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「何をしているんだ、こんなところで。」
怒気を含んだジーク様の声で硬直していた体が動きます。無意識に息を止めていたようで深く息を吐いてしまいました。
「それは俺のセリフだぜ。ジークリオン君。婚約者のいる身で女性と生垣に隠れて逢引きとはね。」
私が言葉を発する前に先にリンゼイ兄様が言ってしまいました。そして、その発した言葉の内容に深く傷ついているのは確かなわけで。
「違う! 逢引きをしていたわけではない。変な勘繰りはやめてもらおうか。」
「いいんですのよ、ジークリオン様。リンディー様も、もう行きましょう。ハーミット様も怖がってふるえているみたいですし、ね?」
リンゼイ兄様の腕を取って軽く引っ張ります。ハーミット様も少しうつむいてふるえていますし、私も気分が悪くなってきました。
「おい、リリアン、顔色が悪いぞ。」
ちょっと足元がふらついてしまいましたが、リンゼイ兄様が慌てて腰を支えてくれました。
「そんなに具合が悪いのになぜこんなところに来たんだ。」
「お前の顔を見るまでは体調も良かったんだよ。」
リンゼイ兄様、いいのです。もう一度来てみたいとか、浮かれて散策した自分が悪かったのです。きっとデートをしながら夜会のことでお二人で打ち合わせをしていたんだと思います。
『すまない。二人のために我慢してくれ。』
『わかりましたわ。これも二人のためですもの・・・!!』
「おい、リリアン行くぞ。」
「待て! 」
グイッと腰を引き寄せられてずんずん引っ張られていきます。
---もう泣きそう。
なんて思っていると何だか様子がおかしいことに気付きました。
私はリンゼイ兄様にあの場から連れ出されたと思っていたのですが、この手の感じは・・・。
「ジーク、様? 」
「なんだ。」
明らかに不機嫌な態度と口調で返事をされました。横顔を見上げると眉間にしわが見えます。
---また怒らせてしまった。
なぜあの場から連れ出されているのかもわかりませんが、何をやってもジーク様に対して裏目に出てしまう自分にも腹が立って腹が立って、もうどうしていいのかわかりません。
「っく・・・。」
我慢していましたがちょっと口から嗚咽が漏れ出てしまいました。幸いジーク様にはばれていないようです。こっそりと開いている右手で目じりをぬぐいます。
---平常心、平常心。
心で呪文のように唱えていると引っ張っていたジーク様の力が緩みました。どこに着いたのかと思ったらこの間マリアンナの時にジーク様に連れられてきた場所でした。
---この場所はジーク様の好きな場所なのでしょうか?
「ここなら落ち着いて話せるだろ。」
そうですね。この間もここに連れてきていただきましたね。ただし、変装した私でしたけども。そして、のぞき込むのも一緒ですが、あの日のように微笑みではなく、ジーク様の顔には眉間のしわがきっちりと刻み込まれています。
「リリアン、泣いているのか? 」
泣いた顔を見られそうになって慌ててジーク様に背中を見せます。これでは『泣いていました』なんてジーク様にばらしてしまったようなものですが、仕方ありません。
しかし、なんでジーク様はいつもいつも隠したいところばかり突いてくるのかしら。しかも原因は大体においてジーク様ですわ!
だんだんとイライラしてきた私はうつむいたまま黙っていたら、私の前に回り込んできたジーク様がギュッと抱きこんできました。顔はジーク様の胸に当てられています。思ったよりも強く抱き込まれて自分から逃れられそうにありません。
「泣きたいなら、ここで泣けよ。顔を見られたくないのなら隠してやるから。な? 」
なんていうことを言うんですか! 大体において私は泣かないのに、泣くのはジーク様のせいですよ。
しかも最悪なことにまたあの香水の匂いがします。
「・・・。ジークリオン様、またあの香水の匂いがします。」
その言葉を発した瞬間、ものすごいスピードで新鮮な緑の空気を胸いっぱいに吸い込めました。
---ああ、空気がおいしいですわ。
私の言葉が聞こえたようですぐに私を離してくれました。こんな場面ではなければとっても嬉しい出来事だったんですけど。
「それにだめですよ、私にこんなことをしては。いろいろ問題になってしまいます。」
「え? 」
「私を慰めなくても大丈夫です。その優しさをどうぞ、ほかの方にお使いください。」
「俺にはそんな相手はいないし、ましてや婚約者をほおっておけるほど無責任ではない。それに俺がリリアンを慰めなければ誰がリリアンを慰めるというんだ。」
「・・・。」
「リンゼイとかいうやつか?」
リンゼイ兄様ですか?それはもちろん私が泣いていたら何も言わなくても慰めてくれると思いますけど?あ、もちろんシルフィ様も、ハンス兄様も。
とうさま、かあさま・・・と、指折り数えていると『はあああああああ~~~~~~』とジーク様の口から長いため息が出てきました。




