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「お な か す い たー ! ! 」
シルフィ様の大声で宰相様が笑いだします。
「おう、おう、そういやもうこんな時間か。思った以上に時間がかかってしまったな。夕食を用意させよう。もう少し話がある。今度は私の話す番だな。」
反論する余裕がないほどに素早く先ほどの騎士様を呼び、侍従さんに言付けをし、フリューゲルスに使いを送り・・・と、あっという間に仕事を片付けてしまった宰相様。
騎士様が先ほどからぼそぼそとぼやいています。
「聖霊様の好物は何か聞いてもよろしいか? 」
「リリアンの作る焼き菓子ダナ。アレは最高にウマイのだ。」
なんてことを言うのですか! 恥ずかしさに顔が赤くなるのを止められません。
「キレイな紙に包まれて、光っていてナ、食べるとココがあったかくなるんダ。」
胸を指しながら自慢気に話すシルフィ様に私は嫌な汗が出てきました。
フリューゲルスの家のものは広い心で見守っていてくれていますが、貴族の子女たちが厨房に入ることはあまり良しとされてません。
「焼き菓子ですか・・・。それって紺色のリボンでくくられているものでしょうか。」
「ソレダ! 宰相も食べたことあるノカ? 」
「いや、食べたことはないのですが、見たことはあるというか・・・。」
「ドコデみたんだ? 」
「ジークリオンの机の引き出しの中です。そのいくつか中にはカビが生えたものもありまして、この間副官のハーミットが怒りながら処分しているところに遭遇しました。」
「…アイツメ!、食べないのなら受け取らずにいればイイモノヲ・・・!! 」
宰相様はばつの悪そうな顔でこちらを見ています。
そうですわよね。シルフィ様の言う通りですよね。受け取らないで断っていただけたのならよかったのに。
「全部ワタシが食べたかったのをガマンしてイタノニ…。アイツ、消し飛ばしてヤル・・・!!」
聖霊力が一気にシルフィ様の体を包みだしました。これは危険な気がします。
慌てて宰相様と二人でシルフィ様をなだめます。
「ああああああ~~~~それだけはおやめください、聖霊様。いちおう、一応私の大切な部下なのです。お詫びに焼き菓子に合う茶葉セットを贈らせてください。」
「し、シルフィ、これからは作る焼き菓子は全部シルフィにあげますから、ね。」
「ん? ・・・ホントカ? 」
ものすごい速さで頷く宰相様と私です。
まんざらでもない顔でシルフィ様が腕を組みながら言います。
「し、仕方ないナ。そこまで二人が言うならやめてやらんでもナイゾ。」
「「ありがとうございます。」」
そっと目配せをしあう宰相様と私です。シルフィ様をなだめることが無事にできたのでほっとしました。
なんだか面白くなってきてしまって、くすくす笑いが止まりません。
くすくす笑い出した私を見た、宰相様とシルフィ様は目を合わせて、不思議そうで少し安心したように私を見ています。それを見た私は、ああ、さっきの私とシルフィ様が逆になっちゃったわー、なんて思っていたら目の前がにじんできました。ぽたぽたとおなかの前で組んでいた両手の上に暖かい水が落ちてきます。相変わらずおかしくて笑いがこみ上げてきますが、もう何がおかしかったのかなんて忘れてしまいました。
今ここでシルフィ様と宰相様と一緒にいることがおかしい。
部屋の中のランプの明かりがぽつぽつと光っているのがおかしい。
悲しいはずの自分が笑っていることがおかしい。
「あはは、おかしくって、止まりませんわ・・・! 」
どうしたらいいのかわからなくて飛び回っているシルフィ様と優しくなでてくださる宰相様と・・・。
二人の前で笑いながらしばらく泣き続けました。
しばらく泣き笑い続けると流石に限界があるようで、涙ものども枯れてしまいました。
シルフィ様と宰相様にはご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「ごほ、ん。失礼いたしました。宰相様にはご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「いや、いいのだよ。私もリリアン嬢の気持ちもわかる。だんだんとあの男が憎たらしくなってきたがな。いじめてやるか・・。」
シルフィ様も優しく頭を撫でてくれていますが、宰相様の言った言葉の最後の方にちょっと物騒なフレーズがあったような・・。
「ちょうど夕食の用意も整ったみたいだから隣の部屋に移動しよう。」
宰相様にエスコートされて隣の部屋に行くとキラキラと光るシャンデリアと緻密に編まれているレースのテーブルクロスの敷かれているテーブルの上においしそうなパンとスープ、白身魚の香草蒸しと野菜スティックが並んでいます。
「込み入った話になると困るので、先に給仕させたんだ。質素なもので申し訳ないが、どうかな、苦手なものはあるかな? 」
「いえ、どれも好きなものばかりです。いつもこのようなお食事なのですか? 」
「私はこのような食事の方が好きなんだ。」
宰相様に席にエスコートされて座ると宰相様自らグラスに水を入れていただきました。
小皿も用意されていて私の席の隣に並べてあります。
「聖霊様の分は給仕させることはできなかったので申し訳ないがリリアン嬢のを取り分けてくれ。」
「はい。大丈夫ですわ。いつもそのようにしておりますから。」
「ふ、ふん、別にリリーににアーンしてもらうためとかじゃないからナ! リリーがワタシを世話したいって言うから! だからナ! 」
そんな真っ赤になりながらツンデレなセリフを話すシルフィ様は可愛くてニマニマしてしまいます。
宰相様は、ほお~~、と、言いながら自分の席に座ります。
食べ始める前にこの世界を見守り続けている女神さまにお礼を申し上げて、それから食べ始めます。
それぞれの料理に舌鼓を打っていると宰相様が世間話をするように話し始めました。
「ところで、聖霊様のお気に入りで契約者になったリリアン嬢に聞きたいことがある。」
急な話題の転換で思わず気管に食べ物が入りそうになって咳き込みそうになりました。慌てて水を飲んで口の中を空にします。雰囲気まで張り詰めたものになりました。
「は、い。何なりとお聞きくださいませ。」
「リリアン嬢は聖霊様の加護を受けているという事であろう? その力の事を知っておるのはフリューゲルスの者と私。では、フリューゲルスの誰かがリリアン嬢の力を利用して権力を、力を得ようとした時は君はどう動く? 」
「・・・わかりません。味方をするかもしれませんし、敵対するかもしれません。その時に悩んで悩んで決めたいと思います。これが今の私に言える精一杯です。」
どれが正しいとか、間違ってるとか、物の見方によって違います。考えていることも感じていることも人それぞれです。だからいろいろ考えて悩んで考えて調べて、自分の思うように動きたいと思います。
「こんなことを言ってしまうと駄目なのかもしれませんが、間違った道を選択しようとした時はお父様はもちろん、お母様、お兄様たち、アイゼンバルーの小父様に宰相様も、みなさん助言をくれるはずですもの。」
ちょっと生意気だったかしら、と、ドキドキしながら宰相様からの反応を待っていると、
「わかった。」
と、宰相様は微笑みながらお食事を再開しました。どうやら宰相様の望む答えを導けたようです。
そのあとは和やかな雰囲気の中、夕食の時間は過ぎていきました。




