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第5話 始めての街デートと、規格外の無自覚チート


「エリアナ、今日は我が領の王都……いや、公爵領で一番栄えている中央街へ行こう。君に似合う最高の宝石やドレスを、もっと買い揃えたい」


昨日の通信トラブルの翌朝、ギルバート様は私の手を握り、至極真面目な顔でそう提案してきた。

城のクローゼットにはすでに何百着もの最高級ドレスがあるのだが、公爵様の過保護レーダーはまだまだ物足りないらしい。


(イケメンからのデートのお誘い! しかも公爵様のフルアテンド付き!)


内心で激しくガッツポーズをしつつ、私はお上品に微笑んで頷いた。

「はい、ギルバート様。喜んでお供いたします」


◇


というわけで、私たちは平民の服に身を包み(といっても隠しきれないオーラがあるけれど)、活気あふれる中央街へと繰り出した。公爵様のコートは高位魔術師が総出で開発した魔力を制御する結界みたいなものらしい。そのおかげで、こうして街を歩くこともできる。


行き交う人々は皆、笑顔で活気に満ちている。

私の故郷の王都は、貴族の贅沢のせいで平民の街はどんよりしていたが、この領地はギルバート様の優れた内政のおかげで、本当に豊かなようだ。


「……? ギルバート様、あそこにあるお花屋さん、どうされたのでしょうか」


街の中心部にある大きな花屋の前に、人だかりができていた。

覗いてみると、店主の男性が、真っ黒に変色して萎れてしまった大量のバラを前に頭を抱えている。


「あぁ、お嬢さん、見ないでおくれ。この街はギルバート閣下の強力な魔力の余波が時折流れてくるせいで、植物が突然枯れてしまう病気が流行っていてね。今日の売り物が全部ダメになっちまったんだ……」


(あ、なるほど。ギルバート様の『近づく者を恐怖させる呪いの魔力』が、大気を通して植物に影響を与えちゃってるんだ)


隣を見ると、ギルバート様がひどく痛ましそうに、そして申し訳なさそうに視線を落とした。自分の呪いのせいで領民が困っていることに、胸を痛めているのだろう。


(よし、ここは元・社畜聖女の出番ね。いつもお城でやってた仕事に比べれば、こんなの朝飯前だし!)


「店主さん、少しそのお花、触ってもいいですか?」


「え? ああ、構わないが……触っても手は汚れるだけだよ?」


私はしゃがみ込み、枯れ果てた黒いバラの茎に、そっと指先を触れさせた。

そして、心の中で「綺麗になーれ」と、ほんの少しだけ聖女の魔力を流し込む。


シュワァァァ……!


その瞬間、バラを包んでいた黒い霧のような瘴気が、炭酸水のように綺麗に消滅した。

それだけではない。

瞬く間に茎が青々と瑞々しさを取り戻し、一瞬で、大輪の美しい深紅のバラが次々と咲き誇ったのだ。

花屋の敷地内にあった、他のすべての枯れ木や萎れた花までもが、一斉に満開の奇跡を迎える。


「な、なんだってぇぇぇ!?」

店主がひっくり返りそうな声を上げる。

周囲の買い物客たちからも、いっせいに驚愕の悲鳴が上がった。


「枯死病の植物が、一瞬で……!?」

「おい、このお嬢さん、伝説の植物聖女様か何かか!?」


(おっと、ちょっと魔力を込めすぎちゃったかな? まぁ、綺麗になったからいっっっか!)


私がケロッとした顔で立ち上がると、隣にいたギルバート様が、見たこともないほど目を見開いて硬直していた。

そして、私の肩をガシッと掴むと、ものすごい力で自分の方へと引き寄せた。


「エ、エリアナ……。君は今、何をしたんだ?」


「ええと、ちょっと瘴気を浄化して、お花を元気にしてみました……?」


「『ちょっと』のレベルではない……! この枯死病は、我が国の高位魔術師が総出で結界を張っても防げなかった、私の呪いの魔力の結晶だぞ。それを、触れただけで完全に無害化し、さらに生命力を与えるなんて……」


ギルバート様の氷色の瞳が、今までにないほどの熱を帯びて私を射抜く。

彼は私の腰を抱き寄せると、周囲の注目も気にせず、耳元で低く甘い声を囁いた。


「やはり君は、他の誰にも渡せない。今すぐ城に戻って、私の部屋から一歩も出したくないレベルだ……。……エリアナ、覚悟しておいてくれ。私はもう、君を絶対に離さないからな」


(ひぇっ、独占欲が爆発してる!? でも、冷酷公爵様にここまで求められるの、最高にドキドキする……!)


街の人々が「おぉ、ご馳走様です!」と温かい拍手を送る中、私は真っ赤になった顔を隠すように、ギルバート様の胸に飛び込むのだった。


一方その頃、私を失った祖国では、王都を覆う結界が完全に崩壊。

これから起こることなど知る由もなかった。


読んでいただきありがとうございます!

次回もお楽しみに!

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