦担当をしながら新聞会社のライターもしている、数少ない通常職を持つ者の一人。
『さて、もう一人の実況枠は誰が来るのか!?去年通りならアルバさんが来るがいったい誰が来る!?』
ここの実況席は「その時試合に出る人間を除いた最高席次二人」が呼ばれる。去年は常にルリアが戦っていたため実況席はアルバとキールが呼ばれ、氷河期のような会話が続いていたのだとか。
「あっ、こんちわ」
何の合図も脈絡もなくドアを開けて来たのは、今から出番があるはずの第二席だった。
「……えっ、ヒサメ君?えっ、ちょっと!?行かなくていいの!?」
「それに関しては大丈夫です、代理使ったんで」
『前代未聞の事態が発生!まさかの出場するはずだった第二席が実況席にいるッ!!!』
「去年から始まったんだから前代未聞もないでしょ……ってかグランツさんテンション高いな……」
そうか、代理の希望用紙はちゃんとアルバさんに出してきたから伝わってると思ったがこっちには伝わっていなかったか。まあ、急な事態……というかこのシステムがあるのを知ったのがさっきだからしょうがない。
「ちゃんと代理立ててきた?」
「多分大丈夫です。逃げてたりしたらヤバいけどそんなことするような人じゃないの知ってますし」
「……呼ぶ人を私は知らないんだけど、一応それなりに強いんだよね?」
「少なくとも俺よりかは強いと思います。いや俺が弱いのか?どっちだろう……」
さりげなくスマホを見ると驚異のスピードで流れるタイムライン、俺に対する期待が高くてなんか嫌味に感じる。期待してくれるのはいいのだが、期待を裏切ったからってがっかりされるのは少々癪。
『さて、それでは両者同時に入場……って、え?片方先に入ってる?マジ?』
右耳に引っ掛けたスピーカーのようなもので情報を聞きながらマイクを握るグランツ。なんだなんだと疑問の声が流れる中、闘技場の映像を見ると―――。
『オイ』
「うおっ!?」
スマホから急に音声が鳴り出す。着信すらもないのか、と思いつつスピーカーに耳を当てるとルイエの声が聞こえる。
『入場門が勝手に開いてしまったから早めに出てきてしまったが大丈夫か?ルール違反とかになってなければいいが』
「あー、それは大丈夫じゃないっすか?さすがに女っと早めに出てきたくらいで失格はないでしょ。ねぇルリアさん」
「過去に例がないけど大差ないし平気平気」
「だそうです。頑張ってください」
『……今更だが、その部屋はほぼ身内占めではないか?』
ブッ、といきなり切れる。いつの間に通話が始まっていたのか分からないが、もしやこちらの意志がなくとも始められるようなそんな機能があるのか?それともそんな指向性を持った魔法が?
「……確かによく考えれば全員ギルドの人ですね、この部屋」
『おいおい、俺は引く手数多の状態からわざわざ選んであのギルド所属してんだぜ?』
「でもグランツさんギルド抜けたら家無いでしょ」
「くぅーっ!後輩に中々キツイこと言われてる!!!」
「ヒサメ君何か飲む?まぁ私もグランツも酒飲んでるんだけどさ」
「道理でこの上がり様……ΣAXください」
王城最上階の一室を貸し切って実況部屋にしてるのは思い切りが良すぎるが、まぁこれはこれで楽しいからいいとは思う。……俺がこの後あの場に立たなければいけないことを除けば、だが。
「……ん?誰か来ますよ」
「アルバじゃない?さっきまで書類持って走ってたし」
ドアを開けたのは確かに予想通りの人だったが―――。
「あっ、アルバさんどう―――おぅっ!?」
突如、襟首を掴まれてそのまま一瞬の間に部屋の外に連れ出される。もはやその手の専門なのかと思えるほどに手際が良かった。
「なっ、何ですか!?」
「それはこっちのセリフだ!アイツを……どうやって呼んだ」
「アイツ?……あ、ルイエさんのことですか?」
そんなに呼んだら行けない人だったか、と考えてみると本人がいろいろとヤバいとかそれ以上の原因があった。
(……そうだ!あの人記録上だと死んでる扱いなんじゃ!?)
死んだ者の蘇生にはかなりうるさい、とは聞いているがまさかそういうことだろうか。確かに見られたらマズい扱いではある、というかジルオさんの独自研究の結果だから公表するのも結構危ない。
「アレは……私の従兄弟だ」
「………………はい?????」
時間がねえ!金もねえ!でもやることはいっぱいあるんだよなぁ!!!
腕と頭を増やしたいなと思ってます。人体改造が合法化される未来はどこ……?




