なんですかこれは
「こ・れ・は……」
一足先に様子見で先行しているセス。聞いていたランスの“ご実家”は、村の入り口からは離れたところにあった。というか、村の中、ではなく半分森に埋もれた場所だ。非常にわかりやすい村八分な位置にあるわけだが、その家は前説の様相とはかなり変わっていた。
「落書きもあったし、放火されかかったこともあるから焦げた跡もある。建ってるのがやっと、みたいな惨状だった」
いやいやいやいや。
レンガは組み直されて屋根は赤く、壁も新しく白く塗られ、絵本に出てくる妖精の家のような、ポエトリーでメルヒェンな家がそこにあった。白く塗られた立て看板には、青いペンキで“エルフの奇跡の家”とか書いてある。森に埋もれかけた外見にはマッチしているのだろうが、あまりの現実感のなさにセスは頭がクラクラしてきた。旅装束をした数人が、家の前に並んでいる。
妙な空気に中りそうだったので一旦スルーして、村の中に入る。幸い、身元を厳しくとがめられることもなく、道中に採取してきた薬草や樹木の皮、木の実などを見せ、採取を依頼されてきた冒険者を装う。
村は大きな規模ではないが、目抜き通りらしい大きめの道の左右には、新しい店が目につく。どれも意匠にエルフの姿をあしらっており、セスはまた頭痛がしてきた。
比較的昔から営んでいそうな店に入り、とにかくエルフのキャラ感がしない服を調達する。例の“神の僕”のせいで着替えがほとんどやられてしまったのだ。店主に金を払いながら、事情を知らない旅人風に話しかけてみる。
「ああ、“エルフの奇跡の家”な。あそこにはエルフの女が住んでいて、魔法で色々なことを解決してくれるんだ。おかげでこんな小さな村にも訪れる人が増えて、エルフ様様だよ!」
「ずいぶん新しい家だったけど、エルフが最近住み始めたのかい」
「あ、いや、ずっとここにいたよ。さ、最近人のために奇跡を広めたいって言うんで、みんなで家を建て直したんだ、なあ!」
店主は汗をかきながら、おかみらしい女に同意を求める。
「そうだね」
若干、不機嫌な感じでおかみは頷く。
わかりやすい。
詐欺の教本1ページ目に書いてあるくらいにわかりやすい。
そもそもが数年前までハーフエルフを迫害してきた村だ。その男が住んでいた家を魔改造して、エルフを推して商売してるってどんな神経だ?
「奇跡って、どんなことができるのかな。俺もあやかってみたいな」
「今は幸運のお守りに力を与えてくださってるよ」
「今は?」
「昔は怪我や病気を治したりしてたけどね。今はそんな小さなことはなさらないんだ」
ここにも引っかかりを感じた。
言葉の前半と後半の主語が違くねえか?
村人の怪我や病気を治していたのは、他のヤツじゃねえか?
***
「どうだったの?」
「ランスが今の実家見たら、大笑いするか吐くかどっちかだ。俺は吐く方に賭ける。ほら、有難い食い物買ってきてやったぜ」
村で買ってきたパンには、耳のとがった子供の絵が焼き付けられていた。
「村で売ってる持ち帰りの食べ物、大体そんなん」
「うっわあ、食欲そそるわあ……」
今まで見た一番イヤそうな顔で、絵が見えないように裏返して食べ始めるシャム。ランスは頭を抱えたまま地面まで突っ伏しそうだ。
多分、聞いた後ではランスがメシ食えなくなる。ので、ボソボソと陰気に食事を終えた後、セスは村で見たもののことを話して聞かせた。
「昔、村で怪我や病気を治してたエルフ様って、ランスのことだろ」
「まあ……俺だったこともあるけど、大抵はお袋だ。エルフじゃないけどな」
「魔法使いだったの? あ、そうか、その杖」
「お袋の杖だった。若いころは冒険者だったけど、足を悪くしてな」
「治せないくらい?」
「失くしたら、さすがにな」
子供ができたから定住したのか、定住してから子供ができたのか、ともかく親子でここにそれなりの長期間住んでいたようだ。普段はいないもの以下の扱いをしながら、都合のいいときだけ頼ってくる村人と微妙な距離を置きながら。
「ランスの魔法は、お袋さん直伝か?」
「他に習う人間はいなかったからな」
「思うんだけどさ、お前のお袋さんって相当優秀だったんじゃないか? ランスがちょいちょい使う魔法も種類が多い。普通何かに特化するもんだって聞いてるけど、お前は攻撃も補助も、回復までこなすだろ」
「そういうものじゃないのか?」
「俺は専門じゃないけど、そういうもんじゃないと思う」
だから村の連中はあの家を使ってるのか、とランスは呟いた。家にも何か魔法が残っているのかもしれない。
「ねえ、ランスはまたこの村に戻ってくる予定はある?」
「今回のことがなければ、もう戻るつもりはなかった」
「お母さんのお墓、村の連中が知ってる場所にある?」
「いや、だいぶ森の深いところで埋めた。俺以外は知らないんじゃないかな」
「じゃあ、後でお墓を荒らされたりする心配もない、かな」
「なら、やっちゃっていいわよねえ?」
何をする気だ。
シャムは空色の目を細めて、にんまりと笑っている。
「“エルフの奇跡”を見せてやろうじゃない、ねえ?」
多分まんじゅうとかも売ってます




