泣きながらの告白
駆けている。
私の脳が、走り出してしまった。
初めてこうなった時よりかは、幾分マシなようである。
身体も心も、私の脳の走り方に追い付かない。
追い付きようがない。
私は、国語が好きだったんだね、見せかけじゃなくて、本当に日本文学が好きなこどもなんだね、わたし。
咲ちゃんはお絵描きが好きで、お話が好きで、文字を綺麗に書くのが大事で、たくさんたくさんご本を読んだのだね。
わたしはものかきになりたかった。
売れる売れないじゃなく、落ちてもいいから、お話を書きたかった。
ぶきっちょでごめんね、咲ちゃん。
頑なで、森鴎外ぐらい立派じゃなきゃ、とかあの漢学の大家の中島敦の幻想と宇宙の真理と哲学が芥川賞を取れなかったんだから、とか、志賀直哉のあの短編の緻密な、現存する街並みなんかどう頑張ったって造れはしないでしょうとか、そうやって貴女のことを叱って、諦めさせて、美文や古典と自分を比較して、乙市さんに打ちのめされて、読むだけの方がぐっと楽で、私は只々おくびょうに言い訳をして。
貴女をお外で遊ばせてあげられなかった。
咲ちゃん、悔しいね。
書きたかったね。
本当は、こんなに表現が好きだったんだよね。
ごめん、ごめんね……。
私が……、わたしが、母親に嬲られる事に怯えて貴女を黙らせた。
死にたがりながら、自分の身体を生かすために保身に走ってしまった。
病弱なことを言い訳にして、貴女を磨く努力をしなかった。
私は弱い。
どうしようもなく、弱い。
私は私の感受性を殺すために、沈黙する事だけに気を配った。
こんなにも書きたがっている貴女は私に失望したね。
編者さま、書き手さま、どうか佳い御作を紡いで下さい。私が焦がれた世界で、活きている物語をこれからもももとせ千歳、痛くて鋭く且つ柔らかな力で、確かに強いあなたたちの筆の運びで、どうかどうか日本文学を繫いでいってください。
私は……、私は、もう四十路です。この年まで、なんにも成れずに来てしまった。
誰にも見つからなかった。
見付けて欲しいと思うのさえ、恐くて出来なかった。逃げて、逃げて、逃げて、解離して。
私は門を叩くことを止める事にしてしまった。
生かされた命、もう、私は自死には手をかけないと誓います。
漱石先生。
わたしは、クレオパトラにはラピスラズリの色を感じました。それから、オパール。黒に緑の光の火色を万華鏡のように瞬かせて、巧みに賢く自分を魅せる、彼女は自身の演出を考えるのが本当に巧い。
そんな事を思いながら、私はーー身体も脳も、ガタガタでーー
学んだ本を、すべて棄ててしまった。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私は社会に入れなかった。
私は私を、書き表せない。
乏しい。貧しい。卑しい。
大人にも、成れなかった。
癇癪を起こす幼稚なアダルトチルドレンになってしまった。
それでも、浅田次郎さまの短編集などを読むと泪が頬を伝う。
獅子吼。獅子吼で驚愕した。
日本文学が今代にも活きている、生きている。
心から嬉しい。
……懐かしい。
叶うなら、私も書く世界へと飛び込んで、一冊の本に成ってみたかった。
でも判っています。
私は足りない。
私は『使えない』。
お邪魔は決して致しません。
私は御作を信じ抜き、佳き頁を捲る、読む側として。
あります、きっと。
いつ、いつまでも。




