2-1
料理とはいいものだ。心が整う。
玉ねぎ、人参、じゃがいも、豚こま肉を一口大に切る。玉ねぎを鍋の底で炒める。
飴色になったタイミングで豚こま肉を投入する。
肉に焼き目が付いたら人参とじゃがいもを加える。軽く炒めたら水を入れて煮る。
あくが出てきたら取り除き、具材が柔らかくなったところでカレールーを割り入れる。
各種調味料を加えて、後はじっくり煮込むだけである。
所謂マインドフルネスってやつだ。
目の前の事象に没入し、ありのままを享受する。
こうして無心になることで日頃のストレスが解消される――はずだった。
「はぁ……」
思わずため息をついてしまう。俺は『イマ』に集中できていない。
父と義母が共働きをしていることもあり、神原家の主な家事は俺が担当している。
本日は金曜日。土日に楽をしたいという下心からカレーを仕込んでいた。
料理を始めてから早くも三年目を迎えようとしている。カレーくらいなら無心で作れるはずだったのだが……。
「あのさぁ、気が散るんだけど」
本日何度目か分からないため息に対して、リビングから苦情が入る。
視線を向けると義妹の神原黒花がこちらを睨んでいた。
しかし、いまいち迫力に欠ける。
髪を下し、眼鏡を掛けて、私服のジャージ姿になった状態では、いくら黒花と言っても美少女力が減少していた(それでも十分強いけど)。
学校における完璧美少女のイメージとギャップがあり過ぎる。
首席入学を果たした才媛であり、すでに学内屈指の美少女と名高い黒花だが、自宅では良くも悪くも飾らない。
なお、義兄に対する当たりの強さは健在です。
「自分の部屋で勉強すればいいだろ」
思春期の我々に配慮して、きちんと個室が割り当てられている。わざわざリビングの机で教科書を広げる必要などはないのだ。
「あたしの勝手でしょ。悠馬に指図されたくない」
だったら俺がため息吐くのも自由だろ――などと言い返したらブチギレると思うので、泣き寝入りします。
「やれやれ、俺が大人にならないとな……」
髪の毛をかき上げながら呟く(プライドを必死に保とうとしています)。
そんなキザな仕草に「な、なにカッコつけてんのよっ!」と黒花から文句が出る。怒りのあまり顔が真っ赤だった。
うん、いくらなんでもキレ過ぎでは?
「ね、ねぇ! 今のもう一回やってくんない! 写真撮りたいから!」
「いや、新手の嫌がらせか!」
脅しに使われるのが目に見えている。断固として拒否させてもらう。
思った以上に黒花が食い下がってきたが、やらないの一点張りで逃げ切った。
「――――悠馬のバカ」
その結果、口をツンと尖らせて拗ね出した。
どんだけ義理の兄を脅迫したいんだよ。その執念が恐ろしいよ。
黒花が何を考えているのかちっとも分からない。
俺と黒花は性別が異なれば、血の繋がりも、家族としての思い出も、共有できるような趣味すらなかった。
俺たちにあるのは戸籍上の繋がりだけだ。
あとは天和大学付属高校の生徒会に所属しているくらいか。
「あーそういえば……生徒会は慣れたか?」
このまま不機嫌そうにされても気分が悪い。とりあえず共通の話題を振ってみる。
「悠馬がいること以外に不満はない」
「さいでっか」
取り付く島もない。
もう少し歩み寄ってくれてもいいだろうに。
「ねぇ」
「な、なんだ?」
と思っていたら、珍しく黒花の方から水を向けられた。
「さっきから何なの。ため息、ウザいんだけど」
「あー、えー、それはだな……」
目の前の作業に集中できなかった原因。それは数時間前に生じたものだった。
「神原、今日はもう上がっていいぞ」
「いやいや、無理ですよ。当日の進行表を仕上げないといけないんで」
放課後。今日も今日とて残業をしていた。
真咲は家の用事だと申し訳なさそうに帰宅し、黒花&如月さんの一年生コンビには活動時間内で業務を終えてもらった。
生徒会室には鳳会長と俺の二人しかいない。
また甘ったるい空気になるかと言えば、そんなことは全くなかった。
そりゃだって仕事が全然終わらないのだから!
巻き込む人間の数が多くなると、事前準備がより物を言うようになる。
当日は放送部&演劇部の裏方組と連携し、イベントを進行していく運びとなった。
そうなると全員が共通認識とするタイムテーブルが不可欠だ。
打ち合わせの日程を前倒しするためにも、資料は早急に作成する必要がある。
「私がやるから構わん」
「会長は各部との交渉があるでしょ。体育館を使う部活が、イベント開催そのものに反対しているって話じゃないですか」
体育館はバレーボール部、バスケットボール部、バトミントン部といった各部活が利用時間を相談して上で、それぞれが交代で使用している。
そのシフトに割り込むイベント開催、良い顔をされないのは当然だった。
「大丈夫だ。『痛み』をしっかり身体に覚えさせる」
「ちっとも大丈夫じゃないですけど!?」
「証拠は残さないつもりだぞ」
「仮にも選挙で選ばれた生徒会長ですよね!? 民主主義の下、平和的なプロセスで解決してください!」
この人は目的達成のためなら手段を問わない節がある。
闇堕ちしたら人類の敵になるタイプだ。道徳や倫理の鎖で縛っておかないと危ない。
「うむ。好きピ(?)の諫言だ。素直に聞き入れようじゃないか」
「会長が若者言葉を使うと違和感ありますね。あと、ちょっと古いです」
「やはり、アベックの方がしっくりくるな」
「それは完全な死語です! 今、令和ですよ!?」
アベック=カップルの意。「好きピ」もそうですが、我々の関係を表現する言葉としては不適切だと思います。
あくまで恋人(仮)である。
「話が逸れたな。いいから神原は帰宅しろ。これは会長命令だ」
「だから承諾できませんって。真咲が休みなんですから、事務仕事は俺が進めないと」
企画を走らせてしまった以上、もう後戻りなどはできない。
きちんと形にして、クオリティーも担保するには一秒だって惜しいのだ。
「意外に強情だな、君も」
「会長の企画を成功させるためです」
口に出すのは照れくさいけど、会長の考える企画は何だかんだワクワクするのだ。
実現するのであれば、参加者全員に満足してもらえるイベントにしたい。
「神原……キスしてもいいか?」
「駄目ですけど!?」
こいつは何を言っているんだ(一応、先輩です)。
「困りものだな。君のキリっとした表情のせいで、こんなにも身体が疼いているのに」
「ふ、ふざけないでくださいって! とにかく俺は帰りませんからね!」
繰り返しになるが、このような浮ついた話をしている余裕はないのだ。
進めておかねばならないことが無数にある。
「神原、私との約束は覚えているか? 月に一度、私の命令に何でも従うと」
唐突な告白の後、会長と俺の間で交わされた約束事だ。会長にはこの歪な関係が周囲に露見しないよう取り計らってもらう。
その代償として、会長の恋人ごっこに付き合って月に一度だけ命令に従う。
「いや、今月分の命令にはちゃんと従いましたよね!? 半強制的に『あーん』させたのを忘れたとは言わせませんよ!」
「もちろん覚えているさ。あの官能的な情景を忘れるなど無理な話だ」
忘却の彼方に追いやりたいのは俺の方だった。
思い返すだけで頬が熱を帯びてしまう。
「だ、だったら分かりますよね!? 今月はもう命令できないですよ!」
「前借だ」
「へ……?」
「来月分の権利を先んじて使わせてもらう」
「ちょ、駄目ですよ!? そんなの認められませんからね!?」
埒外の要求に狼狽を隠せなかった。
こんなもの絶対に了承するわけにはいかない。極端な話、前借という体裁で際限がなく命令権を行使できてしまう。
「しかし、君はこういった行為を禁止していなかったよな? 禁則事項があるのなら事前に伝えるのが筋だと思うぞ」
「き、詭弁ですよ! 世の中には暗黙の了解があるでしょうに!」
「神原、常々言っているじゃないか。明文化すること、証跡を残すこと、これらは仕事をする上で非常に重要であるとね」
「そ、それは何回も聞きましたけども……っ!」
「今回は君の確認不足だな。勉強代として、私の理屈に従ってもらおうじゃないか」
後々「言った・言わない」のトラブルになるので合意事項は文章に残すべし。
会長から口酸っぱく言われてきたことではある。とはいっても、事前にあらゆるケースを想定して明文化するなんて不可能だ。
その観点から反駁ができないかを考えたが、勝てる見込みは薄いだろうな。
交渉ごとにおいて会長を説き伏せるのは至難の業だ。
ましてや、著しくコミュ力が不足している神原悠馬には荷が重すぎる。
「あーくそっ! 命令権の前借は『翌月分まで』に制限させてもらいますから! この後、文章にまとめてメールで送らせていただきます!」
鳳会長は現代の女子高生にも関わらず、SNSの類を一切やっていない。
連絡は基本的にメールである(返信はめっちゃくちゃ早い)。
「あはは、見事に改善したじゃないか。良い心掛けだ」
「ちくしょう!」
まったく油断も隙もあったものじゃない。
他にもルールの穴がないか、しっかり吟味しておいた方が良さそうだな。
「では神原。可及的速やかに帰宅してくれ」
「……今更ですけど、どうして俺をそこまで帰らせたいんですか」
正直、意図が分からない。
わざわざ命令権を前借してまで従わせるメリットがあるのだろうか。
「うむ。厳密に言えば、君の帰宅は目的ではなく手段だ」
「手段ですか」
「明日は土曜日じゃないか。是非とも休日デートを経験してみたくてね。せっかくなら君にエスコートしてほしい。となると、君にも準備の時間が必要じゃないかな?」
「……そういうことですか」
もちろん休日の予定などは皆無である。
近所の図書館にでも籠ろうと思っていたところだ。誘いを断る口実もなければ、月一度の命令とあれば従うほかない。
「これが人生初のデートなんだよ。とても楽しみにしている」
「ちょ、ハードル上げないでくださいって!」
この超絶美少女の貴重な『初めて』を俺ごときが奪っていいのだろうか。
いや、いいわけがない(反語)。
鳳会長の輝かしい人生の汚点になりかねないぞ。
「そう身構えないでくれ。懸想する相手と共に過ごす。それだけで十分幸せだよ」
「……っ!」
純朴で可憐な表情。そんな顔で愛くるしい事を言わないでほしい。
心拍数がどんどん上がっていく。
心臓の激しい高鳴りに苦痛すら覚えてしまう。
「その、すまない……神原が嫌と言うなら無理にとは言わないよ……」
「ち、違うんです! そういう訳ではなくて!」
胸の疼きを抑えるのに集中するあまり、目の前の会長をなおざりにしてしまった。
あの鳳会長が不安そうな表情を浮かべている。
相手から拒絶されるのは怖い。それは彼女だって変わらないはずだ。
「あの、その、鳳会長!」
「な、なんだ……?」
勇気を振り絞った人間が報われないのは嘘だ。
これが会長の「初デート」ならば男として果たすべき責務がある。
いつまで受け身でいるつもりなのか。この関係が仮初だったとしても、俺の方から会長に申し込むべきことがあるだろ。
「え、えっと……っ! 明日、俺とデートをしてくれませんか……っ!」
「――あぁ、喜んで」
もちろん出来レースではある。
だけど、この満面の笑みを引き出せたのなら重畳だ。
鳳朱音・人生初のデート相手。その大役を担う重責は計り知れないが、任されたからには全力で取り組む所存だ。
会長が満足する一日にして見せようじゃないか。
「楽しみにしているよ、神原」
「ま、任せてください!」
なんて威勢よく言い放ったはいいが、俺もデートの経験などは皆無だった。
そもそも休日に誰かと出掛けることですら経験不足だ。初期装備でラスボスに挑もうとしております。
「はぁ……」
「だ~か~らぁ~! そのため息のワケを聞いてるんだけど!」
回想終了。自宅のリビングへと意識を戻す。
再三繰り返される嘆息について、義妹の黒花から問い詰められていた。
「――――なぁ、黒花は男女交際の経験はあるのか……?」
「は、はぁ!? きも! いきなり何なの!? まじキモいんだけど!」
手加減ナシ。めった刺しだった。さすがに泣きます。
しかし、年頃の少女にするような質問ではなかったと反省する。
「す、すまん……今のは忘れてくれ……」
「勝手に自己完結しないでくれる!? なんで、あたしの交際経験を知りたいのよ!
も、もしかして――いやいや、義理とは言っても兄妹なんだから――――」
黒花はブツブツと呟きながら、なぜか頬や耳を紅潮させていた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫よ! 法律上問題はないはずだから!」
まったく会話が成立していない。
よく分からないが、いつの間にか法律の話になっている。
「法律とか関係なくてだな……その、休日に異性と出掛けるとなったら、どうすればいいのか知りたいんだよ」
黒花に経験があるのならアドバイスをもらいたい、と付け加える。
「どういうこと!? 悠馬に彼女が出来たってこと!? 誰よ!? 向日葵さん!?」
「な、なんで真咲の名前が出るんだよっ!?」
「だって、悠馬が話せる女の子なんて生徒会の人くらいでしょ!」
まずいな、真っ先に職場恋愛を疑われている。
鳳会長との仮初の恋人関係。これを知られるわけにはいかない。同じ生徒会役員の黒花相手には尚更だ。
受け答え次第では生徒会が終焉する。必死に言い訳を考えるんだ。
「いや、彼氏彼女とかそういうんじゃなくてな? 明日、会長とイベントの打ち合わせをすることになったんだけど……服装とか、場所とか、全然決まってなくてな……」
関係ない人物を挙げるのは後々トラブルになる可能性が高い。
会長と外出するのは前提として、その題目を生徒会の仕事だと偽ることにした。
「はぁー、最初からそう言いなさいよ」
黒花は深く深く息を吐くと、呆れ顔で蔑んでくる。
「男女交際とか言い出すから勘違いしちゃったじゃない。というか、これを機に朱音さんと付き合えるかもしれない――とか、馬鹿なことは考えてないよね?」
恥ずかしいから止めてよ? 身の程を弁えて? 笑い者になりたいの?
などと罵倒が止まらない。相変わらず容赦がなかった。
「……俺と会長がつり合わないのは重々承知だよ」
「ま、分かってるならいいけど!」
やはり、鳳朱音は高嶺の花である。
誰かと付き合う、そういう発想すら生まれない。
その相手が凡骨の神原悠馬となれば言うまでもないだろう。
下手に言い訳しなくても、会長との関係を隠すのは案外簡単かもしれない。
「そもそも! 悠馬は年上じゃなくて年下と付き合うべき!」
「えーと、その心は?」
話がおかしな方向に転んでいく。
「面倒見がいいし? 何だかんだ甘いし? 包容力があるっていうか?」
「意外にも高評価だな」
そんな風に思われているとは正直驚いた。
この間、根暗だなんだと罵倒されたばかりだぞ。
まぁ、根暗であることは否定しようのない事実ではありますけど。
「あ、あたしの意見じゃなくてっ! 客観的意見だから!」
「客観的に評価できるほど、俺って周囲から認識されてなくないか?」
自分で言っていて悲しくなってきた。
「うっさい! いちいち細かいのよ! だから、男のくせに家事も出来るし! 料理上手なんじゃないの!」
「どちらかと言うと褒めてないか……」
それに今は男が家事をしてもおかしくない時代だ(ウェルカム令和)。
「と・に・か・く! 皆が憧れる先輩相手に無謀なアタックなんかしないで、すぐ身近にいる年下の女の子に目を向ければいいの!」
その結論は意味が分からないが、本題に戻るためにもあえて触れないでおこう。
鳳朱音と休日に二人で出掛けるからって変な勘違いをするんじゃない。黒花が言いたいのはそういうことだろう。
大丈夫だ、勘違いなんかしない。
なぜなら会長の想いは嫌というほど知っている。
「安心してくれ。会長とは仕事の話をするだけだよ。けど、仮にも異性と行動を共にするわけだろ? 最低限のマナー的なものがあると思うんだよ?」
嘘を吐くのは忍びない。
かといって、交際経験のない俺の知識には限界がある。女性サイドである黒花の知見はどうしても借りたかった。
「うんまぁ……義理とは言え、兄が恥を晒すのはあたしの沽券に関わるか……」
「そうだろ!? 頼む、力を貸してくれ!」
平身低頭でお願いする。正直、他に相談できる相手がいない。
真咲、如月さんは会長シンパなので論外。
林田先輩に聞くのは無神経が過ぎる。仲川はそもそも連絡先を知らない(仮にも生徒会を一年共にした仲なのに)。
「見返りは?」
「カレーをカツカレーにグレードアップするよ」
「それだけじゃ足りないっ! カツカレーはもちろん食べるけど!」
いや、もちろん食べるんかい。
しかし、どうしたものか。これ以上となると思い付かない。黒花が見返りとして欲するもの――ここは本人の意向に従うか。
「じゃあ黒花のお願いを何でも聞くよ。俺に頼みたいことがあるかは知らんが」
「な、な、何でもぉ!?」
思いの外、食いつきがいいのでビビってしまう。
一体、俺に何をさせるつもりだ。想像できないので余計に怖い。
「何でも、何でもってなれば――あんなことも、ううん、もっとすごいことも――」
「じょ、常識の範囲内でな……?」
俺の憂慮などは我関せずで、黒花はニヤけた顔でブツブツ言っていた。
きっと意地が悪い事を考えているに違いない。黒花は俺を毛嫌いしているからな。
「じゃあ仕方ないわねっ! そういう事なら手伝ってあげてもいいけど?」
「うん、すげぇ助かります」
肝心の『お願い』の内容に関して、この場では一旦保留とのことだ。
無理難題ではないことを祈るしかない。
多少の無茶を引き受けてもデートのアドバイスがほしかった。
「そういえば――あたし、経験ないからっ!」
「へ、何の話だ?」
「最初に聞いてきたでしょ! 男女交際の経験があるかって!」
「あー」
一番初めに黒花に訊いた事だった。
このタイミングで答えが返ってくるとは思わなかったけど。
「なによ! 文句ある!?」
「文句はないけど、意外だなって」
「ど、どういう意味よ!」
「いや、浮ついた話の一つ二つはありそうだから――黒花はまぁ、可愛いし」
「~~~~~~っっっ!!」
黒花は「ポッ!」と効果音が聞こえるくらい真っ赤になった。
ただ事実を口にしただけなのに、このような反応をされると恥ずかしくなってくる。
あれ? 冷静に考えるとこれって所謂セクハラ案件なのでは?
「あ、いや……そのすまんっ!」
「悠馬っ! 今のもう一回! 次は録音するからっっ!」
軽率な発言を謝罪しようとしたが、黒花の金切り声にかき消される。
「もう一回ってなにを――」
「それは、その! か、か、可愛いってっっ!」
「はぁ!? 嫌だよ、恥ずかしい! つか、録音してどうするつもりだよ!」
「あ、いや、えっとその……お、脅しに使うとか!?」
「余計に嫌なんですが!?」
同居している義妹にセクハラをした。そんな噂が流れたら最悪だ。
黒花は早速、『お願い』の権利を行使しようとするが、今回だけは折れてもらった。
再婚してようやく家族関係が落ち着いてきた。このことが原因で家庭問題に発展したらシャレにならない。
お互いに親の離婚はもう懲り懲りだからな。
最後に「貸しイチだからね。次のお願いは『絶対』に聞いてもらうから」と不穏な事を言っていましたが……今は聞かなかったことにします。




