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RCC シェパード ディグニティ  作者: セロリア
22/27

宗方弥子

東京。


午前11時。


松本宅。



アパートの一室。



〈カタカタカタカタ、カチ、カタカタカチカチ〉



松本はPC6台、モニター11画面を見、猛烈な勢いで利確、損切りを繰り出していく。



松本「これは・・売り、これは買い、切り、切り、切り、反転、売り、これは・・見送り」


独り言を言いながらストイックに淡々と、ただ淡々と繰り出す。



少しの躊躇いがなく、損切りを繰り出す。


ニュース用モニターを時折、チラチラ見ながら、まるでサイボーグの様に。


松本「売り、売り、売り、見送り、見送り、見送り、見送り、見送りこれも・・いや買い、切り」


今日で3日目だ。



〈ピピピピ〉アラーム。



松本「そろそろ休憩か・・了解・・決済準備・・全ての通貨決済作業開始」 〈カタカタカタカチカチ〉


猛烈な勢いでお得な順々に決済作業がなされていく。


松本「決、・・決・・決・・決・・待ち・・損切り・・決・・待ち・・損切り・・決」


アラームから40分経過。



松本「・・決済作業終了・・ふう・・さ、食事と、おしめを変えないと」 立ち上がる。



おしめを履き替え、食事を取る。



一日一食。



何かのスイッチが入ってしまったようだった。



取り付かれたようにPCの前に座り続けていた。



松本「美味しい・・何か・・いつものすき家なのに・・美味しいな・・やっぱり汗かく程に頑張ってるからなのか?」



松本の仕事場を覗いて見よう。



机がコの字になっており、奥行が1mくらいある。そこにモニターアームを使い、高さがあるモニターを実現している。


株とFXとで机が別々だ。


二つの椅子がある。


株の椅子、FXの椅子と分けているようだ。


机の上は隅々まで綺麗に整理整頓されている。


部屋はまあまあ汚いが。



PCを覗くと取り引き画面が縦横無尽にある。


株、FXのそれぞれ一つずつの口座画面が見える。


株の保有資産評価計現在 20億7千6百25万5776円。


FXの口座残高計 6千2百3万9989円。


3日で1億3千万増やしていた。



FXで稼いだ金を株に回しているようだ。



松本「結構・・危ないよなあ・・」 無茶苦茶なレバレッジをかけ、ロット数も海外の口座を使用し、400倍、5000枚という途方もない事をしていた。


松本「でも・・卒業までに・・何としても・・目立つ荒波の時代じゃない今の経済では・・リスクを取るしか道はない」 〈ギシ〉 FX用の椅子に座る。



松本「・・さあて・・負けるぞ・・俺は今から負ける・・負ける・・やばい・・やばい・・自信を捨てろ・・俺は今から・・負ける・・スウーーーハアア・・スウーーーーハアアーーー」目を瞑り精神統一。


5分間瞑想。



松本「・・良し負け戦だ・・負けるぞ・・」 〈カチカチポーン、ポーン、ポーン〉またスタート。



今までは一日にFXでは平均70万~300万、株では200万~5億の取り引きで十分だった。


しかし、初咲の卒業までに、つまりあと2年と半年で10億を稼ぐとなると、途方もないリスクが必要となる。


机に向かい、手作業するだけの簡単な仕事だと思うかも知れない。が、それは大きな間違いだ。


いちいち一喜一憂したくなるのが人間だからである。


儲ければ、贅沢をしたくなり、誰かに自慢したくなり、自分にご褒美を買い与えたくなる。


それが人間の性だ。


この世界ではそれらは一切  『  不  要  』 である。


人間の自分を殺し、常に危機感を持ち続け、ロボットのように繰り返す。


いちいち計算などしない。


そこには淡々とした世界が広がり、暗闇、孤独、が渦巻いている。


情報によって経済が例え混乱しようとも、一切取り乱さず、淡々と決済していき、次の反動に備える。


そう、肉体の怪物達がモノを言うのがリアルなのだとすれば、このバーチャルの世界は精神の化物達がモノを言う世界なのだ。


松本「・・買い、送り、送り、売り、売り、売り、送り、送り」 


汗を流し、とんでもないリスクを犯しながら突き進む。


それはまるで、戦場で活躍する一人の若鬼武者。


一騎当千の鬼武者である。




数年後にこの口座取り引き履歴をみた海外のFX業者にインタビューできた。



この男が語ってくれた。




台湾FXフロアチーフ「棚卸しであの取り引き履歴をみた時は・・もう・・ね・・」 首を振る。



チーフ「黒人のボブが皆これ見ろよって叫んで、一番大きいモニターに映したんだ・・全く・・茫然としたね・・そりゃ皆さ、皆棒立ちってやつさハハハ、5000枚だぜ?信じられなかったよ・・それにあのロット数・・思い出すだけでゾってくるねハハハハハハハ」




それで?





チーフ「暫くこれは誰だ?って話になってね・・まあ簡単に見つかったんだが、日本人だってさ!ヒュウ!2度驚いたね!まさか日本人だったとはね!てっきりイギリス人だとばかり思ってたから」




異常でした?




チーフ「そりゃあね!もう目ん玉飛び出たよ・・普通あんなに勝てないよ・・まるで・・そう・・まるで・・先が・・未来がコイツ見えてるんじゃないか?って思ったもんさ!だって信じられるかい?損切りの数が半端なく大量なんだ、取り引きの8割が損切りだ、でも可笑しいんだ・・笑っちまうんだが・・くっくっく・・幅が凄い短いんだよ・・様子見なんて一切ないんだぜ?おいおいもう少し様子見ろよって思う場面でも、迷わず損切りを出してたね、あれは・・天才なんてモンじゃない・・そんな次元じゃないんだ・・分かるだろ?分かんない?」





人間ではなくロボットみたいだと?






チーフ「ああ・・ああ!そうだね!そうだ・・あれはロボットに違いないよ・・最先端のAIだ、だろ?だってあんな取り引き・・普通発狂しちまうよ!だろ?だって考えてみてごらん?有効比率一杯に数秒単位で投げて、戻して、投げて、戻してってやってるんだぜ?ッハッハッハッハッハしかも、一切勿体無いって思ってないんだ!震えちまうよ・・正にクレイジーってヤツさ!イカれてるんだよ!頭のネジが3本くらい飛んじまってるのさあれは!もう絶対人間じゃないよッハッハッハッハ」




その日本人は今何て呼ばれているのですか?




チーフ「伝説となってるよ・・サムライマスターXってな、コッチの世界では有名さ、何せリターン2万越えだぜ?ブッチギリの世界トップさ!ある程度勝ったらすぐに移してたな・・多分株にでも移してたんじゃないの?知らないけどハッハッハッハ、おっと、もういい?そろそろ戻らないと」



有難う御座いました。



チーフ「君・・君さ・・」



何か?



チーフ「君も日本人だから、その、もしミスターサムライXに会う事が出来たら俺の電話番号渡してくれよ?絶対だからな?後サインも頼む!じゃ!」 〈バタン〉





現在。


深夜1時38分。



松本「ふう・・今日はここまでかな・・全部決済一気〈カチカチ〉・・ 完了、確認、決済ミス・・なし・・今日の作業終了」 〈~~~~♪〉 お風呂のお湯が溜まった音。


松本「タイミングバッチリだな、入って寝よ」 〈ギシ〉 









殺し合いの世界。



マネーの殺し合い。




そこで未来の世界の頂点に立つ男が今ー。




松本「初咲・・今頃何してるのかな・・メール送った方がいいんだろうか?全く連絡無いんだもんなあ・・はあ・・それにしても・・」 〈チャポ〉 湯船に浸かり、手を見る。



松本「今の俺・・何か、やばいな・・はは」






天才の大輪の蕾が、開こうとしていた。








学園武道教室。


実技試験。



防具無し。



普段着。



娘達が屈強な男を相手に真剣に技をかけていく。



この日だけ呼ばれる男師範らしい。



1「やあああ!」 右突きを顔面、フェイント2回からみぞおちへ左拳。


男師範「・・」〈パシン〉左腕回転で弾き、〈ボ〉そのまま腹へ左膝蹴り。


1「フシ!」既に飛んでおり、左膝蹴りの膝に右足の裏を乗せ、師範の繰り出した攻撃の反動を使い、左膝を師範の〈ボ〉顔面へ。


師範「・・」 左手で太ももの内側を押し、回避。


1の両拳が〈ボ〉師範の頭部両側面へ。


師範は前へ出、〈トン〉みぞおちに軽く左一発。



1「ぐふう~」着地。


師範「それまで」



1「・・はあ・・有難う御座いました」



師範「不合格、勉強を頑張るように」



1「・・はい」



師範「次!」



2「はい!お願いします!」



次々不合格。



島津の番。



島津「お願いいたします」



師範「・・始めい!」



島津「・・」 スタスタと間合いを詰める。



師範「・・」 構えをせず、待つ。



島津は〈トトン〉急に早く前に出、師範の左腕袖を右手で掴む。〈ビ!〉



師範が左手を思いっきり引く。


その瞬間〈トン〉島津は引かれた反対の方へ。


師範「(しまっ)」



師範の右手を掴み、小手返しー。


師範「ふ!」 腕と体の距離を縮め、腕が回らないようにするー。


師範が右前に体重をかけた。


島津「や!」〈トン〉 飛び、両足を師範の首にかけ、一気に体重をかけ今度は反対方向へ 回 る 。


師範「むお!?」 〈ダアアン!〉 腕逆十字。


師範はうつ伏せ。


島津は仰向けで、〈ギリギリ〉手首を決め、腕を捻る。



師範「うおおお・・ぐうう・・ふう・・参った」



島津「ふう」  解く。



師範「合格!満足せず、精進するように!」



島津「有難う御座いました」



師範「次!」



初咲「はい!」



師範の前へ。



初咲「お、お願いします!」



師範「始めい!」



初咲「(手加減、手加減、手加減・・)」 手加減の事で頭が一杯。



師範「どうした?始めい!」



初咲「・・じゃあ・・ホイ」 左ローキックを軽く放つ。



師範「・・」 無表情で右足で〈ズン〉ガード。



師範「!?・・ど、・・どしたあ?終わりかあ!」  涙目。



初咲「・・(ええええ)」



師範「どうしたあ!さっさと来んかあ!」 明らかに右足に体重が乗ってなく、目が赤い。



島津「ぷふ!」



初咲「あの~・・あんまり無理は・・」



師範「な!む、無理などしてない!そっちから来ないならコッチから行くぞお!」



初咲「どうぞ」



師範「?な、何いい!?」



初咲「だからどうぞ」



師範「・・」



初咲「どうぞ?」



師範「・・」 動かない。



皆『「クスクス」「やだ、笑っては・・」「でも~」「可哀想ですわあ」「お立場というのも分かりますが・・」「相手が悪すぎますわ」「ね~」』



初咲「・・あの~・・」



師範「な、何だ」



初咲「早く?」



師範「煩い!今考えてるんだ」



初咲「(ええ・・何を?)」



師範「(コイツやっべええええ!!はああ?はあああ?何なんだコイツ?何なんだコイツはああ?高校レベルじゃねええ!?それに何なんだあいつの足の硬さは?化けもんじゃねえかあああ!何故だああ?俺の地位があああ!糞糞くっそおお、どうする?どうする?俺は一体どうすればああ・・神様あ!神様あ?この状況は何なんですかあ?どうしてこんな試練を俺なんかに)」



初咲「じゃあ・・コッチから」 前へ。


師範「待て!」 手を立て、静止。


初咲「え?」 止まる。   シュールな絵。


皆『「ぷっふう!」「最っ高」「ふふふ」「さあどうする?」「クスクス」』



師範「・・お前は・・合格だ」








初咲「・・え?」








皆『・・・・』 あまりの根性の無さに思考停止。





初咲「え?だってまだ何も・・」




師範「煩い!つべこべ言うな!合格だ!」




皆『「最低・・」「何アレ」「しらけたわあ」「クズね」「私達には挑ませておきながら」』



師範「煩い!じゃ、じゃあ、お前らコイツとやってみろ!」 初咲を指差す。



初咲「ええ・・」



皆『「うわああ」「ドン引き」「最低」「屑ね」「・・」』





師範「・・ふう・・分かった!」  目を真っ赤にし、構える。



皆『(お?)』



初咲「ん?」




師範「全力で相手してやるコホオオ・・」 かっこよく構える。



初咲「おお?(へえ・・根性あるじゃん?)」



お互い構える。



初咲「・・」ジリジリ間合いを詰める。



師範「・・い・・いやあああ」 飛びかかり、空中パンチ連打。それはフェイントで今度は左蹴りを準備ー。



初咲「しっしゃあ!」〈ボ!〉右、前回し蹴りを師範の連打ごと薙ぎ払ー。



空中にいる師範にはゆっくりに見えた。


師範「へ?〈ボキイイバッタアアン!〉畳に叩きつけられた。その前に何か嫌な音が聞こえた気がー。



初咲「しまった!ついやる気に釣られてー、どうしよ?どうしよお?」 オロオロ。



師範は白目で気絶している。



左肩から何か変だ。



女教師「どけ」〈カラカラ〉 ストレッチャー。



初咲「先生、ご、ごめんなさい」



教師「いや、引き際をわきまえなかった師範が悪い、武道家という者はいくら馬鹿にされようが生き残った者が勝ちなのだ、コイツはその事を忘れていたようだ」



師範「・・」 白目。



皆『「私達にも原因がありますわ」「そう・・ですね」「すいませんでした」「ごめんなさい」』



初咲「早く運びましょう」



教師「良し、お前達、囲め、行くぞ、そうだ、一、二の、三!」




師範を一発で倒した噂は学園内を駆け巡った。



XX組2年クラス内。



〈ガラガラバン!〉



???「弥子~弥子~、ね~聞いた~?例の噂!あの厳ついヤツにたった一発で勝ったって」



宗方弥子「・・し~!黙って!お昼がかかってんのよ!」 友人達とジェンガをしている。



弥子「・・」〈ス〉 〈カタ〉



友人1「うっそ!これやるう?」


友人2「うわあ・・次絶対無理でしょ~」


弥子「ふっふっふ、これで昼ご飯はいただきよ!・・で?何?日和 (ヒヨリ)? 」



日和「だから~あの一年柔術の師範を倒したんだよ!それもたった一発の蹴りで!凄くない?あんたと一体どっちが強いのかな?ね?」



弥子「ふうむ・・そうねえ・・あ!思い出した!あの子か!あ~はいはい思い出した」 



日和「え?見たことあんの?」



弥子「う~ん、まあね、一瞬だけど、けどあれから会ってないなあ、つい年下と思って上品ぶっちゃったけど」



日和「あ~またあの癖出したのか?あれは詐欺だもんな」



弥子「やあねえ、詐欺だなんて」



日和「だあって、お前、全然容赦ないもんな、何人壊した?」



弥子「ん~覚えてない」



日和「う~怖えええ」



弥子「ふん!あいつらが悪いのよ!いじめなんて最低な事すっから!」



日和「あたしから言わせればお前の方がいじめてたぜ?」



弥子「煩い!因果応報でしょ!」



日和「はいはい・・しっかし・・こんな可愛いのに・・勿体ないな・・実力だけならOO組にー」



弥子「日和~その話は」



日和「あ~はいはい、んで?最強の称号を明け渡すんか?ん?悪魔の鋼鉄のトンファー使いさん?」



弥子「ん~・・そうね~・・」 制服のダボった袖からトンファーを《スル、パシ》出した。



友人1「やったあ!どう?ねえ?凄くない?」 ジェンガ。



今にも崩れそうだ。



弥子「・・ちょっとどいて?」



退く友人達。



一番上の縦に積み上げられた積み木。



僅かな空気の揺れにも倒れそうにグラグラしている。



弥子「《ヒュンヒュン》あの子がもし・・私に挑むような事があれば・・やぶさかでは・・」〈シュピ〉〈シュピ〉


上の積み木2枚を左右のトンファーで。



《カコ・・コン》 切って倒し、・・・・・ジェンガは崩れない。



友人達『「すっごおい!」「さっすが!」「やっば!」』




日和「っふ」





風が軽く吹き、長い黒髪が舞う。





弥子「ないわね」

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