第九章 :“虹髪の賢者”と“神銀の機神”
さて、ラティルがメルテスと談笑していた頃、コアトリア家の屋敷の一室では屋敷の主ともう一人の人物が談笑を交わしていた。ただし、そのもう一人とは、ティアスと対面する様に設置された“大鏡”に映る鏡像としてこの部屋にいる。両者とも、寛いだ格好で安楽椅子に腰かけている。
一頻りの談笑も一段落を迎えた頃、“大鏡”に映る人物より声がかけられる。
「……それで、今夜こうして話をしている本当の目的は何だね……?」
こう切り出した鏡面に映る人物の姿は、磨かれた鏡面にも似た煌めきと滑らかさを見せる端正な銀色の面差し、袖から覗く両腕は対面するティアスの左腕と同様の精緻さとしなやかさを持ちつつも力強さを感じさせる神銀製の代物となっている。
* † *
彼の名はミゼル=ヴァンゼール……西方大陸において高名なヴァンゼール一門の当主と務める人物である。
彼自身は古代紀に栄えた“アティス機械王国”を支えた“魔法機械技術”の粋を結集して創造された人造生命――魔法機械生命体、或いは金属人と称される存在の数少ない生き残りである。
更に言い添えるなら、そうした金属人の中にあって、古代紀の西方大陸で独自の発展を遂げた“魔法機械技術”の極意を知る数少ない――いや、ただ唯一と言って過言ではない存在とされている。
* † *
ミゼルの問いかけに対して、ティアスはさり気ない口調で返答の言葉を紡ぐ。
「実は、“魔力銃”の調整をお願いしたくて……」
そう返答を紡ぐティアスの顔には、それが可能であることを確信していることが十分に窺い知れるものであった。そんなティアスの言葉に対して、当たり前の様にミゼルの言葉が返される。
「……で、どの様に調整すれば良いのかな……?」
ミゼルの問い返しに、ティアスは幾分面差しを鋭いものにして答えを紡ぐ。
「剣を持つ相手と戦える形にして欲しいのです。後一月以内に……」
その言葉に、ミゼルは自身の顎に手をかけ、暫し思案気な様子を見せた。
「…………不可能とは言わぬが、使い手により調整の仕方が異なるぞ。誰が使うんだ……?」
「レインの婚約者の、ラティル君です」
「……ほぉ、あの“銃使い”の青年か……」
ティアスの返答に、ミゼルより感嘆の呟きが漏れる。
「……ご存知でしたか」
「……あぁ、西方大陸の諸国家は私の製作した物に深い関心を持っているからな……
海の向こうの他大陸に渡った物でも、噂を時には耳にしている」
そう口にするミゼルの声には自嘲の色を帯びている様に感じられた。ともあれ、そんな自嘲気味の言葉の後で幾分怪訝そうな言葉を続けた。
「……だが、ティアス……彼なら特に調整の必要はないのでは……?」
「それが……」
ティアスは今日の昼に起こった出来事を掻い摘んで説明した。
その説明を耳にしたミゼルは、納得した様に数度の頷きを見せてから言葉を紡いだ。
「……なるほど、そんな相手では確かに厄介だな……分かった。その代わり、こちらの言うデータを揃って後日送っておいてくれ」
「解りました。そのデータと言うのは……?」
「それは、まず……」
二人はもう暫くの間やり取りを繰り返した。そんなやり取りが終わった後、部屋の大鏡は普通の鏡の如く鏡像を映す様になり、ティアスはその部屋を後にしたのだった。




