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「価値、ですか? 」
「そう、価値。『フリューゲルス家のお嬢様』というもの以外にあなたの価値はあるの? 」
そんなこと言われたら困ります。今まで考えたこともありませんでした。黙ってしまった私にハーミット様は話し続けます。
「私はこの隊を支えているという自負があります。『男爵家出だから、女だから、』と言われないように努力もしてこの地位まできました。心置きなく話し合える友もいます。」
薬の入った箱を棚にしまいながら振り向いてこちらを見るハーミット様は逆光のせいでよく表情が見えません。
「あなたには何がありますか? 私のようにジークリオン様の隣に立てるほどの何かはありますか? 胸を張って言えることはありますか? 」
私が胸を張って言えること・・・。
ジーク様好みの焼き菓子を作ること?
シルフィ様が私のそばにいてくれること?
ジーク様が好きなこと?
なんだか胸を張って言えることではありませんね。
焼き菓子は本職の方々の足元にも及びませんし、シルフィ様はお友達ですが聖霊様ですし・・・。
ジーク様の事は好きですが、つい最近までそのことに気付きもしませんでしたし、ジーク様には嫌われています。
ハーミット様は、やはりジーク様の選んだ方です。しっかりと自分も持っていらっしゃいますし、何よりもジーク様の隣に立つのに容姿、気力、実力が整っていらっしゃいます。これは私は太刀打ちできません。
ああ、またまた落ち込んできてしまいました。今すぐに自分の部屋に帰ってベットに潜り込みたいくらいです。こんなことばっかりですね。
控えめなノックの音が聞こえ、ハーミット様の声に答えて部屋の扉が開きます。お茶セットを持ったジーク様が慌てて入ってきました。ハーミット様が手伝おうとジーク様から茶器を受け取ります。気も利きますのね。流石ですわ。
「なんだ、リリアン。様子がおかしいんだが、何かあったのか? 」
「いえ、大丈夫です。」
無理矢理に笑顔を作りますが、大丈夫かしら? 歪んでたりしませんわよね?
手際よくいい香りのする香茶をハーミット様が入れてくれました。私の手を出す隙がありません。
「リリアン様には隊の薬は強すぎたようですよ。それと、もう戻ってきたのですか? 」
「おま、あの薬使ったのか! 」
「何言ってるんですか、ここにはそんな薬しか置いてませんよ。優しい薬なら他当たってください。」
「それもそうだったな。ここに連れてくることしか思いつかなくてだな。カレンに任せたらいいと思って連れてきたんだが・・・。」
「大事な婚約者サマを私に会せるとか、大丈夫ですか?」
「ああ、カレンに会わせたかったんだ。」
「「・・・。」」
うう、わかってはいたものの、ここまで言われてしまうともう何も言えません。深くため息をつくハーミット様は私の方をちらっと見て何か言いたげな顔をしましたが、そのまま何も言わずにジーク様に話しかけました。
「もうそろそろ宰相様の御用事も終わったんじゃないですか? 」
「ああ、そういえばそうだな。」
そういうとジーク様は私の正面に立ち、手を差し出したまま立っています。
なぜ手を出されたかがわからなくてその手をじっと見ていると、ジーク様が私の手を掴みました。そのまま手を引き寄せ傷の確認をして満足そうにうなずくと、軽く手を引き私を立たせました。
「全然ゆっくりできなかったが仕方ない。宰相のところに連れていく。」
ジーク様はハーミット様にそう言うと私の手を持ったまま部屋を出ていこうとしました。
ハーミット様に挨拶をしなければと、思って慌ててジーク様の手を解こうとしましたが何故かしっかりつかんで離れません。軽く振っても離れませんでしたので仕方なくジーク様に訴えます。
「あの、ジーク様。ちょっと手を放していただきたいのですが・・・。」
「なんで? 」
「ハーミット様にお礼と挨拶をしたいのです。」
「ああ、わかった。じゃあ、どうぞ。」
そう言うとジーク様は手を放してくれました。そのままハーミット様に治療のお礼をして退室しようとすると何故かまたジーク様が手を取ってきます。しかも今度はぎゅっと握ってくるやつです。
これは何なのか、とか、ハーミット様の前で私と手をつないでもいいのか、とかいろいろジーク様に訴えてみますけれど、ジーク様は目が笑ってない笑顔のまま手を包み込んで離してくれません。
「ジーク様、少し歩きにくいですし、このままだとハーミット様に誤解をされてしまいます。ちょっと手を離していただきたいのですが・・・。」
「歩きにくい? じゃあ、いっそのこと抱き上げてしまえばいいんじゃないかな? それに、誤解ってなに? 」
いやいやいやいや!抱き上げるって何ですか!さっきの恥ずかしいやつですか? やめてくださいませ!シルフィ様も呆れた顔でこちらを見ていますし、ハーミット様の視線が痛いです。それに恋人の前でよく名ばかりの婚約者の事を抱き上げて運ぶとか言えますね。それじゃあ相愛の恋人のようですわ。
「ジーク様、それはあまりにも酷いです。そんなことはおっしゃらないでください。それに私には足がありますもの、ちゃんと歩けないような小さい子供の様に接するのはおやめください。」
「・・・わかった。そうする。」
なんだか舌打ちが聞こえた気がしましたが、気のせいですわね。私の気持ちも言えましたし、これでハーミット様に私とジーク様の関係を誤解されるようなことはありませんわね。
ジーク様の相手がハーミット様でよかったという気持ちとジーク様の相手になれなかったという悲しさともやもやした気持ちが混ざりあって頭の中は大混乱中です。
このまま考えることを放棄できたらどれだけ楽なことか。実際にそんなことをしたらそれこそ無責任ですね。
第三部隊長の執務室から宰相様の執務室までジーク様と一緒に歩き続けます。もうこんな風に並んで歩くこともないんでしょう、なんて思ってしまいます。まあ、並んで歩いたことなんて数えるほどもないのですが。それに本当のことを言うと手は繋いでいたかったです。これからはもうつなぐことはないでしょうから。
「・・・。」
歩きながらジーク様を見上げると少し頬が赤くなっている様な気もしますが、また見つけてしまいました。眉間に深く刻みつけられているしわ。このしわも好きだったんですが、もう見納めですわね。
そんなことを考えていると宰相様の執務室についてしまいました。




