第28話 シロ・クリスタル
少女はリュウトゥーにある普通の家庭に生まれた。
優しい両親に恵まれ決して裕福ではなかったが幸せに愛を沢山受け取り育っていました。
全てが壊されたのはマナンブルグとミリオンの戦争により起こったスタンピード、多くの魔物や魔獣はマナンブルグのとある少女により殲滅されたが一部生き残った魔物達は隣国のこのリュウトゥーへと侵攻しこの国の要である流通網を妨げる出来事だった。
それによりこの国で行われたのは魔物掃討作戦この国に籍を置く獣人たちが徴兵し討伐部隊を編成し掃討に動くことを決めた。
「ぱぱ。まま。いっちゃいやにゃ。」
少女は両親の背中を追いかける。
両親は振り向き少女の顔を見て笑顔を浮かべる。
少女は理解した「行かないでくれるのだ私と一緒に居てくれるんだ」と
そんな優しい世界はもうないのに。
父親は娘の首元を叩き泣きながらこう言った。
「必ず戻るから。愛してるシロ」
母親も気絶した少女を抱きしめ「愛してる」と告げ家を出ていった。
少女が目を覚ますと、家には誰もおらず
慌てて家を飛び出し街を走り回る。
街の人間は英雄の帰還だと旗を上げ酒を撒き鐘をならす。
帰ってくるものは四肢の一部や精神、記憶などが欠如している者が多く、ほかにも多くの死体の数々が並んでいた。
「ぱぱ!まま!どこにゃ!ぱぱ!まま!」
そう叫びながらあたりを探す少女は覚えのある匂いをたどって行く
「ぱ....ぱ。まま.......」
布の被さった物をめくると
あまりに惨く残酷な現実を僅か4歳の少女は目の当たりにする。
顔の半分が食いちぎられ、眼球がこぼれ落ち脳髄や血液が地面を濡らす父親
下半身が欠損し腸の半分はこぼれ落ち冷え切った体から胃や横隔膜、肋骨が顔を出している母親
「あ、あ.......あうっ。。」
嘔吐した。理解できない感情に大きく包まれつつ耐えがたい不快感と絶望の渦の中で二人の顔をもう思い出したくないと思ってしまった。
泣き喚くことも無く、ただ己の無力さに二人のあの姿に飲まれないよう自身の記憶に蓋をした。
二度と思い出さぬよう。あの光景を見ないように。
少女の名はシロ・クリスタル 記憶に蓋をして家名を捨てた少女
「....ロ!........ロ!..シロ!!!」
声が聞こえる。
聞き覚えのある声優しい声。あの時助けてくれた男の子の声
臭くて嫌い沢山のけがをした子供が檻の中に囚われ悪い大人が笑っていた。
少年がチェルシーと言う名の少女を助け私や他の子も逃がしてくれた。
そう彼の名はロイ。
ロイの声なのに。
私の知ってる声も聞こえる気がする。
「確か、このガキは!.........シロ愛してる。だったな」
シロは覚えてるちゃんと。ぱぱもままも。ごめんなさい。
蓋していた記憶の井戸が開き目を開ける時。
「邪魔するならお前から食ってやる!」
ダリウスの右手がロイ目掛けて迫る。
瞬間ダリウスの右手が宙を舞う
後方を見ると先ほどまで寝ていたシロが立ち上がっていた。
息を荒くし爪が伸び目を見開いてダリウスを見ていた。
「血解!」
ダリウスが叫んだ。
血解、獣人の中に稀に生まれる特異体質。
自身の血液と体内を循環するマナを結合し獣人の血を本能を限界を超え解放する力
マナの総量が他種族よりも劣っているが故の進化。
シロは地面を強く蹴る。地面は抉れ亀裂が入る、瞬間ダリウスは吹き飛ぶ。
「うが!」
転がりながらも受け身を取り体勢を立て直そうとするダリウス
そんな間を与えぬかのように追撃を入れるシロの姿を目で追うことはできない。
伸びた爪により何度も繰り出される斬撃は肉をえぐり骨を砕きいくら自然治癒力にたけているダリウスでも
苦痛に耐えられる訳がなく。
再生と破壊を繰り返す鬼畜所業だった。
「ままもぱぱもお前に!お前にぃぃ!!!」
シロの悲痛な叫びと
「がぁぁぁ!!!!」
ダリウスの苦悶の叫びが入り混じる
腹の中を切れ味の悪い彫刻刀でかき回させる感覚のように激痛が何度も何度も何度も何度も何度も走り
持ち得る自然治癒力により何度も治癒する、無限に続くこの苦痛のなかで
ダリウスの体力も限界を迎えた。
自然治癒力がいくら高くとも消耗する体力は回復せず、体力が尽きればおのずと自然治癒も遅く次第に治癒すらしなくなる。
「はぁはぁ。」
息の切れたシロ
「..............」
息をしていないダリウス
足元に広がる血だまりと裂かれた胸部、胃や肺など内臓がズタボロにされ引き裂かれた食道からは
先程食ったであろう商人と思われるものの肉片が見えていた。
「うっ。」
シロは吐き気と共に血解は切れていき蓋をしていた過去の記憶と重なる光景に胸を締め付けられる。
涙を浮かべ口元を抑える。手に着いた血など気にする余裕すらなく泣き崩れる。
血解により治った足にも痛みが伴い痛みと悲しみ吐き気。すべてが入り混じりまた、あの時と同じ不快感にさいなまれる。
おぼつかない足取りで意識を保つことがやっと。そんなロイがシロを抱きしめる。
ただ一言「ありがとう、シロ。」
こんな言葉が、いやこんな言葉だから。
思い出したくなかった記憶が嫌な光景がこんな言葉で救われる。
僅か4歳の少女が背負えるはずのない責任感と後悔の重圧から逃げるように蓋をした残酷な現実を
今は13歳の少女が12歳の少年の優しい言葉で救われた。
こんなことでって言われるかもしれない。でもこんなことが救いになったのだから。
捨てた家名を今一度。
シロ・クリスタル 13歳。
ちょっとグロい表現頑張ってみました^^
次回29話 マナンブルグ




