#98 黒龍
―――さて、ここはどこだろうか。
四方八方どこを見ても暗黒、とまではいかないが光の届かないくらい空間。その癖に手元は妙にはっきりと映ってくれる。
さて、思い出せるだけのことを精一杯思い出してみよう。確かイザベラさんに数時間付き合わされて、へとへとになった状態で風呂に行ったことは覚えている。そして風呂の中で寝そうになってミズキに引き上げられて……。
―――そこから先の記憶が全くない。風呂を出た後、部屋にすら辿り着く前に寝てしまって誰かに運ばれたのだろう。今も廊下で寝ているのだったらそろそろ誰かに起こされてもおかしくない頃だ。
……なぜ俺が既に寝ていると理解できているのか?それは何の変哲のないドアノブが何にも固定されずに目の前で宙に浮いているからだが。どう考えてもこれは夢に他ならない。
「じゃなければドアがないのにドアノブが存在するわけないよな……」
ゲームやアニメで時折見る精神の部屋、みたいなやつ。まさか俺が経験することになるとは思いもしなかった。
今は不思議な空間にドアだけが設置されているような状況。見るからに怪しくて入りたくないのだが、これがもし何者かによる夢を通じた魔法だったら速やかに脱出を試みなければならないし、そもそも出口が存在しない。
この何もない空間でこの夢が醒めてくれることを祈りながら待つか、それとも鬼が出るか蛇が出るかも分からないこのドアノブを握るか。どちらも不安要素は拭えない。
「……でも、これしか道は無いんだろうな」
後ろにはどこまで道があるか分からない虚無の空間。目の前に存在するドアノブに手をかけ、先にあるものが絶望でないことを祈りながらドアノブを回して押し込む。
「……なんだ、自ら会いに来るとは」
ドアの先も何か変わった光景は無く、ひたすらに続く暗闇の部屋。だた、そこに胡坐をかいて座っていたのは―――。
「…………えっ?……俺?」
オレンジの髪に黒い角を生やした、こちらを少し細い目で睨む青年は、朝起きた時の鏡で見るような俺自身の顔そのものだった。
「『これ』は我だ。お前さんの体を見ればわかるだろう」
「俺の体?……あっ、なんで俺制服なんだ!?よく見たら前髪も黒い……ってことは、角が……無い」
「初めましてだな、我の宿主。我は『ヴリトラ』、遥か昔に角だけになった黒龍だ」
こちらを向いて自己紹介をする俺の姿をしたその青年は、こちらのリアクションを見て予想通りだと呟きながらニヤリと笑う。
「……アンタが、俺の中に入ってる竜なのか」
「少し違う、正確には『接着されている』だ。お前さんの中にいるわけではない。……まあ、乗っ取ることはできなくはないが」
「出来なくはないのか……あっ」
やっぱ竜って危ない奴しかいないんだろうな、と思いながら言うことがあるのを思い出した。聞けるうちに聞いておかなければならない。
「お前、大戦の最後に俺の体使っただろ!あの後なんでか知らないけど俺は別の方向に死にかけで一年半後に生き返ったんだぞ!?」
「知らずにあの魔法を起動したのが悪い。そもそも、あの段階でお前さんの身体が我の呼び出しに耐えられていれば何も問題は無かったのだぞ、もっと身体を強化しろ」
「え、あっ、はい……俺は暴走したって聞いたんだが……」
「我の能力を全て身体に引き起こすのは凡人には無理がある。お前さんの器が足りないせいで我は力を振るえず、最終的に意識を除いた能力のみが呼び出されてしまったわけだ。我のせいではないぞ、強いて言うならばお前さんが身体を鍛えなかったのが原因だ」
なんだろう、偉そうにふんぞり返る俺はここまで腹が立つものなのか。見ていて右頬に拳を叩き込みたくなる。気を付けておこう。
「……ところで、なぜここに来た?面白いものなどないだろう」
「そもそもここがどこだか知らないんだが……アンタがいるってことは俺の中でいいんだよな?」
「正確には我の中、すなわち角の内部だ。扉の外がお前さんが生きる世界、我が表に出るときはその扉を出ることになる」
なるほど、つまり強制的に呼び出す場合はあの扉を開けて引っ張り出すことになるのか。……『自分の中の扉』なんて哲学めいた言葉を現実に見ることになるとは思わなかった。
「……ん?あの扉ってアンタでも開けれるのか?」
「そうだが何か」
「オイオイオイオイ!?それっていつでも出てこれるってことだよな!?さすがにこの管理体制は俺の体大丈夫なのか!?」
「今まで我が表に出たことがあったか?」
そういわれると唸ることになる。出れる状態なのに出ない、それならば俺の体に何かあるのだろうか?
「いや、確かにそうだけど……こんなとこにいて退屈しないのか?竜ってそういう退屈なのは嫌いっぽくてすぐに外に出てきそうなんだが」
「退屈ではあるが、角だけになってから薄暗い箱に入れられて過ごした永い時と比べればどうとしたことは無い。それに、この天井には外の世界が移る」
「外の世界?……俺の眼と同期でもしてんのか?わっかんねえな……」
ヴリトラが指さす天井は何も映らない暗黒で、都会の夜空を眺めるかのように星すらも映らない。見ているだけで物悲しくなるような空。
「……先ほど聞いたな、『退屈しないのか』と。確かにここにいても世界が見えるだけ、実際に触れることも感じることも適わない。しかし、それは竜であった時から何も変わらぬことだ」
そう、目の前に存在する俺の姿をしたものはかつて成熟した個体の大型竜であった。もとより文化や文明は滅ぼす側であり、触れようとすれば防風を巻き起こして崩壊させ、感じようとしても人々は脅威だと認識して攻撃しかしてこない。
「人というモノはとても面白いのだ。自らの感性を分かち合い、合わないものは徹底的に排除しようとする本能がある。同族でわざわざ種を減らしあうのは実に滑稽で非生産的で、それでいてとても面白い」
きっとこの竜が言っていることは戦争のことだ。竜の寿命がどれくらいかは知らないが人間の数百倍はあるだろう。その中で何度人間たちが些細なことで気を立てて、戦を仕掛けて滅ぶまでを見届けたのか。
「我がたとえお前さんの皮を被って歩いても馴染めはせん。我は体験などしなくてもよい、見ているだけで十分だ。だからこそお前さんには生きていてもらう。我の興が冷めやらぬ前に容易く死ねると思うな」
「……ああ、わかった。その為に力を借りさせてもらうぜ。簡単には死なせてくれないんだろ?薄汚く命を繋いででも生きてやるさ」
それでいい、とお互いにニヤリと笑った直後―――。
『ヒっくーーーーーーーーーん!?!?!?』
「おわっ!?」
真っ暗闇の空間の中でどこからか急に大音量のスピーカーで流したかのようなルイラの声が響く。いきなりだったこともあって耳が痛い。
「どうやら呼ばれておるらしいぞ。そろそろ起きろ」
「え?起きるって……え!?何!?」
突如として体が浮遊感に包まれる。どうなっているのかと床を見るがそもそも床がどこなのかが分からない。後方でドアノブがひとりでに回されてドアが開く。
「さらばだ宿主。その人生、とくと見させてもらう」
「まっ、待て!まだ聞きたいことは―――」
叫ぶ言葉も伸ばす手も届かず、体はドアの外に放り投げられる。ドアが閉まってドアノブが戻る音がしたとき、視界が縦に回転した。
「……っくん、ヒっくん!ヒっくん!!!」
「はあっ!?!?!?!?」
勢いよく開いた視界には随分と真剣な表情をしたルイラが。この様子だと十数回は呼んだのだろう、チラリと横目に眺める時計を見るといつも起こしに来る時間より少し早いのも緊迫感が窺える。
「……あ、おはよう」
「……ヒっくん、ちゃんと生きてます?」
「生きてはいる……え、食生活の話?それはちょっと微妙かな」
そもそも朝昼夜三食決まった時間に食えてないのも、と言いかけたところでルイラを見るとどうにもそんな感じの話で和ませられるような雰囲気ではない。
「……え?俺なんかまずいこと言った?」
「……よがっだぁぁぁ~~~~~~ヒっくん息してなかったんですよ!?また死んじゃったのかと思って……えぐっ、ぐすっ」
「えっ、そんなに俺息してなかったの!?」
「やーい!ヒサメがルイラちゃん泣かしたー!!!!!!!」
「朝からうるせぇ!お前はそれしか言えねえのか!!!」
本日の天気は概ね快晴、一部曇り。この数日で理解したことと同時に不安要素もかなり増えましたが、楽しそうなこともたくさんありそうです。
朝は一日のなんたらかんたら、きっと今日も平凡な一日だと思われます。
くおー!(投稿時間に)ぶつかる~~~~!!!
大々的に言わないけどPV2500人突破してました!そんなに読んでもらってるんですか以下略!ありがとうございます!!!
リアルタイムで書いているのであとがき書いてる時間がねえ!みんなは期限を守って宿題や課題を終わらそうね!!!私は夏休みのバイオテクノロジー調査レポートの用紙無くしました!!!




