第4話 元婚約者からの通信
至れり尽くせりの朝食を楽しんでいると、食堂の扉がバタバタと大きな音を立てて開いた。
入ってきたのは、ギルバート様の側近である眼鏡をかけた青年執事だ。
「閣下、エリアナ様。大変失礼いたします。エヴァーハルト伯爵家、および第一王子殿下より、緊急の『魔術通信』が届いております」
執事が差し出した魔術結晶から、ぼうっと光の画面が浮かび上がる。
そこに映し出されていたのは……。
髪はボサボサ、目の下に酷いクマを作り、完全にパニック状態になった私の元婚約者、第一王子の姿だった。
『エ、エリアナ! どこにいる! 今すぐ王都に戻れ!』
画面の向こうからは、ガシャーン、ゴォォ、と激しい爆発音と、人々の悲鳴が聞こえてくる。
『リ、リリアの聖女の力では、王都の結界を維持できないんだ! 貴様が消えた昨日の夜から、王宮の庭に魔物が大量発生して、すでに騎士団だけでは抑えきれない!』
王子の後ろでは、リリアが「そんなはずないわ! 私は真の聖女よ!」と泣き叫びながら、壊れた鑑定水晶を叩いている姿が見えた。
(あはは、当然でしょ。リリアが『自分の力』って言ってたのは、私が毎日結界の核に込めておいた貯蔵魔力だもん。それが一晩で枯渇したんだから、そりゃあ結界も割れるよね)
心の中で盛大に草を生やしている私を、王子は必死の形相で睨みつける。
『エリアナ、これは命令だ! 婚約破棄は冗談だったことにしてやる! 今すぐ戻って結界を張り直せ! さもなければ――』
王子の怒号が響き渡る中、ギルバート様が静かに立ち上がった。
その瞬間、部屋の温度がマイナス数十度まで一気に下がったのではないかと思うほどの、凄まじい威圧感が放たれる。
ギルバート様は画面を見下ろすと、低く、冷たい声で言い放った。
「どこの馬の骨かと思えば、我が最愛の婚約者をゴミのように捨てた、節穴の王太子か」
『な、なんだ貴様は……! ひっ、ギ、ギルバート公爵……!?』
王子の顔が一瞬で恐怖に引きつる。
「勘違いするな。エリアナはもう、我がギルバート公爵家の宝であり、私の妻となる女性だ。二度とその汚い口で彼女の名を呼ぶな。……我が国境を侵すなら、エヴァーハルト伯爵家ごと、この手で地図から消し去ってやろう」
ギルバート様が片手を軽く振ると、パキィィィン! と魔術結晶が粉々に砕け散り、通信が強制終了した。
「エリアナ、不快なものを見せてすまない。……怖かったか?」
さっきまでの魔王のような覇気はどこへやら、ギルバート様は捨てられた子犬のような目をして私を見つめる。
「いいえ。とっても気分が良くなりましたわ!」
私が満面の笑みで答えると、ギルバート様は一瞬呆然とした後、愛おしさに耐えかねたように私をぎゅっと抱きしめた。
私を捨てたバカ王子たちが、これから自業自得の地獄を味わうことなんて、今の私にはどうでもいい。
私はこの過保護な公爵様の胸の中で、ぬくぬくと幸せになることだけを決意したのだった。
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