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お・の・れローテンション男

「整理しよう」


 セスの手当てや荷物の回収、なんだかんだと後始末をしていたら結局野営になってしまった。何が起こるかわからないので、例の大穴からはシャムの気分が悪くならないところまで距離を取った。

「坑道のカナリヤみたいだな」

「カナリヤだけが最後まで生き残りそうだが」

「アンタらうるさい、アレは本当にキツかったんだから」



***



 焚火を囲みながら、セスが口を開く。

「バカなことって言われるかもしんねえけど、“おそらにあるおおきなおしろ”って、もしかしたら本当のことなんじゃね?」


 空ではなかったが、3人とも見たのだ、“おおきなおしろ”を。

 幻ではあったが、見たものをすり合わせていくとほぼ一致していた。

 アンデッドかなにかだった、あの老婆までおそらく同じものを見ていた。


 街を一つ分くり抜いたような大穴。

 マナの異常。

 50年以上待ったという老婆の言葉。


「シャム、お前いくつだ」

「女子にそういうこと聞かない」

「今はフェミニスト気取ってる場合じゃねえんだ。お前、100年以上生きてたりする?」

「……そこまではいってないわよぅ」

「じゃあ計算は合わない訳じゃないな。あのババアが言ってたのがマジなら、前に“城”が降りてきたのは50年以上前。そん時に、お前は城からなんかの理由で地上に残された。カギ(プレート)を持たされてな。お前が王の一族だったとしたら、この地に帰ってきたことでなんかの魔法が発動して……」


「ストップ。走りすぎだ、セス」

「わかってる、わかってる、けど」


 止まらない。情報量が多すぎて吐き出さないと落ち着かない。


「あの婆さんの様子だと、王の一族とやらにはランスも入ってたわよ? っていうか、エルフ全部ひっくるめて王の一族呼ばわりなんじゃないの」

「“えらいえらいおうさま”や“りっぱなひとたち”か。あのババアみたいなエルフ信奉者が作った話なのかもな。反吐が出そうだ」



「一緒にするなよ」

「一緒にしないでよ」



 ランスとシャムが同時に言い切った。


「人間の女に子供産ませといて捨てて逃げたエルフか、立派すぎてそれこそ反吐が出る」

「勝手に王族とかにしてんじゃないわよ。アタシはここで育って、地に足着けて生きてきたんだから。空なんか()の住むとこじゃないわよ」



 ああ、もしかして、そういうことかもしれない。



「シャム、お前に“空から悪魔が攫いに来る”って教えたのはお前の両親か?」

「そうよ、また世代が古い話とか言われる?」



「確かに、空から来るのは悪魔だったんじゃないかな、お前の両親にとっては」



 シャムの両親も見たのではないだろうか。 濃い霧の中で。大きな地震――地響きを立てて飛び立った何かを。

 そこに残された赤ん坊。やがてそれは愛してやまない娘に育つ。もしかしたら、何かがまた降りてきて、娘を連れて行ってしまうかもしれない。それが何者かはわからないが、それは彼らにとっては“悪魔”以外の何物でもない。セスはシャムの昔話から推測する。


「……って、だから何であんたら2人が涙ぐむの!」

「お前が泣かねえからだよ」


 色々な意味で、親に捨てられた感のある2人には、シャムの両親の話が眩しすぎた。





「4つ集めたら、来ちゃうのかしら」

「来る……かもな」

「セス、あんた城が本当に降りてきたらどうするの? 何か手に入る、じゃ済まないかもしれないわよ?」



「行く」

「「即答かい」」



「いや俺ヘタレだからさ、迷い始めたらまたずっと先に進めなくなると思うんだ。もう決めたらそれしか見ない。バカでごめんな」


「流石に話が大きすぎるもんねえ。何しに来るんだかもわかんないし、なんでプレートをばら撒いたかもわかんないし」


「降りるか?」

「バカ言わないでよ。なんか訳わかんないことに巻き込んだ大元に一発パンチ入れないと気が済まないわよ」

「それ、俺のことじゃないか?」

「アンタはもう散々ドツいたからいいのよ」


 その間、ランスは黙っていた。そうだよな、こいつ本当に巻き込まれただけだもんな。




「とにかく、判断材料が少なすぎるんだよな。やっぱボルトーノの、その、“本屋”で調べてみるのが一番か。そもそも、まだ2つか、3つしか行方を掴んでないんだ」


 1つめはセスが持っている分。

 2つめはシャムの両親の墓に。ただし、これと1つめは同じものかもしれない。

 3つめは襲われた商隊の男から、多分ダークエルフに渡ってる。


「4つめの手がかりがないんだよな。お前らとウロウロしてれば、いずれ“呼ばれる”かもしれないけど俺にはあんまり時間がない。流石にそろそろ刺客(クロノ)に何かあったのがバレてるだろうし」



 その時、ずっと黙っていたランスが言いにくそうに口を開いた。


「――4つめの場所、多分わかると思う」

「え、どこか手がかりでもあったの? まさか遺跡の文字読めたりした?」

「さすがにあれは古い言葉すぎて。――言おうかどうか迷ってたんだけど、ここまで来たら偶然ではないと思ったから……」


 言い淀むランスに、シャムとセスは詰め寄る。

「何を知ってるんだよ、どこにあるのかわかるならハッキリしろよ」




「………………俺の家」

「「は?」」

偏頭痛で色々なものを棒に振りそうな冬。

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