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「こ、婚約破棄だと・・・。」
「はい。正確には正式な婚約は保留していますので破棄ではないですね・・・。撤回、のほうが近いかもしれません。ですが、ジークリオン様はもうすでに伴侶となる方は決めておられるようなので、私がいてはまとまるものもまとまらないでしょう。」
「だから、伴侶となるのは君ではないのか? 」
「そうですとよかったのですが、残念ながら私ではないのです。」
そんなことを話したらちょっと涙が出そうです。でも宰相様の前でみっともなく泣くわけにはいきません。震える喉をおさえて話します。
「それで、この婚約の撤回は私のわがままという事にしていただきたいのです。ジークリオン様がちゃんと好きな方と問題なく婚姻できるように、お二人の評判に傷がつかないようにしたいのです。」
「ほ~お。それだと随分ジークリオンに歩があるように感じるんだが? 」
「それが私のジークリオン様へのお詫びです。それに気持ちを切り替えたい、というのもあります。」
「お詫び、ねえ。」
幼少のころから周りをうろちょろしていてご迷惑をかけ、かと思ったら今度は避け続けて嫌な思いをさせてしまい、今度はそんな相手と婚約。眉間にしわを寄せながらのしなくていい私のお世話など、今考えなおしても申し訳ないことだらけです。
「でもさあ、政略であることを承知で婚約した癖に、婚約者じゃないやつと婚姻しようとするなんて、ジークリオンは誠意ってものがないなあ。」
「きっと同情です。妹のような私に同情しただけです。」
「ええ~?私だったら妹とは婚約しないよ~。」
「それが正しいことかどうかはわかりませんが、ジークリオン様の優しさだと思います。」
小さい頃からハンス兄様と一緒に優しくお世話してくれたジークリオン様です。恐らくひいおじい様たちやおじ様、お父様たちの気持ちを考えてしまって、断ることができなくなってしまったんでしょう。
すぐそばに愛する方がいらっしゃるのに本当に苦しかったと思います。
「でもさあ、ジークリオンの周りにいる女性はリリアン嬢しかいないよ? ジークリオンの愛する人はリリアン嬢なんじゃないの? 」
ニヤニヤ笑いながら宰相様が意地の悪いことを言われて、思わずにらみつけてしまいました。
「宰相様は意地が悪いですね。ちゃんと魅力的な方がいらっしゃいますでしょ? カレン=ハーミット様はしっかりと自分も持っていらっしゃいますし、何よりもジークリオン様の隣に立つのに容姿、気力、実力が整っていらっしゃいます。家柄しか誇れない私よりもジークリオン様にお似合いですもの。
この間こっそりお城に見に来た時もハーミット様が『私以外の女はいらないでしょ?』と、おっしゃったら『ああ、そうだな』っと、答えていらしたし、騎士様たちの間でも『第三の隊長と副隊長はお似合いだ。』と言ってらっしゃいました。ショックでしたが、やはり、なんていう気持ちもありました。その後も夜会のエスコートはありませんでしたし、ハーミット様に会わそうとジークリオン様が頑張っていらっしゃったのも、『俺には好きな人がいる』と、紹介をしたかったのだと思っています。今日のけがの手当てもハーミット様にしていただきました。でも、ようやくそこで私の気持ちに区切りがつけられたのです。」
長くお話ししたので、一息つきます。香茶ももう冷めてしまいましたわね。
宰相様とシルフィ様の分まで入れなおしましょう。
「それでこの、婚約破棄、ならぬ撤回か。」
何故かうなりながら自身の頭を抱えてしまった宰相様。どうしてしまったんでしょうか。
「はい。私はジークリオン様が好きですが、この思いは通じませんでした。それならばジークリオン様には幸せになってもらいたいのです。これは私の自己満足であることはわかっていますけれど、結論はそこなのです。」
新しい香茶の香りが薄暗くなった室内に広がります。やはり宰相様のお使いになる茶葉は良い品なのでしょう。私が入れてもいい香りがします。
少し考え込むような仕草をしていた宰相様は、香りを楽しむようにカップを傾けてお飲みになりました。それから満足そうに微笑みながらおっしゃいます。
「少なくともリリアン嬢は香茶の入れ方が上手だ。私好みの香茶に仕上がっている。」
「ありがとうございます。大変光栄です。」
思いがけない賛辞に頬が熱くなるのがわかります。お世辞かもしれませんが少し気分も上向きになりました。
「では、私から提案がある。宰相として命じる。この婚約は白紙に戻す。それぞれの家にも私からの書簡を送る。それで手続きをしよう。この時からリリアン嬢もジークリオンも婚約者がいないことを告知し、一月後の夜会でお互いの婚約者を発表することにする。」
香茶を飲みほした宰相様はカップをソーサーにそっと置き、あごの下を左手で触りながら話し続けます。
「リリアン嬢はアイゼンバルー家との婚姻が無くなった時点で、フリューゲルスの有益になる婚姻を結ばされるのだろう。ならば責任をもってこの私がリリアン嬢の婚約者を見つけてやろう。」
「な、何でですか? 私は宰相様にご迷惑しかかけていませんですのに・・・。」
私がそういうと宰相様は少し申し訳ないような表情になりました。
「昨日の夜会に仕事を頼んだのは私だ。詳しくは言えんが、ジークリオンにしか頼めない仕事だったのだ。まさか、婚約者のエスコートがあったなんて思わなんだ。すまんかったな。」
その場で頭を下げる宰相様に私は驚くことしかできません。頭を上げてください。
「それに、私も鬼じゃあないんだ。私の可愛い部下であるジークリオンには是非とも幸せになって欲しいからね。一枚かませてもらうよ。」
もちろん、リリアン嬢も悪いようにはせんよ、と、微笑みながらいわれてしまえば、私としてはもう頷くしかありません。
私の希望が、ちょっとだけ形は違いますが、ちゃんと通っているうえに宰相様の介入を約束としてさりげなく織り込んでくるあたりは流石この国の宰相様です。
「わかりました。それでは宰相様にこの件はお預けいたします。よろしくお願いいたします。」
そう私が立ち上がって礼をしながら言うと、宰相様は満足そうに、にやりと笑ったのでした。
誤字、脱字を修正しました。
内容の変更はありません。申し訳ありませんでした。




