4話
永時と会うようになってから、月愛の日常は少しずつ変わっていた。
以前なら何も考えずに過ごしていた時間も、今はふと永時のことを思い出す。
連絡が来れば嬉しくなり、声を聞けば自然と笑顔になる。
自分でも、少しずつ惹かれていることに気づいていた。
その日も、二人は夕方から一緒に過ごしていた。
「月愛、何か食べたいものある?」
「うーん……」
月愛は少し考えてから、好きな店の名前を口にした。
「そこ、行ってみようか」
「いいんですか?」
「もちろん」
永時は笑って歩き出す。
二人で並んで歩く。
歩幅が違うことに気づいた永時は、少しだけ歩く速度を落とした。
「……永時さん、歩くの遅くなりました?」
「そうか?」
「さっきよりゆっくりです」
「月愛に合わせてるだけ」
何気ない言葉だった。
けれど、月愛の胸は少し温かくなった。
店に入り、向かい合って座る。
料理を待ちながら、月愛は永時を眺めた。
「どうした?」
「……十五歳も年上なんですよね」
「うん」
「やっぱり、全然違いますね」
「老けて見える?」
「そういう意味じゃないです」
月愛は慌てて首を振った。
「落ち着いてるなって」
永時は少し笑った。
「月愛が二十歳なら、俺は三十五歳だからな」
「三十五歳……」
「嫌?」
月愛は首を横に振る。
「嫌じゃないです」
「本当に?」
「はい」
少し考えてから、月愛は続けた。
「むしろ……頼りになる感じがします」
永時は黙って月愛を見つめた。
「……ありがとう」
「なんでお礼を言うんですか?」
「嬉しかったから」
月愛は少し照れて、視線を落とした。
食事を終え、店を出る。
外はすっかり暗くなっていた。
「今日は楽しかったです」
「俺も」
二人で歩いていると、永時がふと足を止めた。
「月愛」
「はい?」
「一つ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「俺といるとき、不安になることはない?」
月愛は少し考えた。
「……今のところ、ないです」
「そうか」
永時は安心したように微笑んだ。
「ならよかった」
「どうしてそんなこと聞くんですか?」
「月愛には、安心して俺といてほしいから」
その言葉が、月愛の胸に残った。
今まで、誰かと一緒にいることをこんなふうに考えたことはなかった。
ただ楽しい。
それだけではない。
永時といると、心が落ち着く。
もっと一緒にいたいと思う。
「永時さん」
「ん?」
「また……会ってくれますか?」
永時は少し驚いたあと、優しく笑った。
「うん。何度でも」
その言葉を聞いた瞬間、月愛の胸が小さく痛んだ。
なぜか、その言葉がとても懐かしく感じた。
――何度でも。
その意味を、月愛はまだ知らなかった。




