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さわんな、オラ

 静寂。


 さっきまで響いていた爆音が嘘のように消えていた。


 敵の魔法。


 王都を覆うほどの巨大な力。


 それは。


 俺の手の中で消えた。


「……」


 敵の男は動けない。


「ありえない」


「我々は何百年も神の研究をしてきた」


「神を捕獲するために、最高の魔法を準備した」


 震える声。


「なのに……」


「片手で……?」


---


 俺は敵を見る。


「質問がある」


「なぜリリアを狙った」


 男は笑った。


「決まっているだろう」


「王国の象徴だからだ」


「神であるお前を捕らえれば、世界は我々のものになる」


 くだらない。


 そう思った。


 力。


 支配。


 所有。


 そんなもののために。


---


 俺はリリアを見る。


 彼女は怯えていた。


 でも。


 俺を見ていた。


「零様……」


「大丈夫だ」


 自然に言葉が出た。


「俺がいる」


---


 その瞬間。


 敵の男が叫ぶ。


「なぜだ!」


「なぜそこまで一人の人間に肩入れする!」


「お前は神だろう!」


「人間など、いくらでも代わりがいる!」


---


 空気が変わった。


「……」


 俺はゆっくり振り返る。


「今」


「何と言った?」


 男が怯む。


「人間など……」


「もう一度言ってみろ」


---


 自分でも分かっていた。


 以前なら。


 何も感じなかった。


 誰が傷ついても。


 誰が消えても。


 世界そのものに興味がなかった。


 でも。


 今は違う。


---


「リリアは」


 俺は言う。


「代わりなんて存在しない」


---


 リリアが目を見開く。


「零様……」


---


 敵が一斉に魔法を放つ。


「ならば!」


「その感情ごと利用してやる!」


 数百の魔法。


 炎。


 雷。


 闇。


 全てが俺へ向かう。


---


 俺は歩く。


 一歩。


 また一歩。


 攻撃は俺に届かない。


 触れる前に消える。


「なぜだ……」


「なぜ当たらない!」


 俺は答える。


「簡単だ」


「俺が許していないからだ」


---


 そして。


 指を鳴らす。


 パチン。


 小さな音。


 それだけ。


---


 敵の魔法陣が消える。


 武器が消える。


 戦意が消える。


 そして。


 敵の力だけが完全に封じられる。


---


「殺すのか?」


 敵の男が震えながら聞く。


 俺は少し考えた。


 以前なら。


 消していた。


 何も考えず。


 でも。


「しない」


「……なぜだ」


「リリアが悲しむからだ」


---


 リリアを見る。


 彼女は少し悲しそうな顔をしていた。


「命を奪うことが正しいとは思いません」


 その言葉。


 俺には理解できなかった。


 でも。


「……分かった」


 初めて。


 誰かの考えを受け入れた。


---


 敵が連行された後。


 祭りは再開された。


 人々は俺を称える。


「神様だ!」


「皇女様を守った!」


「英雄だ!」


---


 しかし。


 俺が見ていたのは。


 周囲の人間ではなかった。


「零様」


「ん?」


「今日はありがとうございました」


「別に」


「あなたはいつもそう言いますね」


 リリアは笑う。


---


 少し沈黙。


 そして。


 俺は言った。


「リリア」


「はい?」


「もし」


「また誰かがお前に手を出したら」


---


 自分でも驚くほど。


 迷いなく言葉が出た。


---


「相手が誰だろうと」


「俺が消す」


---


 リリアが慌てる。


「え、えっと……」


「零様、それは少し怖いです」


「そうか?」


「はい」


「でも」


 リリアは小さく笑った。


「少しだけ嬉しいです」


---


 その日。


 王都に新しい噂が流れた。


『神崎零は皇女を特別扱いしている』


『あの神が唯一守る存在』


『リリア皇女に手を出したら終わりだ』


---


 そして。


 神崎零本人も。


 まだ気付いていなかった。


---


 自分が。


 初めて。


 失いたくないものを見つけたことに。

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