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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 2.1 竜と王城と紫黒魔術《ヴラックマギア》
101/126

#97 平凡

【7500PV!!!】

すっっっっっっっごいですね……こんな読んでもらえてるんですか……。

次はこんな感じにお知らせできるのは1万でしょうか?それよりもさきに一周年迎えることになりそうですね。

何はともあれありがとうございます!(定型文)


「……ふむ、時間的にもそろそろですね。じゃあここまでにしておきましょう」

イザベラはどこから取り出したか分からない懐中時計を開き、少し唸りながら時計をしまう。部屋にある時計を横目で眺めるとおそらくこの部屋に入ってからに時間は経過しているだろう。

「さて、ヒサメ君は私に何回攻撃を当てられたでしょう?」

「…………4回、ですね」

「残念、58回目は当てた感覚をダミーで装っておいたので実際は3回です」

その俺はもはや床から立ち上がる気力すら残っていない。なんでこの人は数時間も戦闘しておいて息一つ乱れていないんだ。

「とても疲れたでしょう?それもそのはず、ヒサメ君にはこの数時間ずっと亜人種能力を使うようにさせていましたから。右腕だけでも維持するのに相当体力が必要だと思いますよ」

「……お褒めに預かりどうも……」

「褒めてません。ヒサメ君は素の体が弱すぎるのに加えて亜人種能力の発動できる部分が少なすぎます、このままだとうまく生き残れて二年ってとこじゃないですか?」

この人がルリアさんと違うところは、努力に対して正当な価値観を所持している部分である。無理なことは無理というし、出来ることに対してはどうやればそれができるか、などの的確な方法を実戦形式で教えてくれるのだ。

ルリアさんだったら「亜人種の力?うーん……頑張ったらどうにかなるんじゃない?」と言いそう、というか絶対言う。あの人は自分が知りえないことは口に絶対にしないタイプだ。

「ほらほら起き上がってください、右腕解除していいですから」

左手に握ったスマホで画面を操作して右腕を元に戻し、肘から押し出すように体を持ち上げる。魔法とかは全然分からないがこの腕に関しては分かったことがいくつか。

まずは最重要事項の『重さ』。この腕、大きさに比例して相当に重い。立ってるだけでふらついてしまうほどには重量がある。まるで米の詰まった麻袋を持たされているような感覚。

次に『長さ』。まっすぐ立った状態で足元に手が届くくらいの長さがある。俺の身長からして一メートル半くらいだろうか、この距離感がつかめなくて結構苦労した。

最後に『痛覚』。この腕がどういう原理なのかは知らないが、痛覚が存在していない。攻撃を受け止めても痛みは伝わってこないし、こちらから殴っても同様。ただ、内部に俺自身の腕があるのだとしたら斬られないように剣や刀には気を付けなければならないな。

「休憩終わりました?さて、ステップ3。おそらくヒサメ君にとって最も重要であろう特殊属性の話です」

「……重要なんですか?」

「ヒサメ君自体が特殊属性ですし、ここのギルドは特殊属性が意外といますから四大属性よりかは重要かもしれないですね」

イザベラは魔導書から白いチョークを取り出し、床に大きな丸とその周囲に四つの小さな丸を描く。

「中央の大きな丸が無属性、その周囲にある四つの丸が四大属性です。特殊属性はこの無属性の中にあります」

「特殊属性って無属性の扱いなんですね」

「そもそも特殊属性は『どの属性にも属さず、能力が他とかけ離れすぎている』ものを総称してそう呼んでいます。だからまだ発見されていないものとかあると思いますよ」

「ほ~……イザベラさんって今までに特殊属性って会ったことありました?」

「私は姉が『原子魔法』っていう特殊属性持ちだったので……今までに見たことある中ですごかったのは『銀河魔法』とかですかね、何されてるかわからなかったです」

すごい、聞いただけじゃどんな攻撃をされるのか意味が分からないのがこれまたすごい。なんだ銀河魔法って、どう攻撃するんだ。本人も望んでその能力を手に入れたわけじゃないだろうけどなんか不便そう。

「かくいう私も……あ、ここでワンポイント。特殊属性は後天的に目覚めることがあります。ヒサメ君のその角もそうじゃないですか?」

言われて思い出すように角を触る。結局この角は何なのだろうか、四大属性の中心の無属性の中の龍属性の中の黒龍。……ややこしいを通り越して面倒。

「さて、じゃあ実践例をやってみましょう!」

「え?実践例って……」

イザベラは勝手に先ほどのチョークで地面に何かを書き、人が寝れるほどのスペースの魔法陣を書いて両手を地面に叩きつける。床から飛び出したのは箒を入れておくような縦長の物入れ。

「私が着けてる片目の眼鏡、実はこの魔法に使うんですよ。あ、私のは一から十まで学問で学んで習得した後天的特殊魔法ですよ。力線操定(ダイナフィクション)」

説明を求めようとした直後に目の前にあった木造の物入れに異変が起こる。

「……なんだあれ、浮いてる……」

そう、目の前で浮いている。いや、正確に言うならば地面に落ちない(・・・・・・・)。浮いているというならば重力に逆らう力が一定働くわけだからふわふわしたりするものだが、目の前のそれは完全に空中に固定されている。

「あ、横にも動かせますよ」

「えっ!?あっ、うわ本当だ……めっちゃスムーズに動く……」

エアホッケーのパックのように上下左右に平行移動するその様子はとてもシュール。しかも移動しているものがただの物入れだから尚更。

「はい、ドーン」

右手を握りしめた瞬間、つい先ほどまで向きを変えずに宙を移動していた木造の木箱は一瞬で何かに押しつぶされたかのように圧縮されて転がった。手のひらに収まるサイズの木のキューブが床に落ちる。

「……今ので分かりました?」

「いや全然」

「ですよねー、じゃあ次はヒサメ君が」

「いや俺潰されたくないですよ!?」

「拒否権は無いです!」

えっ、と反応する間もなくいつの間にか足が地面から離れていた。確かに感覚は浮いているようではなく、どちらかというと見えない何かに持ち上げられている感覚がする。

「うわあっ!?……ま、マジで浮いてる……」

「ちょっと強くしますよー、えいっ」

その瞬間、全身が揺さぶられるような衝撃を受けて宙返りする。そして床に墜落。せめてどうなるのかする前に少しでも教えて欲しいのだが、と考えながら頭を抱えて起き上がると―――。

「ったた、でもさっきの電撃に比べたらまだマシ……ん?」

「ヒサメ君どうですか?天井から眺める部屋の風景は」

声は天井からして、左右を見渡してみれば埋め込み式のルームライトが設置されている。入口のドアノブは握るのにも一苦労しそうな位置にあり、何もかもが天井から生えているような光景。

「これが私のとっておき、『力学魔法』です。今はヒサメ君に重力の倍のベクトルを付与しています」

「す、すっげぇ……こんな魔法まであるのか……」

「あ、解除しますね」

突如として襲い掛かる天井からの引力、そして自分自身は地面に向かって落下しているんだという自覚を持ちながら木目の床に首から落下する。

「……俺が亜人じゃなかったら死んでますよ」

「この力学魔法、大したデメリットがなくて魔力消費少ない便利な魔法なんですよね。でもめちゃくちゃ使いづらい」

「いや、この魔法連発されたらたまったもんじゃないと思いますよ……」

俺の話を無視してるのは故意なのかどうかは分からないが別に今更気にすることでもない。でもさすがに人が首から落下してるのに何のリアクションもなしってのはさすがにどうかと思う。

「さてここからはステップ4です」

「……え?」

「ヒサメ君専用のステップです。必要かと思いまして」

最初にステップは三つでは?と聞く前に向こうが答えてくれた。だが、俺専用とは?

「ヒサメ君はこの世界で何をしたいですか?」

「何って、目的なんて特に……平和に過ごしたいですね」

「…………そうですか」

真剣な顔で聞いてきたイザベラはこちらの答えを聞くなり眉をしかめ、数秒黙り込んだ後に苦々しく喋る。

「……とある昔話をしましょう。私がいた村は毎年生贄を求める龍がいて、その龍にとても苦労していました」

「え?」

「ですが、その龍を突如倒した方がいたんです。大した報酬も求めず、『ただイラっとしたから斬った』と答えた、刀を持つ男性が」

「すごい動機ですね……」

「私は幼い頃にその方と対談したことがあります。その方に『あなたはなぜ剣を握ったのか』と聞いたのです」

「……その答えは?」

「……『平和を追い求めたから』だと彼は言いました」

その言葉の直後、背筋を下から上に何かが撫でるように一気に寒気が走る。何かを見透かされているような、未来を予言されているような、自分とは関係の内容なのにいつか自分に回ってくるような、そんな気味悪い感覚が。

「彼は平和について考えたそうです。自らが争いを好まなくても、分かり合えない他者は拳を振るうのをやめない。それでは自分が一方的に虐げられてしまう。この時点で平和ではないと知ってしまったのです」

「……まさか、自分に降りかかるすべての反平和思想を『正当防衛』だと思い込んで、排除して歩き回っているのか」

「その通りです、彼は自分が争わない条件を提示したときに攻撃してこない人以外をすべて殺すような人物でした。彼は『優しい人』ではありましたが『良い人』ではなかったのです」

「……それで、その人のその後は?」

「私たちの村にも長く留まらず、すぐに旅に出ました。今も世界のどこかで旅をしているでしょう。……私の姉も一緒に」

「………………」

そうか、イザベラさんが時々口に出すお姉さんの話。お姉さんはその刀を持った男性が村に来た時に一緒に村を出てそれ以降行方不明、もしかして、イザベラさんが国を出て旅行したのって、追い出されたように見せてお姉さんを探しに―――。

「……ヒサメ君、平和とは、何の上に成り立つのものだと思いますか」

「真剣な話をするならば、自由と人権、あと友好関係ですね」

「そう、友好関係。人が争わないためには争いを生まなくなるほどに仲良くなればいい。普通の人ならばそれが極稀に完全達成できることがあるのですが、ヒサメ君は確率的に無理です」

「……それはなぜ?」

「ヒサメ君は純人間じゃないんですよ。旧アズドラークを覚えていましたか?亜人種反対派の多さ、彼らは亜人を見ただけで理由もなく怒っていたでしょう」

ここで本能的に理解する、生命の安全保障がないから排除するしかないんだ。

俺が身に宿しているのは竜種、しかも随分と希少でヤバそうなもの。この俺がいくら人相が良かったとしても『よく分からなくていつ暴走するか分からないもの』を抱えている俺をすべての人が歓迎してくれるだろうか?

「何もしていなくても敵対視する人がいるこの世界で平和を願う、それほど難易度が高いことはありません。ヒサメ君が望む平和とは、それほどまでに難しいです」

「そう、ですか……」

ここまで言われるとぐうの音も出ない。確かに平和に過ごしたいというのは本音だ。だが、一方的に殴られて死にたくはない。それを避けるには戦うしかない。結局逃げ道はないのだ、と。

「ところでヒサメ君、さてはその亜人の能力って自ら手にしたものではありませんね?」

「えっ」

「だって、能力に対する地域がなさすぎます。人工移植にしてもここまで適応度が高いのに知識の一つもないのは実験道具にすらなりません。譲り受けたものか、もしくは目覚めたらいきなり、という感じですよね?」

さて、これはどうするべきだろうか?真実を話すのも間違いではないが、ここで紙にうっかり異世界に行く権利を渡されたのでオプションで付けました、なんてふざけたことが言えるかどうかだ。

もちろん、俺にそんな度胸はない。

「……そうですね、目が覚めたらこんな感じです。突然平原に放り出されて……こうなる前は髪も黒かったです」

「………………マジか」

微妙に真実を隠したこの回答にイザベラは今日一番の驚き顔で答えてくれた。

「竜種の人工移植適合者なんですね!?そんなのが実在するなんて……竜種は自我が強すぎて移植すると意識が乗っ取られちゃうんですよ、それをこの年齢まで維持できてなおかつ竜種が出てくることを抑えている……いや、一応出てきてはいるけど限定的な覚醒?でもそれだったらすでに浸食が始まっていてもおかしくない、だとしたら本人の自我の強さ?でもヒサメ君は生に対する執着心はそれほどなし、だとしたら竜種のやる気がない?そんな龍見たことないけれどそちらの方が現実味がある……いやいや、そもそも竜種の適合者のサンプルが少なさすぎて何も予測ができない!どうなってるんですかぁ!」

「……いや、こっちが聞きたいです」

オタク特有の早口を目の前で見せてもらった。元が魔法使いで今が錬金術師、それで亜人種研究の知識がある、この人は気になることは何でもかんでも調べて、そして記憶してしまうのだろう。知識の幅が広すぎる、一介の魔導士のそれじゃない。

イザベラは完全にこちらの話を聞く様子ではなかったが、何かを思い出したらしく急に元のテンションに戻る。

「まず覚えておいて欲しいのは、ヒサメ君の能力は強いです。見知らぬ人に命を狙われてもおかしくないようなものですね」

「そんなにですか……」

「でも、その人たちが狙っているのはその能力じゃなくて『君自身』です。ならばその能力で恐怖を煽ってやればいい。たとえその能力が自分の努力とは無関係で、偶然手に入れたものだとしても」

イザベラはこちらの顔を掴み、至近距離で忠告にも教訓にも近いような言葉を投げる。

「君の平和は『周りの人たちと変わりない日常を楽しむこと』でしょう。ならばそのために戦えばいいんです。自分の全力をもって仲間を守る、そうすれば仲間は君を守ってくれます。そのための自衛ギルドですから」

「……なんか、ありがとうございます」

「へ?何がですか?」

「いや、格言みたいなの頂いちゃって……」

「ああ、姉の言葉を変えただけだからそんなんじゃないですよ」

顔を抑えながら恥ずかしそうに手を振るイザベラ。本当にお姉さんのことを想っているのが感じられる。

「『私の全力で皆を守る、皆の余力で私を守ってくれ。皆が全力で戦えるように、私も全力で皆を守る』……って言葉でしたね。まあ、そう言われているだけで本当は全然そんなことないんですけどね」

「イザベラさんのお姉さんってどんな人なんですか?」

「……私とルイラちゃんを混ぜたら大方完成って感じですね」

失礼、今の説明だと混沌しか生まれないのだが。あの超テンションで頭が良くて、しかも強くて防御型。どういう訳か分からないけどその場に居たら絶対に疲れるタイプなのは予想できる。

「さて、じゃあ続きしますか」

「へ?何の続きをー……」

言いながら自分自身で分かってしまった。そうだ、まだ終わっていなかった。

「その竜種の能力(ちから)、発揮できるまで続けますからね!」

「いやだあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

このようにして、これから数日は魔術特訓が始まるようになる。当然の結果だが、筋肉量が右腕に微妙に偏って、ストレスで髪が抜けるのが若干早くなった気がするがあまり考えることでもないだろう。

魔法理論の話とか種族の話とかもっと早めにしていれば良かったと思いました。具体的に言えばVer 1.3くらいの時に。でもヒサメの設定をしっかり決めようと思ったのってVer 1.7前後だったので何も考えてなかったんでしょうね。


ちょっとした変更事項として、月の変わり頃にタイトルの一斉変更をします。ネタが思いつかないっていう個人的な話もあるのですが、一番の理由は「タイトルと話の内容があってないのはどうかと思う」と意見をもらったからです。確かにそうだね。

Ver 1.1以降の修正?あの、はい、可及的速やかに……。

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