第十一話 恋人との再会
ルシャはパン屋の中から出てきた。
そして店から少し離れた所に佇む、黒いコートの男の傍に走って行った。
ルシャは矢庭に男に聞いた。
ルシャ「貴方は誰なの?私が色々忘れてる事知ってるんでしょ?」
男「俺はオルイーズ。君の事は随分前から知っている」
ルシャは一瞬、胸の奥が熱くなった。
ルシャ「オルイーズ…」
ルシャは少し間を置いて話す。
ルシャ「貴方と私はどういう関係だったの?」
オルイーズ「婚約をしていた」
その言葉にルシャは驚いた。
ルシャ「婚約…」
オルイーズ「君ともうすぐ式を上げるという頃に、君のお父さんは事故で亡くなった」
ルシャ「それで私は家に引き篭もって…」
オルイーズは頷いて言った。
オルイーズ「君は何日も食事も摂らず、昼も夜も死んだように横になって、ただ何かを見つめていた」
ルシャ「その私を貴方が助けてくれたの?どうやって?」
オルイーズ「あのままだと君は痩せ細り、そのまま動かなくなるんじゃないかと思った。それで俺はある事を思いついたんだ」
ルシャ「何なのそれって」
ベオハルドは店の中から二人の様子を見ながら仕事をしている。
オルイーズ「昔からの言い伝えで、時計塔に住む『時の魔物』の話を思い出したんだ」
ルシャ「それってどんな魔物なの?」
二人の周りを一瞬強い風が吹く。
オルイーズ「時を操るという事しか知らないが、それしかないって思ったんだ。君を回復させるには」
ルシャ「それでその魔物に会いに行ったの?」
オルイーズは頷いた。
オルイーズ「月夜の時計塔に行って、中から月が見える所まで階段を上る。そして魔物を呼ぶんだ」
ルシャ「それで出てきたの?時の魔物は?」
オルイーズ「姿は無かったが、声だけがした」
ルシャはその話に魅入ってオルイーズの目を凝視していた。
ルシャ「どんな声だったの?」
オルイーズ「男の声が響いてた」
ルシャ「それで、どんなこと頼んだの?」
オルイーズ「ルシャのその時の状態を話して救いたいと言ったんだ、そしたら魔物が『恋人の過去の記憶を消してやる。それでその者は救われるであろう』と言って魔物は消えたんだ」
ルシャは驚きと共に納得した。
ルシャ「じゃあオルイーズは私を助けてくれる為に色々してくれたのね」
オルイーズ「結果、君の記憶が消えてしまった。その事は本当に悪かった」
ルシャ「じゃあ今度その魔物に、私の記憶がこれ以上消えていかない様にしてもらえないかな?」
オルイーズ「出来ると思う」
ルシャはオルイーズの手を握って言った。
ルシャ「今度は私も一緒に行くわ」
オルイーズ「わかった」
ベオハルド「待ちなさい、これあげるから二人で食べてから行きなさい。それに今はまだ昼間よ、とりあえず家に帰ってゆっくりしてからでもいいんじゃない?久しぶりに会った恋人同士なんだし。じゃあ私は戻るわね」
ベオハルドは沢山のパンを詰め込んだ紙袋をルシャに渡して、店の中へ戻って行った。
自転車を押しながら、ルシャとオルイーズは一緒にルシャの店に戻る事にした。




