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余命1000年くらいの花嫁

 寝不足とか疲れとか、下がりがちだった瞼が一気に開いた。


「ご結婚……なさってたんスか」


 驚きで口調がおかしくなっているセス。目を合わせずに、岩に花を添えるシャム。

「ご結婚なさってたんスよ、ちょっとの間だけね」

 黙祷の後、先に歩き出したシャムを男2人が慌てて追いかける。


「一時期、旅の仲間を別のパーティと組んでたことがあって、その時の1人。うちの親とも仲良かったし、しつこくアタックされてたし、アンタの方が先死ぬわよって何度言っても挫けなかったし」


「シャム、先に行くのはいいけどそっちじゃねえ、左」


「先死ぬのはわかってたけど、さすがに半年で死ぬとは思わなかったわ。アタシが不意打ちで背中バッサリやられたのを助けようとして、一人で魔物と戦って」


「次の分かれ道、右」


「パーティに運よく治療魔法使えるのがいてね、アタシも普通死ぬ傷だって言われたけど、寿命どれだけ削っても問題なさそうだからって魔法ガンガンかけて生き残っちゃったのよ。アイツは……ダメだったけど」


 シャムの背中の傷、あれは。


 “血”なんかに助けられるのももう御免だわ。


 ランスはシャムの言葉を思い出していた。そこで死にたかったわけではないだろうが、取り残されてしまった者の気持ちは少しだけわかる、自分も母親に取り残されてしまった者だから。別に残したかったわけではないだろうし、とっくに成人した男がいつまでも心を残しているわけにもいかないので、割り切ったつもりになっていた。


 自分やシャムは、これからどれだけの人間に置いて行かれるのか。

 今一緒にいるこの男(セス)なんか、明日にでもコロッといくかもしれないし。



「次どっち」

「そのまままっすぐ」


「アンタら泣いてんじゃないでしょうね」

「泣かねえよ! ていうかお前が泣けよこういうときくらい!」



***



 シャムの話題はもう誰も継がず、3人はランスの故郷に向かってただ歩いていた。「最近物騒だ」と商隊で聞いてはいたが、思ったよりも危険な目には遭わずに済んだ。シャムの武勲は数回増え、ランスの補助も効いている。こいつ、もしかして魔法ギルドできちんと視てもらえば結構いい称号貰えちゃったりするんじゃないか? とセスは思う。


「ま、そもそも危険が少ないのは俺のナビがいいからだけどな!」


 フィールドワーク専門というのは伊達ではないのだろう。レンジャー(野伏)を名乗った方がいいのではないかと思うくらいには。




 2日ほど歩き、また野営か、とさすがにうんざりしたところに小さい集落を見つけ、一行は久しぶりに屋根のある場所で寝ることができた。民家の納屋を貸してもらっただけだが、気持ち的には相当違う。セスが道中拾ってきた木の実や、薬草の提供も家主の印象を良くしたようだ。風変わりな2人には言及せず、温かいスープまで提供してもらえた。


「ランス、ここの集落に見覚えはないか?」

「村を出てきた途中で見かけたような……気もする」

「やっぱそうだな、じゃあ、明日にはお前のご実家参りだ」

「ご実家、か」


 物憂げにランスは呟いた。端正な横顔を見ながら、この顔なら普通もうちょっとワルい生き方しても上手くやってけただろうに、とセスは思う。実際、盗賊ギルドにいたハーフエルフの男は、女衒のように振舞って大勢の娼婦を従え、金回りも相当よさそうだった。


 まあ、そのうちの一人に刺されて死んだけどな。

 憧れるような生き方じゃないし、ランスはランスなりにもうちょっと気持ちを楽に生きられたらいいのにな、と思いつつ、セスは久しぶりに深い眠りについた。



***



 翌朝、民家の主人にお礼を言って集落を後にしようとしたセスに、家の奥にいた老人が声をかけた。

「あんたの連れは、エルフというやつかい」

「そうだよ」

「若いころに、一度だけ見たことがある。そこの背の高い兄さんによく似とった。まあ、他に見たことがないからそう思うだけかもしれんがな」


 老人はからからと笑った。もしかしてそれは…とシャムとセスはランスの顔を見たが、憮然とした表情で何も言わない。ので2人も余計なことは言わないことにした。


「ここから半日くらい行ったところに、ズイという村があってな、最近“エルフの奇跡”を売りにしとるらしい。お前さん方の仲間かもしれんのう」


「ズイ?」

「多分……俺の村だ」


 ランスが小声で言った。“エルフの奇跡”? いったい何のことだ?


 意外な言葉にうろたえながら、老人と家族に再度礼を言って集落を後にした。




「ええと、村にいた時、ランスは……」

「ああ、よくある一通りのことはされたよ。村八分、どころか十分だったな。放火までされかけたしな」

「そこが? 今? “エルフの奇跡”?」

「……帰りたい気持なんかなかったが、更にその気がガンガン減っていくな」


 鬱全開で項垂れるランスが、チラリとシャムを見た。あ、こいつ……



「経験から言うとねえ、そういう田舎の村おこしの“売り”ってねえ、大概裏があるのよねえ」



 人生の先輩(パイセン)が、久々に輝いた眼をしていた。

本当に最近気づいたんですが、3人とも相当こじらせてるやっかいな人たちですね。

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