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皇女?俺には関係ない。

 勇者アレンとの戦いから、数日。


 俺は王都で静かに過ごしていた。


 ……正確には。


 静かに過ごそうとしていた。


「神崎零様!」


「一度だけでも魔法を見せてください!」


「握手を!」


「こちらの店の商品を無料で!」


 街を歩けば、人が集まる。


 S級魔物を倒した。


 王国最高の防壁を変えた。


 勇者と戦って勝った。


 噂というものは、勝手に成長するらしい。


「面倒だな」


 俺は人混みを避けるように路地へ入った。


 すると。


「……あれ?」


 小さな声が聞こえた。


 振り向く。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 白銀の髪。


 青い瞳。


 上品な服。


 周囲にいる護衛を見るまでもなく分かる。


 普通の人間ではない。


「あなた……」


 少女は俺を見る。


「神崎零様ですね?」


「そうだが」


 少女は微笑んだ。


「初めまして」


「私はリリア」


「この国の皇女です」


---


 王国第一皇女。


 リリア・アルヴェリア。


 国民から絶大な人気を持つ少女。


 美しい容姿。


 優しい性格。


 困っている人を放っておけない。


 そんな彼女を嫌う者は少なかった。


 街では、


「リリア様がいるからこの国は平和なんだ」


と言われるほどだった。


---


 だが。


 俺には関係なかった。


「そうか」


 それだけ。


 リリアは少し驚いた顔をする。


「……驚かないのですね」


「皇女だから何だ?」


「普通はもっと反応しますよ」


「俺にとっては、王でも皇女でも同じだ」


 リリアは少し黙る。


 そして。


「面白い方ですね」


 そう言って笑った。


---


 それから。


 なぜかリリアと会うことが増えた。


 偶然。


 ……と言いたいところだが。


 王城に行けばいる。


 街に出れば会う。


 何故か近くにいる。


「また会いましたね」


「偶然だな」


「そうですね」


 リリアは笑う。


 でも。


 少しずつ分かってきた。


 この少女は。


 皇女としてではなく。


 一人の人間として接してほしいらしい。


---


 ある日。


 街で事件が起きた。


 リリアが視察に来ていた場所に。


 魔物が現れた。


「皇女様を守れ!」


 騎士たちが叫ぶ。


 だが。


 俺には分かっていた。


 問題ない。


 この程度なら。


 しかし。


 リリア自身が前へ出た。


「待ってください」


「この人たちを先に」


 怪我をした街の人を見る。


 自分より先に。


 他人を心配している。


---


 その瞬間。


 少しだけ。


 興味が湧いた。


「変わっているな」


「え?」


「普通なら、自分を守れと言う」


 リリアは首を傾げる。


「だって」


「目の前で困っている人がいるなら、助けたいじゃないですか」


---


 その言葉を聞いて。


 俺は初めて思った。


この世界にも。


面白い人間はいるらしい。


---


 魔物は一瞬で消えた。


 いつものように。


 周囲は騒ぐ。


 だが。


 リリアだけは違った。


「ありがとうございます」


「でも」


「あなたは、いつも一人ですね」


 その言葉に。


 俺は少し止まった。


---


 それから数日。


 俺は気付いた。


 リリアがいると。


 不思議と退屈しない。


 力を見る目でもない。


 恐れる目でもない。


 ただ。


 一人の人間として見てくる。


---


 そして。


 王都では新たな噂が流れ始めた。


『神崎零と皇女リリアが一緒にいる』


『あの神が唯一、普通に話す相手らしい』


『皇女様だけは特別なのでは?』


---


 俺はまだ知らなかった。


この出会いが。


俺の完璧だった世界を。


少しずつ変えていくことを。

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