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大切なもの

 王城の訓練場。


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 小さな少女が立っていた。


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 レイア。


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 手には魔法の光。


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 その表情は真剣だった。


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「もっと……」


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「もっと強くならないと」


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 魔力が膨れ上がる。


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 周囲の騎士たちが慌てる。


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「レイア様!」


「それ以上は危険です!」


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 しかし。


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 レイアは止まらない。


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「だって……」


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「お父様みたいになりたいから」


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 その瞬間。


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 空気が変わった。


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「レイア」


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 声。


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 静かだった。


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 でも。


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 いつもの優しい声ではなかった。


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「やめろ」


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 レイアが振り返る。


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「お父様……」


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 零が歩いてくる。


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「なぜ、そんな無理をした」


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「……」


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「強くなりたいからです」


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 レイアは答える。


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「お父様は世界で一番強いから」


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「私も」


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「みんなを守れるくらい強くなりたい」


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 零は黙る。


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 その言葉。


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 昔の自分なら。


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 きっと喜んだ。


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「なら力を得ろ」


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 そう言っただろう。


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 でも。


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 今は違う。


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「レイア」


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「はい」


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「俺みたいになる必要はない」


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 レイアが驚く。


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「……え?」


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「俺は」


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 零は空を見る。


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「力だけを持っていた」


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「何でもできた」


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「何も困らなかった」


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「でも」


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 レイアを見る。


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「それだけでは」


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「大切なものは守れない」


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 レイアは首を傾げる。


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「でも、お父様は私を守ってくれます」


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「そうだ」


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「なぜですか?」


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 零は少し考える。


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 そして。


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「力があるからじゃない」


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「大切だからだ」


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 レイアの目が少し潤む。


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「強い人って」


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「いっぱい魔法が使える人ですか?」


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 零は首を振る。


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「違う」


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「転んだ人に手を伸ばせる人だ」


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「間違えた人を許せる人だ」


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「自分より弱い人を守れる人だ」


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「それが」


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「本当の強さだ」


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 少し離れた場所で。


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 リリアはその様子を見ていた。


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「……」


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 微笑む。


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 昔。


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 世界最強だった男。


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 誰にも教わらなかったことを。


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 今。


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 自分の子供へ教えている。


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 その夜。


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 レイアは日記を書いた。


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『今日、お父様に怒られました』


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『でも』


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『嫌じゃありませんでした』


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『お父様は、私が強くなることより』


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『幸せになることを願っているみたいです』


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 翌日。


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 王都ではまた噂が広がった。


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『神崎零が娘を叱ったらしい』


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『世界が終わるのでは?』


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『いや』


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『ただの優しい父親だった』


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 そして。


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 零本人は。


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「……」


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 レイアが描いた絵を見ていた。


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 少し歪んだ家族の絵。


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 でも。


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 宝物だった。


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「零様」


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 リリアが笑う。


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「嬉しそうですね」


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「そうか?」


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「はい」


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「……」


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 零は絵を見る。


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「大切だからな」


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 かつて。


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 努力を知らなかった神。


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 今では。


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 娘の成長のためなら。


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 誰よりも努力する父親になっていた。

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