第8話 泣きつきにきた元家族と、氷の公爵の冷徹なお出迎え(全編)
ギルバート様の私室で、お菓子を食べさせてもらいながら最高に甘やかされた翌日。
お城の謁見の間に、招かれざる客がやってきた。
「エリアナ……! 無事だったか、我が娘よ!」
現れたのは、かつて私を「飯泥棒の無能」となじり、荒野へ追放した実の父親、エヴァーハルト伯爵だった。
その隣には、ボロボロの鎧を着た第一王子の姿もある。
二人とも、王都が魔物に襲撃されたせいで命からがら逃げ延びてきたらしく、高級な服は泥と煤で汚れ、酷い悪臭を放っていた。
(げぇ……。せっかくの美味しい朝食の余韻が台なしなんだけど)
私はギルバート様の隣に座り、上品に扇で口元を隠しながら、心の中で盛大に眉をひそめた。
「エリアナ! 探したぞ!」
第一王子が、かつての傲慢な態度を取り戻したかのように、大股で私に近づこうとする。
「戻るぞ、エリアナ! 婚約破棄はなかったことにしてやる。王都の結界が壊れて大変なんだ。お前が毎日やっていた浄化作業を今すぐ再開しろ! これは命令だ!」
(はあ? どの口が言ってるの? 婚約破棄も追放も『命令だ』って言ったのはそっちでしょうが)
あまりの身勝手さに呆れて物も言えない私。
しかし、王子が私に手を伸ばそうとしたその瞬間――。
バキィィィン!!!
王子の目の前の床が、突如として激しく凍りついた。
すさまじい冷気と、漆黒の魔力オーラが謁見の間を満たす。
「……私の婚約者に、その汚い手を近づけるなと言ったはずだが?」
地獄の底から響くような声とともに、ギルバート様がゆっくりと立ち上がった。
その氷色の瞳には、冷酷無慈悲な『戦神』としての、絶対的な殺意が宿っている。
「ひっ……、ぎ、ギルバート公爵……!」
第一王子は恐怖のあまりその場に尻餅をつき、エヴァーハルト伯爵はガタガタと歯の根が合わないほど震え出した。
「ギ、ギルバート閣下! 誤解です! エリアナは我がエヴァーハルト伯爵家の娘! 親である私が連れ戻しに――」
「親、だと?」
ギルバート様は冷たく鼻で笑った。
「私の調べでは、貴様らはエリアナに一切の予算を与えず、魔力回復の薬すら買わせず、城の結界維持という重労働を無報酬で強いていた。さらに、偽の聖女である妹の引き立て役として扱い、最後は国境の呪われた荒野に防具も持たせず捨て去った。……これが親のすることか?」
ギルバート様が冷徹に事実を突きつけるたびに、伯爵の顔が青から土色へと変わっていく。
「それは……、その、教育の一環でして……!」
「言い訳は不要だ。貴様らがエリアナに行った全ての行為は、我がギルバート公爵家に対する『宣戦布告』と同義であると見なす」
公爵様の圧倒的なプレッシャーの前に、元家族たちの本当の絶望が始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!




