24.(買い仕掛け)
…慰労会を解散したのちは、セイヤは次の新たな儲けの場を探すべく
毎日市場を散歩したり、遠出をしたり、新聞を読み込んだり、取引所で株価を逐一チェックしたりして
情報収集に励んでいた。
「チッ、なかなか良い仕掛けのネタというのは見つからないもんだな。」
或る日、昼まで寝ていたセイヤは、窓から降り注ぐ明るい日中の陽射しにようやく目を覚ますと、
目をこすりながらそう零した。
「まあ、まだ軍資金はたんまりある。暫くは働かなくて済むんだからそう焦ることもなかろうか。」
セイヤは起き上がって着替えながら、そう独り言をぶつぶつと述べた。
郵便受けから公国経済新聞を取ると、パラパラと寝そべりながら目を通す。
そうすると、はっと目を引く記事を発見した。
”フェアリーの亜人モンスター愛護団体による乱獲禁止のデモや抗議、盛り上がる”との
記事であった。
フェアリーは秘境に棲息し、非力だがすばしっこく幻覚魔法が厄介なモンスターだ。
その魔石は高価だが、法令の500万以上の値のモンスターにまでは該当しない為、近年その乱獲が問題となっているようだった。
よほど良い絵師を雇ったのか、'SAVE THE FAIRY'の標語が大きく描かれた下で、
ロリ風のフェアリーが両手を重ねて祈りを捧げるように大粒の涙を流す、
そのイラストの愛護ポスターやビラが話題になり、バズって哀感や共感を大いに呼ぶことになっていたと記事にある。
そういや、先日遠出をした際に愛護団体らしき奴らがそんなビラを街頭で配っていたような気がするな…
とセイヤは思い出したように心の中で呟いた。
各公国、王国、独立国、立憲君主国に愛護団体はフェアリーの禁猟の法令制定をするよう働きかけているとのことだった。
禁猟になれば、新たな魔石の供給が途絶えるので、既存の魔石の価値は上がる。
市場はいつだって正直かつ冷酷無比だ。そこにはいかなるセンチメンタルも同情も存在しない。
早速、セイヤは思い立ったように家を出ると、取引所へと向かった。
…そこでは果たして禁猟期待で、フェアリーの魔石の株価は当初の20万前後から、
1.5倍の30万前後まで急騰していた。
「よし、まだこれは初動の値動きだ。ここから、2倍、いや3倍以上に株価は跳ね上がるだろう。
次の仕掛けはこれだ…!」
セイヤは喜び勇んで、すぐさま軍資金の約500万に2倍のレバレッジを掛け、
フェアリーの魔石を1個30万の単価で、35個分、金額にして総額1050万分を買い建て注文した。
果たして、その後民衆のフェアリー愛護の賛同者もイラストのビラ効果でどんどん増えていき
フェアリー禁猟への動きはますます盛り上がりを見せていた。
それに比例して、フェアリーの魔石の値段も順調に上がり続け、とうとう30万から60万へと
2倍に高騰する値を付け出した。
「やった、やったぞ!俺の読みが当たった!!
ここで利確すれば、1050万の利益だ。それで今回は手仕舞いにするか?…
いや、しかしこの盛り上がりは凄い。それにフェアリーの魔石は今まで手垢のついていない
相場だ。青天井に上る筈…。まだまだ上がるのにここで降りる手は無い。せめて3倍になるまで
は待とう。儲けとは我慢料だ! 2倍くらいで降りちまうようなら億トレーダーになるなんて
夢の話だ。」
喜びに胸を躍らせた後、そうセイヤは自戒し、自分で自分に言い聞かせるように心の中で大きく呟いた。
…それから数日後、公国経済新聞記事の1面に衝撃的な知らせが報じられることとなった。
”フェアリーの魔石の大量保有企業である、大手金融系機関のハルベルトファイナンス
が巨額の裏金を亜人愛護団体の幹部に渡していたことが判明。
ハルベルトファイナンスは近々の決算の利益を良く見せる為に、禁猟を愛護団体に働きかけ
フェアリーの魔石の株価を上げさせる狙いがあった。”
「ば、馬鹿な…。なんて最悪なタイミングの時に最悪な事実が報じられるんだ。
せめて3倍に上り切った後に報じてくれれば…」
セイヤは肩をがっくりと落とし、うなだれて頭を振った。
やはり2倍の時に欲を張らずに利益確定をしておけば良かった。
1000万も利益が出れば十分じゃねえか…
記事の続きは、そのことを受けハルベルトファイナンスや愛護団体への批判や非難が殺到しており
フェアリー愛護の活動や禁猟の動きは急激に下火になるだろうと、と締め括られている。
俺は恐る恐る、取引所へ向かう。
はたして、というかフェアリーの魔石の売りと買いの注文板は
売りが殺到しており、買いはほぼついておらずストップ安の様相を見せていた。
その後何日もストップ安値付かずが続き、ようやく買いと売りの値段が成立したのは
セイヤの取得単価の30万を大きく下回る半値の15万だった。
セイヤは忸怩たる思いで、15万の値がつくと全ての買い建て玉を処分した。
損失は約マイナス500万近くにも及び、前回の利益の殆どを吹き飛ばしてしまう額だった。
フェアリーに掛けられた幻覚魔法のごとく、得られた筈の利益は儚げに散ってしまった…。
…「はあっ、クソッ…。前回の利益で損失は相殺でき、借金を負わずに済んだのは不幸中の幸いだったが、
手痛い失敗を負ってしまったな。」
セイヤはそう口惜しそうに唸るように零す。
「いやいや、過去の失敗を悔やんでいても仕方がない。かの偉人のエジソンも言っていたじゃねえか。
「私は失敗をしたんじゃない。電球が光らないという発見を100万回行っただけだ。」ってな!
この経験を糧に、次の仕掛けでは生かせばいい!!」
そうセイヤは自分に言い聞かせるように独り言をぶつぶつと呟いた。
翌日は朝から、セイヤは雑魚モンスター出現地域へと出向き、銅の剣から鋼の剣に、皮の盾から青銅の盾へと
バージョンアップさせた武具を装備し、粘性で緑色のスライムや小型の一角獣をへっぴり腰で
ちまちま倒していく。
ぽとんと落ちていく日銭の魔石を貯め、生活費と、そして次なる軍資金を貯める
糧へとしなければならなかった。
「やあ、セイヤ。励んでいるな。
今回稼いだ資金で武具を新調したものだから、
切れ味が良くていい。やはり高価なものはそれなりの価値はあるな。
ところで、暫くは働かないんじゃなかったのか?…」
ミリシャは、バサッと中級モンスターを次々と新しい剣で薙ぎ倒しながらそう声を掛けてきた。
「はは、いや…。たまにはこうやって仕事がてら運動しないと体がなまっちまうからな。」
そうセイヤは苦笑いしながら、曖昧に返した。
夕暮れになり、集めた魔石を雀の涙の額で、取引所で換金するとセイヤは帰途についた。
「ふう、気分直しにたまにはパーッとやるか…。」
セイヤは仕切り直しも兼ねて、街外れの少し高級なバーに夜は出向こうと考えた。
…その日の夜、セイヤは街外れのバー「カルアポネ」で
カウンターに座り、安酒を注文しては煽るように飲んでいった。
「まだだ。まだ俺は終わらん…。次こそは必ず利益をものにし、億への足掛かりを作ってみせる。」
そう威勢よく酔った勢いで一人で喋り続けた。




