#99 統合協議
死に美しさはあるのか。
死に愉快なドラマはあるのか
死に晴れやかな幸せはあるのか。
そんなはずがない?そんな疑問こそ「そんなはずがない」。死はいつか人として必ず訪れるもの。訪れなければそれは生物としての証明が成り立たなくなるからだ。
いつか辿り着く生物としてのゴールを、一体誰が不幸で嫌われる物だと決めた?
人としての全てを散らして残った亡骸が、一体誰が悲しくて汚い物だと決めた?
死とは、言わば「ゲームのカセットを抜く」ようなもの。生まれた時に自分のゲームカセットを刺し、死ぬ時に抜く。人生はセーブもチートも無いロールプレイングだ。
あなたはプレイした後のゲームのカセットをすぐに捨てるだろうか?人によって答えは違うだろうが、セーブファイルを消すまではそのカセットにプレイした思い出があるはずだ。
人もそのように、その人が死んでも他の人に「思い出」と言う名のデータファイルが残る。死んでも何も残らない訳じゃない、そこにいた痕跡が記憶になって留まり続ける。
さて、ここで話題を戻そう。なぜ人は、いつか直面するゴールから逃げるように生きるのだろうか?ロールプレイングゲームを隠し要素を含めて完全にやりこんでからゲームを終える人ならわかるであろう。
それはきっと、その人生でまだ拾えていない隠し要素、つまり『未練』があるのではないだろうか―――。
「ヒサメ、起きなさい」
んあ、と返事する前に顔面に微妙に冷たい何かが叩きつけられて目が覚める。
眼を開けたそこにいたのは、洗濯物で顔面を濡らしてくるレイラ。
本日は復活してから二十四時間換算で五日ほど。俺が生き返ったことが地味に広まり始めて騒がしさが若干落ち着き始めたころだった。
「んぁ!?え……何?」
「何時だと思ってんの、外は随分騒がしくなってるわよ」
呆れた顔をしているレイラの顔を見てすぐさま時計スマホを掴む。普段ならルイラが起こしに来るのになぜレイラが起こしに来ているのか。
「……あれ?そんなでもない?」
スマホに表示された時刻は朝の八時半。いつもは九時にルイラが起こしに来るからいつもより遅いわけでは無い筈だが。
「なんで今日はレイラがこんな時間に?」
「……アンタ、ルリアさんから聞いてないの?昨日から言ってたじゃない」
レイラは部屋を少しばかり見回した後、部屋のドアについた投函口に入っていた一枚のパンフレットを取り出して見せる。
「あー……復活してから投函口見てなかったな、なんだこれ……統合協議?」
珍しくパンフレットに英語が書いてあった。名前からして何かを決める協議会の様なものだろう。項目がいくつもあるが読めないのでスルー。
「外の騒がしさはこれか?ただの会議なのに国全体で盛り上がるって何なんだ……?」
「会議もあるんだけど……国のお偉いさんが集まって『実力を競う大会』でもあるの。去年から始まったからヒサメは知らないのも当然ね」
説明によると、第一席から第十二席までの計十二名が国の方針や国内の統治状況の取り決めを行い、後半戦として「席の取り合い」をする個人戦があるんだとか。
一通り内容を聞いて「ほーん」と適当に流しておく。いや、確かにそれは一大ビッグイベントなんだろうが……わざわざ外に飛び出してそれを見に行こうとはそこまで思わない。スポーツ観戦で外出することはあまりしない、ごろ寝して柿の種食べながら野球を見るタイプなのだ。
「ギルドも朝からお祭り騒ぎよ、ルイラが第十二席に呼ばれたらしくて朝から行ったわ」
「ルイラが!?あ、でも俺が寝てる間に勲章とか貰ってるんだっけ……」
「黄枠章でも随分有名な方らしいから……呼ばれるってことは国民からの人気も高いんでしょう」
まあ、確かに有名になってそうではある。アズドラーク国民の人には良い意味で、元ウェルギス国民の人には悪い意味で。不細工な訳でもない、というか普通に可愛いとは思う。……あの振り回されて満身創痍になりえるテンションさえ気にしなければだが。
「……ほー……そうか、ルイラ出てるのか……じゃあ見に行ってみるか、王城だっけ」
「何言ってんのよアンタ、それの開催時間見てみなさいよ」
「ん~~~~~~~……えっと、これは……あと三十分くらいか?」
随分前にも一度触れたが、この世界の時間軸は日が昇って来た時間が0時だ。その為場所や季節によって時間の進み方が少し違う。
時間は数字で書かれているからまだいいのだが、その時間の狂いが計算を狂わせるのだ。
「……うん、え?だってまだ開催してないじゃん、どこに問題が……」
「…………本当に察し悪いわね」
呆れ顔で溜め息をついたレイラは、ベッドの反対側にある作業机の上から何かを手に取ってこちらの顔面目掛けて投げる。寝ぼけた動体視力でかろうじてキャッチ。
「うおっ!?何すんだ……えっ、これ何?」
「一年半寝かされてボケてるみたいね。自分の立場分かってないの?」
こちらを馬鹿にするような表情で言葉を放つレイラ。投げられた勲章に自然と視線が向く。
確かこれは俺が寝ている時に授与された何かだったはずだ。あの大戦の功績が詰まっているらしいが自分自身の功績の記憶が無いために貰っていいのか不安になったものでもある。
「ルイラが持っているのは黄枠章、星が三つの勲章に青緑黄色のリボンが計三つ付いてる物よ。それを踏まえてアンタの勲章はいくつかしら?」
言われて勲章をまじまじと眺める。メダル部分は金色と銀色の星形を合わせたような十角形、リボンは虹色にも見えるような、青から赤、さらには紫まで含んだ豪華仕様。
星の数は……五角形の角を指し示すような、五つの星。
「…………え?」
「アンタの勲章は紫枠章、この国で三つしか存在しない紫冠位の勲章よ」
説明をされて数秒間脳が理解できていなかった。いや、数秒経った今でも理解できていない。俺が最上位の勲章を授与されている?なぜそんなことが?
――――――――――――――――――正気か?
「いやいやいやいやいやいや、なんで、何で俺がそんなことになってんだよ!俺何もしてないぞ!?」
「したじゃない。あの大戦で、自分を犠牲にして、相手の大将の首を握り潰したでしょう?」
言われて理解した、そして理解したくなかった。そんなことになっているのか、いや、そんなことなるのか。
「アンタを起こしてんのはそういう事よ。アンタに興味があるとかないとか関係なしに国から直接呼ばれてんだから行きなさいっての、決定権は無いわよ」
「なあぁんでえええええええぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
開始時刻5分前、アズドラーク王城(旧ウェルギス王城)正門。そこには今回の会議で国から呼ばれた、一定以上の名声を持つ十三名が集っていた。……一名を除いて。
「やっぱ朝呼んでおくべきだったかぁ~~~……」
シワ一つないタキシードを着たルリアは顔を抑えながら正門前の階段で座り込んでいた。女性は本来ならばドレスなのだが本人の要望でこのような格好に。
「私はてっきりルリアさんが呼んでいると思って……」
「いや、うん、でもルイラ考えてみて。私昨日からずっと王城にいたからね?」
「……素直に私が起こしておけばよかったですね……」
二人揃って溜め息を吐き、これはどうするかと頭を抱えそうになった瞬間。
『もしもしこちら42、今から王城に向けて65を行かせるわ。43どうぞ』
ルイラにかかってきたのはレイラからの無線。連絡はしていなかったがどうやら感付いてくれていたようだ。ギルドナンバーで手短に内容を伝える。
「お姉ちゃん!行かせるって……ここまで結構距離あるよ!?」
『安心しなさい、亜人種はそう簡単には死なないわよ』
『嘘つけ!俺が結構簡単に死んでただろうが!』
『アンタはさっさと支度しなさい。今からヒサメをそっちに投げるわ。回収よろしく』
通話にヒサメの騒ぎ声が若干入っていたがお構いなしに無線が切れる。どうにか間に合う手段で送ってくれるのはありがたい。だが―――。
「……投げるってなんでしょうね?」
「さあ……ウチのギルドには投石器なんて無いよ?」
「えっ、投げるってそういう事なんですか!?」
「そうなんじゃないの?……あっ、ほら」
いち早く察知したルリアが空を見上げて指をさす。それと同時に徐々に大きくなる、どこからか聞こえる不思議な叫び声が。
「……ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!????」
「……えっ!?ヒっくん!?」
「なるほど、『回収』ってアレを受け止めろって事だね」
確かに間違っては無いね、と満足そうにうなずくルリアと何を言っているんですかと焦るルイラ。上空から刻一刻と地面が迫るヒサメはどうしたものかとパニックになりながらも着地方法を模索。
「こんな理不尽バッドモーニングあってたまるかぁぁぁあああ落ちるぅぅぅぅ!!!!!」
まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。レイラに右手で掴まれたと思ったらそのまま魔法を発動されて上空まで打ち上げられるとは。それでいて着地は自己責任。
「ヒサメくーーーーーん!!!!!!!!」
突如、地面の方から名前を呼ぶ声が聞こえる。まだ地面まではいくらか距離があるがそれでもはっきりと聞こえるほどの大声はルリアさんだろう。
「どうにか自力でがんばってーーーッ!!!」
はっきり聞こえるだけに聞きたくなかった。なんだその責任完全投げの暴言は、あの人は俺に翼が生えるとでも思っているのか?竜だから生やせるとは思うが、その場合精神的な制御が不可能なのでほぼ無理。
(どうにかってなんだよ、どうにかって!……この状態で俺ができるのは竜化とスマホだけ、でもどっちも落下ダメージ無効なんて能力付与できるものあるわけ……)
全身に感じる風を受けて、迫りくる地面と自ら感じる焦りとは別に頭の中は驚くほどに単純明快で簡単な最適解を導き出していた。その手段が実行できるかどうか?そんなもんじゃない、実行できなければ大勢の人の前で肉塊を生むことになってしまう。
落下ダメージを受けない、要するに傷を受けないようにすればいいのだ。ならば―――。
「右腕だけを竜化させて着地……いや、右足で落ちた方がいいな!んぎぎ……空中でスマホ取り出しにくいなオイ!」
着々と近づく地面を視界に捉えて慌てながらズボンのポケットに入ったスマホを取り出す。最近はロック画面を開けるとすぐヘルスケアに移るようにしてあるのだ。
「足の竜化は初めてだが出来るかどうか……あ!?なんで押せねえのこれ!?」
まさかの緊急事態、足の部分の竜化ができない。正確には押しても反応しない。これはもう右腕から受け身の姿勢で落ちるしかなさそうだ。
「右腕を斜め下に構えて、頼む、頼むぞ……!」
『頼まれなくともやっておる』
今までのことを全て知った上でなお呆れているような声が脳裏に響く。
「えっヴリトラ!?ちょ、あ―――」
その日、アズドラーク王国では国の方針と実力の順列を決める一大イベントがあった。
それとは別に隠れたイベントが一つ。その会議場所に隕石が落ちてきたとかなんとか。
「…………俺、生きてる……」
まあ、その隕石の実態は身内に空へ投げられて、重力に従って落ちてきた何の変哲もない亜人の少年だったわけだが。
「さすがに会議前に死なれても困るよ?」
「……じゃあ受け止めてくれるとかあってもよかったんじゃないんですかね?俺、衝撃で地面に半身埋まってますけど」
竜化を解いて腕を戻し、衝撃で砕けたタイルの山から体を起こして周囲を見渡す。ここは正門だから周囲は八方向に広がる大通りが見える広場のはずだが―――。
「……なんだ、この人数……」
目の前には、視界に収まりきらないほどに人で埋め尽くされた広場が広がっていた。満員電車とかそんな感じじゃなくて、もはやデモに近い。
「事前に言ってなくてごめんね、今日は統合協議って言って……」
「説明はレイラから聞きましたよ。で、なんで俺がそんなの出る羽目になってるんですか」
「理由は二つ。出席者は勲章の上位選抜だから選びようがなかった。もう一つは……ちょっと、喧嘩っ早い人が多いからちゃんと議論出来る人が欲しくて」
「それに俺を呼んだ時点で俺もルリアさんも危なくないですか?」
せめて事前連絡をしてほしかった。ルリアさんですらきっちりした服を着ているのに俺はパーカーだし、いつもの火球筒を今日は用意してない。今から作るにしても材料はギルドに置いてきたから作れないのだ。
生きて帰ることを大前提とするか、と呟きながら人の波を見ると「もしかしたら俺のことを期待している人がいるのかもしれない」と考えてしまって気分が滅入る。
ちやほやされるのは嫌いではないが危ないのは嫌い、実力に見合わない過度な期待はもっと嫌い。期待されていて裏切ってしまった時の目がいくつになっても慣れるものじゃない。
「……あ、よく考えたら俺って他人に期待されるほど頼られてなかったわ」
「ヒサメ君ってポジティブなのかネガティブなのか分からないよね、どっちなの?」
「俺をネガティブにした世の中に聞いてみてください、としか言えないですね」
落下した際に割ってしまったタイルを若干気にしながら闇斎されるがまま城内に入る。門が閉まると同時に聞こえていた歓声は少し小さくなった気がした。
「……ところで俺、朝食まだ食べてないんですけどどこかで食っていいですか?」
「えっ」
「えっ?」
現代地球時計表示二十四時間換算、午前九時。統合協議、開幕。
【いまさら解説:カリン②】
「札使ってたり魔力操作してたり変な剣使ってたり、コイツの能力は何だよ」となりそうなので。
カリンは扱いとしては妖狐、個体によって能力が分かれるタイプです。その中でもカリンは超特殊型、「他人の個体値を複製して取り込む」亜人種能力。虚蝕全知というかっこいい名前があります。
バトル漫画でよくある「能力をコピーする能力」とは違い、複製した相手の能力に加えて寿命、体力、筋力、特技魔力まで複製します。長生きしてるのは種族の寿命じゃなくてこれでただ延命してるだけ。
でも能力はオリジナルに比べて多少減衰したり、一度に使えるのは一つだけで切り替えにクールタイム発生、など割とデメリットもあるっちゃあります。それでも強いけど。
なんでこんなのを思いついたかはサマー〇ォーズを見ながらキャラ案考えてた去年の夏の私に聞いてください。
この章は他人に振り回されないヒサメがある!ミズキの出番もある!なんかいろんな人の出番があります!……それ以外決まってないこと多すぎて何も言えねぇ……。




