3話
永時と二度目に会ってから、数日が経った。
月愛は、何気ない瞬間に彼のことを思い出すようになっていた。
仕事をしているとき。
食事をしているとき。
夜、布団に入ったとき。
ふと、あの低く穏やかな声が蘇る。
「……どうして気になるんだろう」
まだ二度しか会っていない。
連絡先すら交換していない。
それなのに、もう一度会いたいと思ってしまう。
そんな自分が少し不思議だった。
その日の夕方。
月愛が駅へ向かって歩いていると、スマートフォンが震えた。
知らない番号からの着信だった。
「もしもし?」
『月愛?』
聞き覚えのある声。
胸が跳ねた。
「永時さん……?」
『やっぱり月愛だ』
「どうして私の番号を?」
『昨日、偶然知り合いから教えてもらった』
「そうだったんですね」
『迷惑だった?』
「……いえ」
月愛は少しだけ笑った。
『よかった』
電話越しでも、永時が安心したのが分かった。
『今、少し時間ある?』
「はい」
『じゃあ、少しだけ会わない?』
その言葉に、月愛の胸が温かくなる。
「……会いたいです」
口にしてから、自分で驚いた。
会いたい。
そんな言葉を、自分から言ったのは初めてだった。
『分かった。近くまで行く』
電話が切れる。
月愛はスマートフォンを胸元に抱えた。
「……私、どうしたんだろう」
待ち合わせ場所に着くと、永時はすぐに見つかった。
「月愛」
「永時さん」
目が合う。
それだけで、自然と笑顔になった。
「今日は少し顔色がいいな」
「そうですか?」
「うん」
永時は、月愛の顔を見ながら穏やかに笑った。
「会えて嬉しい」
その言葉に、月愛は少し照れた。
「私も……です」
二人は並んで歩き始めた。
特別な場所へ行くわけではない。
ただ、街を歩いて、店を眺めて、たわいない話をする。
それだけだった。
けれど月愛には、その時間がとても心地よかった。
「永時さんって、普段何してるんですか?」
「月愛の知らないことを、いろいろしてる」
「何それ」
月愛が笑う。
永時も笑った。
「そのうち話すよ」
「秘密ですか?」
「今はね」
少し意味深な言葉だった。
けれど、月愛は深く考えなかった。
しばらく歩いたところで、永時が足を止める。
「月愛」
「はい?」
「俺といるの、嫌じゃない?」
「……どうしてですか?」
「十五歳も年上だから」
月愛は少し考えた。
確かに永時は、自分よりずっと年上だ。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
「嫌じゃないです」
「本当に?」
「はい」
月愛は笑った。
「むしろ……安心します」
永時は一瞬、言葉を失った。
そして、静かに月愛を見つめる。
「……そうか」
その声には、どこか切なさが混じっていた。
月愛は気づかない。
永時がその言葉を、何百年もの間待ち続けていたことを。
そして二人の距離は、少しずつ近づいていく。




