表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はあなたたちを許さない  作者: 相市 思咲
久しぶり過ぎる更新
48/50

開いてしまった脳みそ


 前回、取り乱してしまいました。

 お見苦しいところをお見せしてしてしまい、申し訳ない事で御座います。


 


 私は、子供の頃から古典文学が好きでした。


 海を越えない、この極東に縦に伸び続ける、神秘的な島國の、豊かで蔭のある、すこしの湿り気を肌に感じられる、様々な表現が大好きなのでした。


 言葉は生き物です。


 時代が経てば移ろいます。

 

 この國の歴史は本当に長いのです。


 そう。


 神代、上代、古代、中世……と、今代まで。

 

 続いた國の言葉は。


 萬様なのです。

 

 時代がつづき続けた結果、日本語は恐ろしい数の表現を魅せるようになっています。


 それを、私は……。

 子供の時から読んでいった。


 そうすると、どうなるか。


 氾濫して決壊するのです。

 読んでいるうちに樂しくなって過集中してしまうと、発達途上の幼子の軟らかい脳で学習してしまった言葉たちは、ある日急に溢れ返って止まらなくなったりするのです。


 バイリンガルのように、別の言語体系に万遍なく触れてくれば、違ったのでしょう。


 ですが、私の言語処理能力は、全てたった一つの、しかし深過ぎる國の文學にばかり注がれ働きかけられた。


 世界文学の良さに触れ始めたのは中学生になってからだったし、それでもやっぱり日本語訳しか読もうとしなかった。


 わたしは国語がすき。

 世界文学よりぜったいに日本文学。

 うんと面白い、たのしい、嬉しい!


……毒の海で生まれ育ってしまって、私の興味の偏りを正しく糺せる大人はいなかった。


 世界文学を勧められても、子供が読めるのはどうしても日本語訳になってしまう。どうしたって日本語は日本語で、原文の本当の素晴らしさなど、我儘な子供には判りようも無い……。


 原文を、外国語をスラスラ読めるようだったら、きっと違ったのでしょう。


 でも、私は致命的に『文法』と『辞書を引く』事が苦手だった(昭和うまれです。検索なんてかけられないのです)。


 日本語なら、古くても一応はそのまま読める。


 たくさん読めば、どの時代の言葉だろうと大体の意味合いが解ってくる。


 心に思った現代語訳が、大体正解を引いてしまう。辞書はアイウエオをアカサタナで引かねばならない、このアカサタナパズルを解くことが私には出来にくかった。


 読んで体感で解って行くほうがずっと早く処理が出来たのです。


 実際、中世時代の物語の授業のときに『この言葉は絶対にこっちの意味合いだろうと思うけど、辞書には違う読み方をしろ、正しい意味はこれだ! って書いてあるし、論文には辞書が訳した方で書いておこう……正解が良いんだし』と思い、大学へ入りたての時に高校生まで使わされた古語辞典のやり方に倣い、文法というものに従った結果、國文學の教授に『違うね、そこはこういう意味だよ』と、辞書に頼らない感覚で最初に私が思った意訳の方へ正されてしまった経験もあるのです。


ーー確かに辞書も文法も当代に有ったモノではなく後世の人が作ったものだ、私も後世に生まれている、辞書を作った人も私も、当代は知りようがない、それに、実際……、専門家から教えを……。当たってたじゃない、つまり、私の感覚はある程度信用出来るんだーー


 そう、実際にそう、うっかり体感してしまったから、大学では辞書なんて用を成さなかったから、私は……。


 ……俗に、人間の脳は数パーセントしか使われていない、とか言うじゃないですか。


 私は、こと、国語の言語処理に関しては、その(くびき)を受けない事がある、としか考えられないような瞬間を幾度も経験してしまうのです。


 特に、これをまざまざと思い知らされたのは、三十八年続いた毒の洗脳を……、たった二分の通話のやり取りをする中で、突然


!!バチン!!


 と解いてしまったあの時……なのです。


 私を産まされた毒婦は、兎角、私を離したがらなかった。


 家出しても連れ戻されてしまう。

 パートナーの事を悪しざまに酷く罵る。


 生家へ帰ってこい、戻っておいでよ咲ちゃん、あれもしてあげるこれもしてあげる、おいでおいでよ心配なんだよ〜〜と悲痛に嘆き続けるので、仕方なく戻ると、嘆いていたのが嘘のように非道い扱いをしてくる。


 そんなにするんだったら、なんで呼び戻すのか。私には解らなかった。でも世のハハオヤはみんなこうなのだろうから、親孝行しろ、と世間は言うから、私がおかしくてあの毒婦が正しいのだとずぅっと思わされていた。


 私が幾つになろうと、見張られ管理された。


 幾つになっても子供はこども、親はそういうものなのだ、 と。テレビも一般の人々も、皆がそう報じ、口々に『たまには家でゆっくりしなよ』と帰郷を促してきていた。



 

 私は正しい判断が出来なかった。




 子供は親に全てを握られていなければおかしいのだと、本気で思っていた。


ーー違う、違ったんだよ、咲ちゃん


 本当に。あの一瞬。


 かかってきた電話に発作を起こし、過呼吸になりながら対応に出たあの時に。


 私は開いてしまった。


 数パーセントでは有り得ない処理速度で脳が回り、恐ろしい速度で……。


 私はこじ開けてしまった。


 開いた脳は、言葉で氾濫して決壊して、グワングワンで。それでも動かない筈の体を動かし毒との縁切りに走った。


 メロスより、あの夏だけは、速かった筈だ。


 たった一度の。


 そう、たった一度の。


 目まぐるしく変わる表情をしていたと思う。


 


 ま、しかし回しすぎた回路は勿論焼き切れるのです。


 神代、上代、中世……今代。


 色んな時代の、一度でも読んでしまった言葉たちが全部、一斉に口から飛び出て来てしまい、自分でも訳が解らなかった。


 なんなら、英語すら少し話せてしまいました。

 (習うもんね、英語)


 脳はいちど学習したことを、知識を、確かに貯めているのだと思い知るしかなかった。


 忘れていたのに、開いてしまえば飛び出てくる。人体は、そうなのだ。


 これが出来たのは、本当に私の命に危機が迫っていたからなのだと思います。


 これを聞いて、自分も開いてみたい……などと思ってしまったお人はあるだろうか。


ーーやめておきなさい、お止しなさいな。


 


 汚い話になってしまいますが。


 頭は回っても、焼き切れてしまうものなのです。


 私は38歳で失禁しました。

 痙攣して、それでも三日三晩眠れず、物も食べられず、眼をバキバキにしてドカドカ書き続けながら、神代の言葉を口から放つ……私は完全に危険人物でした。


 神降ろしなんてしたら削られますよ。

 自身の寿命が、ガリガリと。

 


 

 しかも、それが自分で解っていても、手も口も止まらないのです。

 


 脳をフルに使ってしまえるというのは、恐ろしい体験でしたよ。

 


 そして実はいま、ちょっと開き掛けています。

 とまってー!!



 

 開くの今じゃないぞ!

 書きたがるな、私!!

 ぬぉぉぉぉ……、閉じ方が難しいぃぃぃ……!


 あと、辞書は数学だと思います。


 或いは展開図。


 わたしはさんすうができないんだもん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ