第7話 独占欲の暴走と、甘いお仕置き(後編)
――ギルバート様の美しい顔が目の前に迫り、私は思わずギュッと目を瞑った。
しかし、唇に触れたのは、驚くほど優しくて、少し名残惜しそうな彼のおでこだった。
ギルバート様は私とおでこを合わせたまま、ふっと切なそうに笑う。
「……いけないな。君が私を怖がらないからと、つい理性が融解しそうだ。君が完全に私を受け入れてくれるまで、これ以上の『お仕置き』は預けておこう」
(お仕置きって! 寸止め生殺しの方が心臓に悪いんですけどーーー!?)
真っ赤になって茹だる私を見て、ギルバート様は満足そうに私の髪を優しく撫でた。
「今日はもう、この部屋から出さない。ここで私と一緒に、最高級の紅茶と限定の焼き菓子を楽しもう。君を完全に私の愛で囲い込んでしまいたい」
こうして、私は公爵様の私室という名の超豪華な桃源郷で、彼に膝枕をされたり、お菓子をあーんと口に運ばれたりする、過保護の極みのような時間を過ごすことになった。
甘やかされすぎて、私の脳が完全に溶けそうである。
◇
そんな甘い時間が流れるギルバート城とは裏腹に、国境の向こう側は地獄と化していた。
本物の聖女である私を追放した我が祖国では、王都を護る大結界が完全に崩壊。
溢れ出た魔物たちが王宮の防衛線を突破し、今や高級貴族街まで蹂躙し始めていた。
「エリアナはどこだ! なぜ見つからない!」
第一王子は、血走った目で近衛騎士たちを怒鳴り散らしていた。
彼の豪華なローブは泥と魔物の返り血で汚れ、かつての傲慢な面影はどこにもない。
「殿下! エヴァーハルト伯爵家の令嬢リリアでは、やはり結界の修復は不可能です! 彼女の魔力は、エリアナ様の百分の一にも満たないと、魔術師団が……!」
「嘘よ! 私が真の聖女よ! お姉様なんてただの無能よぉぉ!」
髪を振り乱して泣き叫ぶリリアだが、彼女がいくら鑑定水晶に魔力を込めても、水晶はピクリとも光らない。
私が事前に込めておいてあげた貯蔵魔力が底をついた今、彼女のメッキは完全に剥がれ落ちていた。
「リリア、貴様……私を騙したのか!? エリアナさえいれば、こんなことには……! おい、誰でもいい! 隣国のギルバート公爵領にエリアナがいるという噂がある! 今すぐ連れ戻してこい!」
王子が狂ったように叫んだその時、王宮の窓を突き破って、巨大な上位魔物が咆哮を上げた。
「ひえっ」「助けてくれ!」と、王子とリリアは無様に床を這いずり回りながら逃げ惑う。
自分たちがどれほど愚かな裏切りをしたのか。
そして、どれほど恐ろしい『守護神』を敵に回してしまったのか。
彼らがその代償の大きさに絶望し、涙を流して後悔し始めるのは、まさにこれからのことだった。
もちろん、冷酷(溺愛)公爵様の私室で、美味しい最高級タルトを口いっぱいに頬張っている私には、1ミリも関係のないお話である。
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




