第七話 時計塔の管理人
時刻は午前九時になり掛かっていた。
ルシャは時計の修理を依頼してきた女性に会いに行く。
店から出て鍵を掛けて、街中の方に向かって歩いていく。
パン屋も通り過ぎ、五分程歩くと左手にその家があった。
ルシャは入り口の前に立ち、右手の甲側で軽くドアをノックした。
しばらくするとドアが開き、中から若い女性が出てきた。
彼女の名前はハーサ・ローデン。
歳はルシャと同じくらいだ。
この家に住む顔馴染みの人物だった。
ハーサ「あ、いらっしゃい、わざわざごめんね。中、入って」
ルシャは中に入って行った。
二人はダイニングのテーブルの席に座る。
ハーサがテーブルに置いておいた、綺麗な模様の懐中時計をルシャに見せた。
ハーサ「これなんだけど…」
ルシャは目の前に差し出された懐中時計を手に取り、時計の周りを見てから言った。
ルシャ「あのね、結論から言うと、私じゃ直せないのよ」
ハーサ「やっぱりそうよね。なんとかなるかなと思ってね」
ルシャ「ちゃんとした時計店に頼まないと無理」
ハーサ「高いんでしょ?」
ルシャ「安くて二、三日。高くて一週間分の生活費くらいらしいわよ」
現実を聞かされ、ハーサは落胆を隠せなかった。
ハーサ「そんなお金無いわよ。一生無理だわ…」
ルシャ「その時計、大事なものなの?」
ハーサ「まあ…お父さんの形見」
ルシャはその言葉を聞いて、何かが心に引っ掛かった。
ルシャ「お父さん?の…形見…」
ハーサ「ルシャ、もしかして又忘れちゃったの?」
ルシャ「え、忘れた?」
ハーサは呆れた顔でルシャに教えた。
ハーサ「私のお父さんも前に死んじゃったけど、ルシャのお父さんも違う時に事故で亡くなったのよ。忘れちゃダメよ」
ルシャ「本当なのそれ!?」
ハーサ「あの時から貴女は物忘れが酷くなってるのよ」
ルシャはハーサの話を聞いて、席に座ったまま身を乗り出して更に聞く。
ルシャ「じゃあ、私のお父さんは何かの事故で死んだの?」
ハーサ「ルシャのお父さんは、街の真ん中に建っている時計塔の管理人だったの」
ルシャ「時計塔の…管理人…」
ハーサ「あの日、時計塔から落ちて貴女のお父さんは…」
ルシャはその事故があった日の出来事を所々思い出した。
時計塔の周りに集まる人々。
そこに後からルシャは警察官に連れられて現場に着いた。
その後の事から思い出せなかった。




