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FAMILIAR SIGHT ~三下シーフ、翔んでみせろ~  作者: のうき
■港街ボルトーノ■
31/33

期待はずれの人

「あのな、俺は()うたよな、あまりでかい生き(モン)は拾ってくるな、て」



 ここは港町ボルトーノの盗賊ギルド。珍しく招集に応じて素直に帰ってきたギルドの“お嬢”、ノルトに説教しているのは、中途半端な長さの黒髪を後ろで結わえている、冴えない外見の男だった。その口調はこの国では珍しい訛りがある。海を越えた、西方の訛りらしい。


「ペットみたいに言わないでよ」

「せやかてあれ、普通の人間やないやろ。また幻獣みたいなん拾うてきて、魔術師ギルドに絞られんのはゴメンやで」

「普通じゃないけど、盗賊ギルド(ここ)だったらそこまで珍しくないでしょ」

「そんなに珍しくないモンなら、お前、拾って()えへんやろうが!」


 ノルトはギルドマスターの娘である。上に兄が2人いる上に妾腹の身で、幼い頃は不遇の扱いであったが、成長するにつれてメキメキと頭角を現し、とうとう次代ギルドマスターの本命にまで登りつめた。今ではほとんどのギルドメンバーに敬語を使われる立場なのだが、この男だけはそれをしない。

 一応、本人も周りからの圧力で態度を改めようとしたのだが、当のノルトに「気持ち悪いからやめて」と切り捨てられた。幼いころからなにくれとなく世話を焼いてきた、言ってみれば乳母のような男である。ギルド内でも“我らが子守番様”の二つ名を頂いている。



 連れてこられた“でかい生き(モン)”ことカタールは、馬車で移動中はずっと横になったまま、誰とも口を利かなかった。傷はよくなってきていたようだが、それも触らせない。ノルトも特に気にせず、食事だけ与えて後は放っておいた。

 ギルドに着いた時も、誰とも目を合わせずにノルトが用意した私室の一つに籠ってしまった。


「不貞腐れてるんじゃないかしら」


 子供(ガキ)やないんやから、と男は思った。子供(ガキ)やったら扱いはわかるけど、立派な大人だわ見た目は怖いわ、まあしゃあないからメシでも持って行くか、と、


「ちょいと開けるで」

「あんたが行かないほうがいいわよ」



 静かに発したノルトの言葉を聞くより先にドアを開けて、軽食の乗ったトレイをテーブルに乗せた男の顔を、カタールは驚きの表情で凝視した。次の瞬間、


「セス!!」


 カタールは力任せに男を殴り飛ばした。ドアの外まで吹っ飛んだ男を見ながら、ノルトは淹れたての紅茶を飲みつつ、


「だから止めたのに」

「あんなん止めた内に入るかい!」


 そんなやり取りを完全に無視して、カタールは更に男を組み敷いて胸ぐらを掴んだ。


「カタール、やめときなさい、そいつセスじゃないから」

「どうして、俺の、名前を……」

「もう色々わかってるの。悪いけど。あとその男は本当にセスじゃなくて、双子の兄弟でケイスっていうの」


「いやちょっと待てや、なんでお前らの口からその名前が出てくんねん、セスって確か……」

「めんどくさいからケイスはちょっと黙ってて。カタール、落ち着いて()()()わかるでしょ、別人だって」

「…………」


 男――ケイスに馬乗りになったまま、額に片手を当てて目を細める。何かを()()あと、忌々しそうにケイスを突き放してまた部屋に戻り、ドアを荒々しく閉めてしまった。殴られた上に取り残されたケイスは叫ぶ。



「お前ら一体なんやねん!」



***



 ギルドにある応接室の一つに、人払いをしてノルトとケイスはいた。普通はノルトのために警護を置くようなシチュエーションだが、ケイス相手ではいちいちそんなことはしない。何の()()もないことが分かっているからだ。


「で、バザーで偶然会った、と。また外でそんなことしとったんかい」

 カタールに殴り飛ばされた顔面をさすりながら、ケイスはノルトから経緯を聞いていた。

「怪我はもう治したじゃない。いつまで触ってるの」

「気分の問題や! お前、悪いとか全く思ってないやろ! ……しかし、ごっつい偶然が起こるもんやな」

「偶然……ね、ある程度はそうね。ケイス、あんた兄弟(セス)に会いたい?」

「今更兄弟とか言われてもなあ。真っ当に商売人やっとるもんやと思っとったのに同じ稼業(シーフ)とか。まあ、この街に()んねやったら一度くらいは顔見といてもええかな」


「生きてる状態と死んでる状態、どっちがいい?」

「は?」

「これ、あいつ」


 ギルドの回覧から抜き取った手配書を見せる。顔立ちはそれほど再現されていないが、特徴のある3本の傷は特定するには十分だろう。そろそろギルドの盗賊たちに周知され始めていると思われる。


「あっちゃあ……なにやらかしてくれとんねん、あいつは……」

「あんたみたいだったわ」

「そりゃ顔は同じやからな」

「そうじゃなくて、目標もなくのらくら生きてる感じが」


 涼しい顔をして、淹れなおした紅茶に口をつける。


「あたしが会った時は、少し変わってきてたようだけど。あんたもギルドの重要書類とか持って逃げてみたらどうかしら」

「どんな罰ゲームやねん、死ぬやんけ」


 死なさないわよ、とノルトは心の中で呟いた。

あ、あの3人出てこなかった。


ノルトとケイスは別作品「ガケップチPICKPOCKET ~子守シーフとギルドの「ご息女」~」の登場人物でもあります。興味がおありの方はシリーズのリンクから飛んでみてください。

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