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婚約者の好きな人  作者: ねいと
婚約者の好きな人
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お待たせしまして申し訳ありませんでした。

「俺のものになれ。」

「お断りいたします。」


お父様、リンゼイ兄様、シルフィ様、ごめんなさい。言われたことをきちんと守っておけばよかった。

後悔先に立たず、ですね。激怒しているリンゼイ兄様が瞼の裏側にうかびます。

さっきから何度呼んでもシルフィ様は応えてくれません。段々と心細くなってきました。

応接セットのソファーに向かい合わせに座らされている私と獅子さんはさっきから禅問答のように同じ言葉を繰り返しています。


「わしは『是』という返事しか聞かん。」


急に聞こえた大きな声にびくっと体がしてしまいました。さっきまでの雰囲気とは明らかに違います。ああ、最早これまで。お父様、お母様、リンゼイ兄様にハンス兄様、シルフィ様。そしてジーク様。先に女神さまの庭で待っています。せめて私のことで悲しむことが無いように・・・。


「ぶはっ!! はーはっはっはっは!!」


しんみりとして心の中で皆様にお別れをしていると、頭上から盛大な吹き出す音と笑い声が聞こえてきます。何が何だかわからなくて、そのまま顔を上げるとおかしそうに笑っている獅子さんと、笑うのを我慢している騎士様がいます。それを見ていると命の危険は去ったようだとわかりましたが、だんだん気分が悪くなってきました。

急に連れてこられていきなり「俺のものになれ」なんて言われ、説明が足りないですよ。そのまま無言のプレッシャーでどうしたらいいか、皆さんの顔が浮かび申し訳なさでいっぱいで、逃げ出したいけど逃げ出せなくて。

追い詰められた先にこの爆笑。急な状況変化についていけず、あまりのことで脳に酸素がいきわたらなくなっているようです。呼吸がしづらくなってだんだん目の前が暗くなってきました。さっきまではものすごい緊張感でいっぱいだったのですが、肩の力が一気に抜けたとたんに体の力も抜けたようです。


「っ、おい!!」


なんだか遠くの方で慌てた声が聞こえましたが、そのまま足から崩れ落ちて行くのが分かります。その直後に何か硬いものにぶつかったように感じましたが、そのまま暗闇に飲み込まれたのでした。



******


「主様、やりすぎではないですか?」

「うむ。あまりにも面白くってついつい・・・。」

「このままだとジークリオン殿に怒られますよ。」

「ああ・・・。どうしよう。あいつに怒られるの嫌なんだよな。」

「では部屋に連れてきて事情を説明をしたら良かったのではないですか?」

「そうなんだが、ちょっと面白くなってしまってなあ。あいつ怒らせるとネチネチうるさいんだよな。」


うっすらと意識が戻ってきて最初に聞こえたのが獅子さんと騎士様の会話でした。『あいつ』ってどなたのことでしょう。ふかふかのとても寝心地のいいベットに寝かされているようですが、ふかふかすぎて落ち着きません。シルフィ様とリンゼイ兄様は勿論、ハーミット様にも迷惑が掛かってないといいのですが・・・。

何とか起き上がろうとしましたが少し頭を上げただけでもめまいが酷くて世界が回ります。

そのまま起き上がれずに後ろに倒れ込むとふわふわの布団が背中を受け止めてくれます。ああ、ふわふわ、いいですね。無事に帰れた時にはふわふわのクッションが欲しいですわ。なんて思っていたら、獅子さんと騎士様が気づいた事に気付いたようです。


「気づかれましたか? ご気分はいかかでしょうか?」

「大丈夫か?気分はどうだ?」

「・・・。」


口は動くのですが声が出ません。喉がからからに乾いているようです。様子を見ていた騎士様を見るとコップに水を汲んで飲ませてくれようと、背中に手をまわして起こしてくれました。

そのとたんにやっぱりくらくらして横に倒れそうになり、騎士様の胸に倒れ込んでしまいました。


「~~~。」


こめかみ辺りにズキズキとした痛みが襲ってきます。しばらく動かずに眉間にしわを寄せて痛みの波が去るまでじっとしていました。騎士様も察してくれたようで無理な体勢でしたのにがっしりと支えてくれて動かないでいてくれています。


「飲めるようでしたらお飲みください。少し楽になるはずです。倒れる前に受け止めさせていただきましたので頭などは打ってないとは思いますが、念のためにそのままお休みください。」


はい、と返事をしましたが、口は動くのに声は出ません。騎士様はコップを手に取りそっと口にコップを当ててくれて少しづつ傾けて水を飲ませてくれました。


ごくごく


緊張していて何も口にできなかったせいか全部一気に飲んでしまいました。


「あ、りがとう、ご、ざいます。」


少しむせながら飲んだせいで少し胸元が濡れてしまいました。その事に気付いた騎士様が枕元に置いてあった布を胸元にそっと置いてくれました。


「お使いください。」

「はい、ありがとう、ございます。」


喉も一度声が出ればそのまますらすらと声が通るようでちゃんと話せたことに安堵しました。騎士様が気を使っていただいていたのが分かったので、そのまま目線を上げてにっこりとお礼を言いました。


その時です。ものすごい勢いでバターンと扉の開く音がしました。


「・・・。何をしてるんだ。」


不機嫌な低い声が聞こえてきましたが私の方からだと騎士様の体で声の主が見えません。

声からするとジーク様のように聞こえるのですが、仕事があって来られないとおっしゃってらっしゃいましたもの、違いますわよね?






~リリアン爆睡中の会話~


騎士「いたずらが過ぎますよ。」

獅子「じゃがの、表情がくるくるしてて可愛かったから、つい。」

騎士「この方にちょっかいを出すということはフリューゲルス家を敵に回すということなのですよ?」

獅子「わかっとるのだがなー。可愛くてつい。」

騎士『つい、ついって・・・。』


自由な獅子さんに振り回される苦労性の騎士様でした。

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