何処か...どっちか...
「あれ?」
目の前には何かのガスが噴き出している沼があった。
「――おいシャム、ここがお前の実家か? お前はヘビか? 毒トカゲか?」
「おっかしいわね~」
相変わらず、道に迷っている3人だった。
「あ、もうちょっと南だったかも」
「もういいわ」
ツッコミの手にも力が入ろうというものだ。
「あのな、俺も地理については素人じゃねえ。お前らの目的地、ハッキリ地名で言ってくれ!」
「あたしの実家。」
「俺の村。」
地名じゃねえ。
「悪いな、俺自分の村から出たことなかったから。戻るつもりもなかったし、周りとの付き合いもなくて」
「アタシも行けると思ったのよね、ドリカ村は見覚えもあったし」
「もうヤダ、俺田舎者とつきあうのヤダ……」
「ラソウって村があって、そこまで行けば間違いなく案内できると思うんだけどー」
「お前の案内はいらん!」
「うわっ」
ランスが突然驚きの声を上げた。岩の間から赤黒い草のようなものが、ウゾウゾと動きながら這い出ている。
「なんだこれ、気味悪いな。モンスターなのか?」
「絡み草を知らねえのか、ってことはお前の村はもっと西だな」
地図に何やら書き込みながらセスが答える。
「あ、危なくないのか? これ」
「うん、危ねえ。血ィ吸うから」
「げ」
「でもコイツ、まだ小さいしホラ」
シャムは木の枝を拾い、絡み草を釣り上げる。根を地面から離してもしばらくは生きているらしい。
「なんだそれ、ガキくせえ」
と言いながらセスは、かなり大きくなった絡み草を釣り上げた。
コドモが2人いる。ランスは頭を抱えた。
「お前もやってみる?」
「やらない」
「見たことないんだろ?」
「別に見たくない」
「今後山歩きの参考になるかも」
「しない」
何か言いかけた2人に、ランスは耳をふさぎながら
「やらない、見ない、しない!」
どうにもコドモっぽいとこあるな、と2人も逆に思った。
結局、似た者同士なのかもしれない。
シャムは最後まで案内をすると言い張った。今日くらいは付き合ってやろうと、セスは地図を描きながらついていく。最終的には地図の空いてるところがこいつの実家だろう。
「ここまで来たらもうわかるって! この藪抜けたら近道なのよ!」
「どんどん森が深くなってないか?」
「そんなことないわよ。あ、ほーら、開けたあ!」
たどり着いたそこは、確かに開けた場所だった。
3人がいるのは、崖の上。ただ見渡す風景は、崖というより穴、だった。ただただ大きな穴。小さな街一つ分の広さを、巨大なスコップのようなものでえぐり取ったかに見える大穴だった。
穴の縁までは森の木が生えているが、30メートルほどの高さの下を覗くと岩と草と低木、あとは水が溜まっているだけだった。
「……開けたなあ」
「……開けたねえ」
「「つーか、ここ何処よ。」」
***
「ここは私の土地ですよ」
「は?」
シャムとランス2人を崖の縁に残して、セスはザックを一つ背負って偵察に出ていた。自分が行かないと、2人のどっちを行かせても絶対帰ってこれないと思ったからだ。それに、フィールドワークは慣れている。どれくらいかかるかわからないが、崖の半周くらいは回ってみてから帰るつもりだった。
小1時間ほど歩いたところで、まさかの存在に出会った。人っ子1人、どころか生き物の気配すらしない森の中、岩に腰を掛けている1人の老婆だ。真っ白な髪を後ろで結い、古びてはいるが、仕立てのよさそうな服を着て、膝には複雑な織のストールをかけている。こんな場所にはあまりにも不似合いだ。
近くに集落らしきものもなかったし、どこから来たんだこの婆さん。
その上、第一声がコレ。
「正確には王から任されている土地です。王はいつでも天空から見守っていてくださる……王の力は素晴らしい、そのお陰で私は余人にない力を行使できるのです。おお偉大なる王よ、私は永久にあなたにお仕え致します。次に降臨くださりし時は必ず私めもお連れくださるよう……」
「あーもううるせえなあ!」
中空を見上げながら、訳の分からないことを一息に喋る老婆。
完全にヤバい人に出会ってしまいました。
って、なんか聞いた話だなと思ったら、夕べランスとしていたお伽噺じゃねえか。
***
おそらにあるのは くもやかぜだけじゃありません
おそらには おおきなおしろがあるのです
そこには えらいえらいおうさまや
りっぱなひとたちがすんでいます
こどもたち おまえたちがりっぱなおとなになったら
おしろからむかえがくるかもしれないよ
***
子供のころに聞いたお伽噺を思い出している間にも、老婆は語り続けている。
「王は古来から不滅の存在なのです。老いず、死なず、総てを見下ろす。王は勿論世界の全てを手中にされています。でもここは特別に選ばれた土地なのですよ」
アレかな、飢えと孤独でおかしくなったのかなあ。それにしちゃ元気そうなんだよなあ。ガリガリに痩せてはいるけども。
追手とは思えねえけど、関わらないほうがいいな。人間じゃないかもだし。
「王の一族は全員が美しい金の髪と、透き通る蒼い瞳を持っているのです。大変尊い姿です」
「ははは、いま金髪と碧眼は間に合ってんだわ。じゃあな婆さん」
「おや、行っておしまいかい」
これ以上つきあってると頭痛くなりそうだ。セスは老婆をそのままに、先へ行こうとした。
「折角特別に話を聞かせてやったのにねえ、運 び 屋 風 情 に」
「!」
***
「偵察野郎は帰ってこないわねえ。空だけ見てんのも飽きてきたわ。鳥の1羽も飛んで来やしない」
「1人で行かせたのはマズかったかな……」
「なによ、近場に大型の生き物の気配はないって言ったのはアンタでしょ」
「それなんだ。確かに大きいのはいないけど、小さい生き物の気配もない」
「……アタシさっきからなんとなく気分悪いんだけど、それ関係あるかしら」
「何か悪いものでも食べたのか?」
「アンタらと同じもんしか食べてないわよ!」
「とにかく一旦セスを呼び戻そう」
ランスは短い呪文を唱え、小さい光を打ち上げた。“帰ってこい”の合図だ。小さいが高くまで届く光。連絡用としてよく使われる。
が、打ちあがった光は突然大きく膨れ、ドン!という音とともに爆散した。
「あ、あ、あ、アンタ、ジャイアントでも呼び出そうって気!?」
「できるかそんな事! どうもここら一帯のマナが恐ろしく不安定みたいだ」
2人は顔を見合わせ、駆け出した。
「セスを追える?」
「大体の場所はわかる!」
***
「運び屋ってなァ、俺のことか」
「他に誰がいるんだね。王族に憑りついてこの聖なる地に入ってくるなんて、本来とんでもないことですよ。最期にこの地を踏めただけでも有難いと思うのだね、運び屋」
「終わったんだよ」
老婆の言葉を遮る。
「俺が運び屋だったとしても、それはもう終わったんだ。大体“王族”って何だよ。もしかしてツレのことか? ありゃただの」
バッ。
音とともに、セスの視界が赤く染まる。額から鮮血が噴き出ていた。額を押さえてセスは思わず膝をつく。
老婆がセスに向けた指先から、黒い棘のようなものが放たれていた。
「黙りなさい。お前ごときにあの方々が本当のことを話すと思うか? 終わりなどない、お前たちはずっと王族の下僕なのです。生まれてから死ぬまでずっと」
老婆の手が再びセスを指そうとする。それを防ぐため、セスは持っていたザックを勢いよく投げつけ、血に染まったバンダナを締めなおす。
「王族だァ? 冗談言うな。俺のツレはタダの野良エルフなんだよ」
皆様に地震の被害が少なくありますよう。
余震に気を付けてください。
うちは家の模型が1つ半壊しました…




