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婚約者の好きな人  作者: ねいと
婚約者の好きな人
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扉の前についている護衛の騎士様にジーク様が宰相様への取次ぎを頼みます。

侍従さんが部屋の中へと入って取り次いでいる間、何気なく周りへと視線を送ると何か言いたげな騎士様の目が合いました。


「あの・・・。騎士様、何か私の顔に何かついていらっしゃいますか? 」


突然話しかけてしまって驚いたのか、それまで直立不動だった騎士様が慌て出してしまいました。なるべく優しくにっこり笑いかけたつもりでしたが、失敗したようです。

やっぱり私の笑った顔は怖いのでしょうか。お母様は素敵な笑顔ですのにここまで嫌がられてしまうとへこみます。


「いえ、大変失礼いたしました。」


少し顔を赤らめた騎士様が片膝をついて私の手をそっと取って、謝罪をし始めました。


「お嬢様はあの『炎の騎士』様の姫様でいらっしゃるリリアン様とお見受けいたします。姫様は騎士の間で絶大な人気を誇るリンゼイ様の姫君という事で、この場でお会いした時に冷静になれず、つい失礼な態度をとってしまいました。大変申し訳ありませんでした。」


・・・これはどうしたらいいのでしょう。思わずシルフィ様を見るとリンゼイは意外と人気者じゃの~、なんてのんきに笑っています。これは頼れませんとジーク様の方を見ると眉間のしわがものすごく深く刻まれていて、ものすごく不機嫌なことがわかります。そうですよね、私の事で時間がとられてしまうのはご迷惑ですよね。宰相様もお待たせしていますし、すぐに事態を納めなくては!


「大丈夫ですわ。何も失礼なことなどありませんでした。謝罪なんてする必要はないんです。それよりもびっくりしました。リンゼイ兄様は皆様に人気があるんですね。妹としてリンゼイ兄様が誇らしいです。」


なるべく意地悪に見えないようにお母様みたく微笑んでみたのですが、効果はあったでしょうか? 私の手をつかんでいる騎士様の手の上にもう片方の手を載せて優しく包みます。ここで失敗したらリンゼイ兄様の評判も落としてしまいそうで恐ろしいです。騎士様を見るとちょっと固まってはいますが嫌悪感はない様子。大丈夫そうですね、と、ホッと胸をなでおろした時に侍従さんが戻ってきました。


「宰相様がお会いになります。こちらにどうぞ。」


侍従さんが言いながら扉を開けてくださいました。これで私を宰相様のところに送って行くというジーク様の仕事は終わりましたね。ジーク様とここでお別れです。


「ジーク様、いろいろとありがとうございました。お礼の方はまた後日にいたしたいと思います。それでは失礼いたします。」


最後はこれでもかの満面の笑みでご挨拶です。ジーク様の目に笑っている顔を見ていただいてお別れしたいですから。これは私の一方的な意地ですのでジーク様の気持ちはわかりません。好きな人には自分の笑顔を見ていてもらいたいですものね。


「あ、ああ。それじゃあ、またあとで・・・。」


最後の方はもごもごおっしゃっていてよくは聞こえませんでしたが、そのままくるりと背を向けて来た道を戻っていこうとするジーク様の後姿を見たときに、なんとも言えない気持ちがせり上がってきてしまいました。


どん


「 !! 」


足が勝手にジーク様に近づいて、腕が勝手にジーク様に抱きつきます。後ろから急に抱き着いてきた私にきっとジーク様は驚いているでしょう。はしたないことをしているのもわかっています。それにきっと眉間にあるしわも一層深く刻み込まれているに違いありません。でも、最後にこれくらいはしてもいいですよね?


「ジーク様、本当にありがとうございました。それでは、ごきげんよう。」


言い終わった後、両手にぎゅっと、一度だけ力を籠めます。そのあとは恥ずかしいのでそのまま逃走です。

スカートの脇を軽く持ち上げて、小走りで宰相様の部屋に逃げ込んで、びっくりしている侍従さんに謝ります。


「ごめんなさい、変なものをお見せしてしまいましたね。」


侍従さんはにっこり笑うと、


「大丈夫ですよ。では、こちらへどうぞ。」


と、案内をしてくれました。扉の前に立っている先ほどの騎士様もびっくりさせてしまったと思うので後で謝らなくては。


『リリー。ここからは油断するなよ。デッカイノに関してはまた後で考えよう。』

『はい、シルフィ。その、ごめんね。』

『なにがだ。あれはデッカイノが悪いだろ。』


小声でシルフィ様が悪態をついています。シルフィ様を引き寄せて手のひらで包み込むように撫でさせてもらいます。


『ありがとう、シルフィがいなかったらきっとお別れできなかったと思う。勝手にあてにしちゃってごめんね。』

『~~~~!!! 何を言う! リリーはワタシのお気に入りなんだ。ワタシ以外にダレに頼るんだ! もう、オマエは黙ってワタシに守られてればいいんだ! 』

『ありがとう。シルフィがいて心強いよ。でも、自分の事は自分で出来るように強くならなくちゃね。』

『なんか、リリーがまたヘンな事に・・・? 』


前を歩く侍従さんが奥の扉をノックしています。そのノックに答えてこの間の騎士様が扉を開けて侍従さんと二言三言話しています。

その間にシルフィ様を私から離して後からついてきてもらいます。ここからは気持ちも切り替えです。シルフィ様と目を合わせてうなずき合います。

宰相様付きであろう騎士様がこちらを見て扉を開けます。


「リリアン=フリューゲルス伯爵令嬢、奥でトライグン宰相様がお待ちしております。」

「はい、失礼いたします。」


そのまま騎士様に案内されて宰相様の執務室へと案内されました。


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