第9話 泣きつきに来た元家族と、公爵のお出迎え(後編)
「せ、宣戦布告だなんて、滅相もない……!」
エヴァーハルト伯爵は床に額を擦り付け、必死に命乞いを始めた。
「エリアナ! 頼むからお前から言ってくれ! 私たちは家族だろう!? お前が戻ってくれないと、エヴァーハルト家は取り潰しになってしまうんだ!」
(今更『家族』なんて便利な言葉を使わないでほしいわ。私がブラック労働させられてた時、一言でも優しい言葉をかけてくれたっけ?)
私は冷たい視線を父親に向け、凛とした声で言い放った。
「お断りいたします、元お父様。私はすでに、あなた方からエヴァーハルトの籍を抜かれ、国外追放された身です。今の私は、ギルバート様の婚約者。あなた方の命令に従う義務は1ミリもございません」
「エリアナ、貴様……!」
第一王子が血走った目で私を睨む。
「国を見捨てる気か! お前が戻らなければ、我が国は魔物に滅ぼされるんだぞ! 聖女としての義務を果たせ!」
「ふむ、国が滅びるか」
ギルバート様が退屈そうに、王子の言葉を遮った。
「ならば、我がギルバート公爵家が、その滅びかけた国をまるごと『買い取って』やろう。すでに貴国の主要な商会、鉱山、そして防衛の要である魔術師団の半数以上は、我が公爵家の資金力によって買収済みだ」
『な、なんだって……!?』
王子と伯爵が、同時に絶望の悲鳴を上げる。
「貴様らがエリアナを無能と吐き捨てて遊んでいる間に、私は彼女にふさわしい『国』を用意するために動いていたのだ。結界が消えて魔物に怯える王都など、我が私兵団が一瞬で奪取し、新たな私の領土として浄化してやる。もちろん、その新しい国に、愚かな王族や伯爵家の居場所などない」
ギルバート様がパチン、と指を鳴らすと、屈強な黒鉄の騎士たちが一斉に踏み込んできた。
「この不法侵入者たちを城から叩き出せ。二度とエリアナの前にその醜態を晒すな」
「待ってくれ! エリアナ! 助けてくれ!」「ひ、ひえぇぇ!」
無様に引きずられていく王子と伯爵の叫び声が、遠ざかっていく。
国も地位も財産も、そして本物の聖女も失った彼らには、これから魔物と借金に追われる、地獄のような平民以下の暮らしが待っていることだろう。完全なる自業自得だ。
「エリアナ、不快な思いをさせてすまなかった」
謁見の間が静まり返ると、ギルバート様は一瞬で『冷酷な戦神』から『過保護な恋人』の顔に戻り、私の前に跪いた。
「いいえ、ギルバート様。最高のざまぁ……いえ、最高の裁きでしたわ。私をここまで守ってくださって、本当にありがとうございます」
私が満面の笑みで彼の頬に手を添えると、ギルバート様は愛おしさに耐えかねたように、私の手のひらにそっと口づけをした。
「君のためなら、国の一つや二つ、いくらでも滅ぼし、いくらでも創り変えよう。私の可愛い、世界で唯一の聖女」
こうして、私を虐げた者たちは完璧に破滅し、私は最強で過保護な公爵様に、生涯、甘やかされ尽くされるのだった。
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