神と皇女の誓い
その日。
世界中が空を見上げていた。
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王都。
中央神殿。
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数百年に一度しか使われないという大聖堂。
そこには。
各国の王族。
英雄。
魔法使い。
騎士。
そして。
数え切れないほどの人々が集まっていた。
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「本当に始まるのか……」
「神の結婚式が」
「歴史に残るぞ」
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誰もが興奮していた。
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しかし。
主役の一人。
神崎零は。
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「……」
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少し困っていた。
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「零様」
隣にいるリリアが笑う。
「緊張していますか?」
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「違う」
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即答。
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「ただ」
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周囲を見る。
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「人が多い」
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リリアは笑った。
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「世界中が注目していますから」
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「そういうものか」
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昔なら。
絶対に逃げていた。
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面倒。
興味がない。
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そう思っていたはずだ。
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でも。
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今日は。
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逃げたいとは思わなかった。
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扉が開く。
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リリアが歩く。
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白いドレス。
輝く装飾。
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世界最高級の素材。
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誰もが息を呑む美しさ。
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だが。
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零が見ていたのは。
ドレスでも。
宝石でも。
周囲の歓声でもなかった。
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リリアだけだった。
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「……綺麗だ」
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小さな声。
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リリアが聞く。
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「今、何か言いました?」
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「言っていない」
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「嘘ですね」
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リリアは笑う。
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昔なら。
そんなやり取りすらしなかった。
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でも。
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今は。
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この時間が大切だった。
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神殿長が前に立つ。
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「神崎零」
「リリア・アルヴェリア」
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「互いを支え」
「共に歩むことを誓いますか」
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零を見る。
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力。
名誉。
地位。
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世界中の全てを手に入れた。
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でも。
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本当に欲しかったものは。
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たった一つ。
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「誓う」
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迷いなく答える。
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「リリアと共に生きる」
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次に。
リリア。
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「私も」
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「零様と共に歩むことを誓います」
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その瞬間。
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空が光った。
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世界中の魔力が反応する。
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「何だ……?」
「神の祝福か?」
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違う。
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零が無意識に放った力。
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喜び。
安心。
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初めて感じた感情。
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それが世界へ広がった。
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しかし。
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零は慌てて力を抑える。
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「……」
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リリアを見る。
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「すまない」
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「何がですか?」
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「また力が出た」
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リリアは笑う。
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「大丈夫です」
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「でも」
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少しだけいたずらっぽく言う。
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「結婚式くらい、普通の人になってくださいね」
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零は考える。
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「努力する」
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リリアが笑った。
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「それ、初めて聞きました」
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その日。
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世界最強の神は。
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初めて。
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誰かのためではなく。
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誰かと生きるために。
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未来を選んだ。
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世界は後に語る。
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神崎零。
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全てを超えた存在。
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しかし。
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彼が唯一勝てなかったもの。
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それは。
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一人の少女の笑顔だった。




