第二話 午後三時の鐘
濡れた石畳、雨に濡れた時計塔、そして…。
その先は見えない。
ルシャ「…う、…うう…」
ルシャは、煤だらけのオーブンの中から、ゆっくり頭を出した。
右手をオーブンの縁に当てた。
左手を頭に当てて、頭痛に耐えている。
奥さんが後ろで見ていて、心配している。
奥さん「ちょっと大丈夫?頭痛?」
ルシャ「あ、ちょっとじっとしていれば大丈夫です」
奥さんはダイニングテーブルの椅子をルシャの傍に移動した。
奥さん「此れに座って」
奥さんはルシャの肩を支えて座らせる。
ルシャ「すみません」
奥さん「ううん。オーブンはいつでもいいのよ。それより貴女の方が辛そうよ」
ルシャ「時々発作みたいに痛むんです。特に雨の日に」
奥さん「ああ、あれかな?低気圧、お天気痛ともいうみたいだけど。晴れてる日なんかは調子いいんでしょ?」
ルシャ「そうですね、大体いつも元気です」
ルシャは調子が戻ってきた。
奥さん「じゃあ今日はあんまり晴れてないし、オーブンの掃除はまた今度来てくれる?」
ルシャ「いえ、今からでもやりますけど」
奥さん「でも、もう結構時間過ぎてるから後にして…。それより提案なんだけど」
奥さんは目を輝かせている。
奥さん「今からお茶にしない?この後予定とかあるの?」
ルシャ「いえ、特にありませんけど…」
奥さん「私もね、主人が帰るのって夕方以降でしょ?それに娘も最近、素敵な人が出来たみたいでいつも二人で出掛けてるのよ。だからちょっとだけ付き合ってほしいのよ」
ルシャ「あ、そういう事ならいいですよ、勿論」
奥さんは二人分の紅茶とお茶菓子を用意している。
こういう時間は、ルシャにとっても嬉しい限りだった。
奥さんが紅茶をカップに注いでくれる。
ルシャは、その湯気を見つめていた。
時計塔が窓の外の遠くに見える。
一瞬、雨に濡れた石畳の光景が目に浮かぶ。
外から鐘の音が微かに聞こえた気がする。
時刻は午後三時になった所だった。




