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【13作目】ウチの生徒会はややこしい!  作者: あぱ山あぱ太朗
ウチの生徒会長にも限界はある
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9/16

3-1

「神原、放送部との打ち合わせに行きましょ」

「そんな時間か……今行く」

 真咲に声を掛けられて、向き合っていた大量の書類から目を離す。

 GWの連休も明けて、いよいよ部活動発表会の開催まで二週間を切った。本来であれば嬉しいはずの連休なのだが、今回ばかりはタイミングが悪い。

 この期間中に各部との調整業務は完全にストップ。

 書類仕事や内々の業務は進めていたが、企画の性質的にも生徒会だけで決められることには限りがある。

 そのため休み明け早々に打ち合わせラッシュが発生していた。

 そして打ち合わせの度に、新しいタスクが増えていくので終わりが見えない。

「なぁ、真咲。連休中は何をしてたんだ?」

「ユーチューブで旅系のVlogを見ていたわね」

「動画かよ……」

「そういう神原はどうなのよ?」

「積読している本を心置きなく読んだ――夢を見た」

「夢なのね……」

 廊下を移動しながら、実りがなかった休日について語り合う。

 仕事の有無に関わらず遠出をするつもりはなかったが、「やらない」と「できない」には埋められない差があると思うんです。

「このイベントが終わったら、生徒会の皆でどこか遊びに行きたいなぁ」

「なんかそれ死亡フラグっぽいぞ……」

 目の前の仕事を片付けるのに精一杯で未来に目を向けている余裕がない。

「私、川とか海に行きたいな」

「俺のような根暗との相性が最悪だな」

 隅っこで体育座りをしている自分の姿が目に浮かぶ。

「そんなの関係ないって! 皆で行ったら絶対に楽しいよ!」

「その『皆』にも問題があるんだよ。男は俺だけだぞ。色々と気を遣うじゃんか……」

「な、なによ!? つまり、神原は私と二人がいいってこと!?」

「どうしてそうなった!?」

 明後日の方向に結論が導かれていた。

 どういう理屈で「男だけだと肩身が狭い」=「真咲と二人きりがいい」になるんだ。

「いや、水着姿で男女二人きりとか気まずいだろ……」

「み、み、水着ぃ!? な、なんで水着なのよ! 神原の変態!」

「いやいや!? 川とか海なら水着姿になるだろ!?」

 その手の場所に行くなら、まず間違いなく水遊びをするだろう。

 決して恣意的で偏った発想ではないはずだ、うん。

 いや、その、美少女たちの水着姿を拝みたい――そういう下心が一切ないと言ったら嘘になりますけどね?

「……完全に失念していたわ」

 真咲は自身の胸部に両手を当てて仄暗い顔をしている。

「あー」

 た、たぶんですけどね? 彼女が何を気にしているのか想像ができます。

 真咲は鳳会長の次に身長が高くスタイルがいい。

 だだしナイスバディな会長とは違って、スレンダーなタイプと言いますか、アスリート向きと言いますか――とても言葉が選びづらいですね。

「かーんーばーるー? 言いたいことがあるなら聞くけどー?」

「い、いえ、特に何も……っ!」

 真咲が鬼の形相をしながら睨みを利かせてきた。

 視線と表情に出ていたらしい。まずい、下手なこと言ったら殺されるぞ。

 すぐさま降参ポーズを取る。Aだってエエと思います(大笑い)。

「はぁ、とりあえず場所は保留にしとくわ……夏までにバストアップ…………」

 最後のは聞かなかったことにする。

 真咲さんの方で水着の件に折り合いをつけてください。

「実現するといいな……」

「言っとくけど、神原は強制参加だからね」

「へいへい了解」

 どうせ予定などはございませんので(うえーん)。

「あと、さっきの話じゃないけど……私と神原の二人でどこか出掛けるのはどう? そ、その、プチ打ち上げというか、慰安会みたいな感じで!」

 上目でこちらの様子を窺っている。その仕草はいつも以上に女の子っぽい。

「真咲がよければ全然いいぞ」

「ほんと!?」

 せっかく誘ってもらえたのだ。無下にはしたくない。

 もちろん予定はないし、相手が真咲であれば二人きりでも苦じゃないからな。

 それに真咲に対しては負い目もあった。

「まだS定食の埋め合わせだって出来ていないからな」

「あー忘れてた! この裏切り者ぉ!」

「しまった、藪蛇だった」

 あの日から業務が忙しくなったので、真咲も覚えていなかったみたいだ。

 考えてみると、あれから随分と日が経っているんだな。あまりの激務ゆえに時間の流れが速すぎる。光陰矢の如しだった。

「まぁ、ちゃんと気にしてくれてたなら悪い気はしないけどね。さーてと、なにを奢ってもらおっかなー」

「お手柔らかにお願いします……」

 俺の言葉は聞こえていないらしく、真咲はご機嫌な様子で「銀座でお寿司?」「六本木で焼肉?」「代官山でフレンチ?」とか言っている。

 破産するので勘弁してください。

「色々と落ち着いたら日程は決めましょうか」

「了解した。部活動発表会が終わったら――いや、合宿勉強会の企画も進めないとまずいから――――一体いつになったら落ち着くんだろうな……」

「……神原、嫌な事を思い出させないでよ」

「……すまん」

 輝かしい未来を目指して、今現在に集中することにした。


 ***


「神原と向日葵はもう上がってもいいぞ」

 放送部との打ち合わせを終えて生徒会室に戻ってきた。

 議題に上がった当日の備品について、真咲と手分けしてリストを作成していたところ、鳳会長から終業の指示が入る。

「いや、もうちょっと頑張りたいです。なぁ、真咲?」

「そうね。こっちは私と神原で進めるので、朱音さんも気にしないでください」

 ここ最近の会長は忙しそうに方々を飛び回っている。

 せめて書類仕事くらいは俺と真咲で進めたい。

 今現在は業務の負担が会長に偏り過ぎてしまっている。

「……阿吽の呼吸だな」

 会長は不満そうに口を尖らせた。

 どうやら俺と真咲の息が合った意思疎通に嫉妬しているらしい。

「い、いや? そんなことないですけどねー?」

 適当に誤魔化す。会長が俺に好意を持っていることは隠さなくてはいけない。

 下手な事を言って会長が暴走するのを避けたかった。

「(何よ、神原。私とは相性が悪いって言いたいの?)」

「(そうじゃないっての……っ!)」

 前門の虎後門の狼でした(たすけて)。

「なんだコソコソと……やはり仲が良さそうじゃないか」

 耳打ちをし合う俺と真咲の様子を見て、会長の妬心がますます強まる。わずかに苛立ちのようなものを感じた。

 ――虫の居所が悪いのだろうか。

 普段の会長は泰然自若で負の感情は表に出さないタイプである。

 こんな風に不機嫌を前面に出すこと自体が稀有だった。

「ひ、ひとまず無駄話はこれくらいにしましょう! 俺たちは仕事に戻ります!」

 一度クールダウンをしよう。

 この話題を続けても誰も幸せにならない。

「う、うん……そうね」

 会長の雰囲気がいつもと異なることを察して、真咲も同調してくれた。

「だから言っているだろう……君たち二人は帰宅してもらって構わない…………」

「いやいや、そうはいきませんって。会長の負担が大きすぎます」

「そうですよ、朱音さん。少しは手伝わせてください」

 真咲と一丸となって会長の説得を試みる。

 一年目の黒花や如月さんに残業をさせるのとは訳が違う。

 俺も真咲もこの手の修羅場は何度もくぐり抜けてきたつもりだ。引けと言われても簡単には頷けない。


「何度も言わせないでくれ! 君たちは早く帰るんだ!」


 絹を裂くような声だった。

 ピリリと生徒会室の空気が振動して嘘みたいな静寂が訪れる。

 こんなことは初めてだった。あの鳳朱音が声を荒げて怒りを露わにするなんて。

「あ、朱音さん……」

 特に会長のシンパである真咲のショックが大きかったみたいで、口元を震わせて涙目になっていた。

「わ、私はなにを……す、すまない…………向日葵、神原……」

 当の本人も内側から発露した激情に驚いていた。

「……どうしたんですか、会長。なんだか今日はらしくないですよ?」

 敬愛する先輩から怒鳴られた影響で、真咲はすぐには立ち直れなそうだった。

 それならば仕方があるまい。

 副会長の片割れとして、様子がおかしい会長と対話させてもらう。


「大丈夫だ……本当にすまない。少々、寝不足でな……いや、こんなのは言い訳にもならないな。二人とも申し訳ない。不快な気持ちにさせてしまったな」


 会長はぐったりと項垂れている。いつもの覇気がない。

 言われてみると目の下にクマがあり、元が色白であることを差し引いても、あまりにも顔面が真っ白だった。

 疲れが溜まっているのは明々白々である。

 ……どうして気が付かなかった。

 会長はエネルギーに満ち溢れている。そういうイメージと偏見があった。

 だから、彼女の空元気にまんまと騙されてしまったのだろう。

 会長は三日、四日程度の徹夜ならピンピンしているので、それをも上回るような慢性的な睡眠不足であるのは間違いない。

 かなり危険な状況である。看過するわけにはいかない。

「会長! そんな状態なら、むしろ俺達を頼ってくださいよ……っ!」

「そ、そうです! 朱音さんのためなら、私たちいくらでも頑張りますから!」

 真咲も何とか持ち直した。副会長コンビで鳳会長に訴えかける。

 このまま寝ないで働き続けていたら、そう遠くないうちに破綻するだろう。倒れるのも時間の問題だ。

「それでは駄目なんだよ……これは私の問題だ。こんな時期に企画を立案したのは私だし、睡眠不足は私生活と両立が出来てないことが原因だからな……」

 私生活。その言葉が含蓄するものに心当たりがある。

 俺には――俺だけには分かってしまう。

 先月から会長が一人暮らしを始めたことは知っていた。そして、仮交際を開始したのも最近のことだ。

 生徒会での活動、慣れない一人暮らし――――初めての恋愛。

 いくら鳳朱音でもオーバーワークだったのだ。その一端に自分自身がいる。

 なら、神原悠馬が成すべきことは一つしかないだろう。


「鳳会長」

「なんだ、神原……?」


 声のトーンを下げた。

 それによって生じるシリアスな空気が伝わったようだ。

 あの会長を納得させる必要がある。中途半端な態度では言い返されてしまう。


「ハッキリ言います。今の状態で会長に居られても迷惑です」

「……っ!?」


 こんな強い言葉を会長にぶつけたのは初めてだ。

 向かいの席に座っている真咲が息を飲んでいるのが見えた。こんな修羅場に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。

 そもそも他者とのコミュニケーションが苦手なのだ。

 相手とぶつかるなんて、もっとも不得意だと言っても過言ではない。

 それでも彼女を止められるのは俺しかいない。

 仮初であっても、俺は鳳朱音の彼氏を務めているのだから。

「な、何を言うんだ! 私が抜けたら、部活動発表会がどうなると思うんだ!?」

「……その書類を拝見させてもらいますよ、会長」

 鳳会長が各部長と発表内容のすり合わせを担当している。手元にあったのは各部の発表内容のたたき台をまとめているものだ。

 ――思った通りである。

 この書類が会長の現状をすべて物語っていた。


「まず全体的に誤字脱字衍字が目立ちます。ほら、こことか。あとここも。まぁ、それは揚げ足取りみたいになってしまうので置いておくとして――演劇部と軽音楽部……あとは落語研究会もですね。この発表内容はスケジュール的にきついです」

「そ、それは……っ!」


 寝不足で頭が回っていなかったのだろう。

 平素の会長なら気が付くことだ。余裕がある人間は全体を俯瞰できる。

 しかし、今の鳳会長は点でしか物事を判断できていない。この内容で進行したら、予定の開催時間で終わらせるのは困難だ。

「これだと各部の部長と再交渉が必要ですね。結構なロスです。まさかとは思いますけど、こんな頭が回ってない会長が担当するとか言いませんよね?」

 書類を見て、正直めまいがした。スケジュール的にもめちゃくちゃキツイ。

 ここで会長が離脱するのは痛すぎる。

 しかし、これは鳳会長の無茶を見逃してしまった俺の責任だ。

 死に物狂いでも巻き返す。

「で、でも……これは私が言い出したことで……っ!」

「責任感が少しでもあるなら、今すぐに休んで一日でも早く回復してください。こうして議論をしている時間がもったいないです」

「神原、いくら何でも横暴がすぎるぞ! 少しは私の想いを尊重しろ!」

「会長が言います、ソレ?」

「いや、それは……ぐ、ぐぬ…………」

 誰よりも我儘で、独善的で、欲望に正直な人に言われたくない。

「真咲! 俺、鳳会長を送って来る! 悪いけどリスト作成は頼んだ!」

「わ、わかった……っ!」

「会長の仕事は俺が引き継ぐから」

 やってやる。何があっても俺が企画を完遂させて見せる。

 会長の企画を潰してたまるか。ここまで頑張った人間が報われないのは嘘だ。


「神原! 何を勝手に!」

「はいはい行きますよ――って会長、この感じ食事も摂ってないですよね? 全身に力がまったく入ってないですよ」


 強引なのは承知の上で会長の腕を掴んだ。

 瞬間、会長は抵抗する素振りを見せたのだが、空気が抜けた風船のようにゆるゆると力が抜けていった。

 身体も紙のように軽く、彼女の健康状態が芳しくない事がすぐに分かる。

「……コーヒーを多飲しているから大丈夫だ」

「ちっとも言い訳になっていませんからね? むしろ要介護レベルが上がりました。急ぎますよ」

 ここまで自身の体調を顧みない会長には怒りすら覚えた。

 しかし、今は説教している暇がない。一刻も早く会長を休ませなくては危険だ。

「か、神原! ちょっと待て! あぁ、なんでこんなに力が強いんだ!」

「会長が弱っている証拠です。普段の会長なら俺より強いでしょ」

「そんなことはないだろ!? 私を何だと思ってる!? これでも乙女だぞ!?」

「はいはい」

 大騒ぎしている会長を引っ張って生徒会室から連れ出す。

「真咲、すまんがまた後で」

「――――ねぇ、神原」

「ん、どうした?」

 真咲が形容し難い表情をしていた。

 大事な宝物をそっと眺めるよう――誇らしげな顔というか――――

「神原ってさ。やっぱり男の子だよね」

「当たり前だろ?」

 これでも一応は男です。家には修学旅行の時に買った木刀があります。

「あはは、そうだね……うん」

 真咲は小さく頷いて、ゆっくりと顔を上げた。

「神原、朱音さんをよろしくね」

「任された」

 真咲は小さく手を振って送り出しくれた。

 その餞にサムズアップで応じる。我ながらハイになっているようだった(絶対にあとで恥ずかしくなるやつ)。


「神原! あぁもう! 自分で歩くから離してくれ~~~~~!!」


 がなり立てる会長を連れ立って、彼女の自宅がある新江古田までの移動を開始した。

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