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皇女に触れたものへ

 王都は、平和だった。


 少なくとも。


 表面上は。


 人々は笑い。


 商人は店を開き。


 騎士たちは国を守る。


 そして。


 俺の隣には。


「零様」


 リリアがいた。


「今日はどこへ行きますか?」


「どこでもいい」


「またそれですか」


 リリアは笑う。


 最近。


 このやり取りが増えた。


 以前なら。


 こんな時間は無意味だと思っていた。


 でも。


 今は違う。


---


 そんな日だった。


 突然。


 王城の警鐘が鳴った。


 けたたましい音。


 普通ではない。


「何事だ!」


 騎士たちが走る。


 俺は空を見る。


 魔力。


 大量。


 しかも。


 覚えがある。


「……」


 以前の連中。


 神を捕獲しようとした者たち。


 残党か。


---


「零様」


 リリアが不安そうに見る。


「下がっていろ」


「ですが」


「大丈夫だ」


 俺はいつものように言った。


「俺がいる」


---


 その瞬間。


 城内に声が響いた。


『神崎零』


『聞こえているか』


 黒い魔法陣。


 そこから男が現れる。


「我々は失敗した」


「お前を捕らえることはできなかった」


「だが」


 男は笑う。


「弱点は見つけた」


---


 俺は黙る。


 男の視線。


 リリアへ向いていた。


---


「神であろうと」


「大切なものを奪われれば、冷静ではいられない」


---


 次の瞬間。


 空間が歪む。


「リリア!」


 騎士が叫ぶ。


 だが。


 間に合わない。


---


 俺は手を伸ばした。


 しかし。


 ほんの一瞬。


 リリアの姿が消えた。


---


 静寂。


---


「……」


 俺は何も言わなかった。


 怒鳴らなかった。


 叫ばなかった。


 ただ。


 立っていた。


---


 騎士団長が震える。


「零様……?」


「……」


「零様、落ち着いてください」


---


 俺は聞いた。


「落ち着く?」


「なぜ?」


「何を?」


---


 周囲の魔力が揺れる。


 空が暗くなる。


 大地が震える。


---


「俺は」


「今まで」


「何でもできた」


---


 敵のいる方向を見る。


「魔物も」


「軍勢も」


「災害も」


「全部、一瞬だった」


---


 拳を握る。


---


「なのに」


「初めて」


「守れなかった」


---


 その瞬間。


 世界中の魔力が震えた。


---


 神崎零。


 世界最強。


 無敵。


 不敗。


---


 そんな存在が。


 初めて。


 怒りを見せた。


---


「待っていろ」


 小さく呟く。


「リリア」


---


 そして。


 空間を裂く。


---


「俺の大切なものに」


「手を出したことを」


---


 敵の本拠地。


 数千キロ離れた場所。


 そこにいる者たちは。


 突然。


 恐怖を感じた。


---


「な、なんだ……?」


「魔力反応……?」


「違う」


「これは……」


---


 研究者が震える。


「神が」


「こちらへ向かっている」


---


 零は歩く。


 ただ歩く。


 だが。


 その一歩ごとに。


 世界の法則が揺れる。


---


「忠告しておく」


「リリアを返せ」


---


 敵の首領が笑う。


「どうした?」


「神ともあろう者が」


「感情で動くのか?」


---


 零は答えた。


「そうだ」


---


 初めて。


 認めた。


---


「俺は神だ」


「だが」


---


「リリアの前では」


---


「ただの俺だ」


---


 敵の笑みが消える。


---


 そして。


 世界で最も恐れられる存在が。


 たった一人の少女のために。


 動き出した。

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