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なんだかすごい溜息を吐かれましたが何かしましたかしら?
じいっとジーク様のことを見つめていると、眉間のしわがギュッとさらに深く刻み込まれました。
「・・・。送る。」
「はい。」
そのまま私の家まで送っていただけることになったのですが、先ほどから無言だったジーク様。一緒に乗り込んだ馬車内でもなんだかイライラしている雰囲気で正直、居心地の悪い思いをしました。
そうですよね。せっかくの二人の時間に政略の婚約者とその兄が乱入してきたのなら不機嫌になりますよね。でも、考えたらこの眉間にしわ寄せているのが私にとってのいつものジーク様ですし、これ以上嫌われたら次はきっと無表情で目をそらしてくるんじゃないかしら?。なんてことを考えたら、まだ無表情じゃないだけましなのかしらと、思ってしまいました。
「・・・。何か言いたいことでもあるのか?」
あら?どうやら無言で見つめていたようです。
「先に言っておくが、婚約者以外の女性といたことは本当にすまなかった。配慮が足りなかった。だが、あれは仕事の打ち合わせで、逢引きなんてものではないということだけ分かって欲しい。」
「は、い。」
なんか狭い馬車内でグイグイ来られたので思わず返事をしてしまいましたが、なぜこんなに私に言い訳をするのでしょう。
い
「それに、カレンには香水も抑えるように言ってたんだが、『今まで何も言わなかったのにおかしい』なんて押し切られてしまって・・・。」
「そんなに言わなくてもわかっています。夜会のことについてお話しなさってたんですよね。私もリンディー様と夜会のドレスを新しい仕立て屋さんにお願いしてきたところですの。」
「そ、そうだ。夜会でリリアンが会うのを了承してくれたのでその打ち合わせをだな・・・。」
ガタン。
どうやらフリューゲルス家に着いたようです。挨拶をしてそのまま背を向け馬車を降りようとすると、後ろから手をつかまれました。反射的に振り返った私の目に飛び込んできたのは心配気な表情をしているジーク様でした。
「リリアン、夜会には自分は行けないがカレンと楽しんでほしい。それと、くれぐれもハンスとカレンのそばを離れないと約束してくれ。」
なんだか懇願されているように聞こえますが言っていることはひどいです。要は婚約者と恋人を仲良くさせるってことですよね。
「あと・・・。」
---何でしょう?
ジーク様は何かを言いかけてそれきり黙ってしまいました。不思議に思って首をかしげつつジーク様が何を言うのか待っていたら、ぷいっと横を向かれてしまいました。
なんだか最近このパターンが多い気がします。いつもでしたらこのまま私も何も言わず、ジーク様が一言言って別れていくのですが、そのあと『こう言えばよかった』などといつも落ち込む私です。またこのままお別れしてしまうと私の精神衛生上、非常に悪いので流れを変えようとエイッと勇気を出してみます。
椅子に座ったままのジーク様に近寄って頬をそっと両手で挟んで正面に戻し、上を向かせて目線を合わせます。できるだけお母様のように優しい微笑みを浮かべているつもりになって言います。
「ジーク様、何を言いたいのか私にはわかりませんが、大丈夫です。ちゃんと夜会では大人しくハーミット様とお話しして仲良くします。それに、私に話しかけてくるような奇特な方はいらっしゃらないでしょうし、挨拶をしたらすぐに退散いたしますわ。ジーク様が心配しているようなことは何にも起こらないですわよ? 」
何かお返事をしていただけるかもと待っていましたが、ジーク様がそのまま固まってしまい、しばらくそのまま無言で二人で見つめ合ってしまっていたようです。
やっぱり私にはお母様のような優しい微笑みなんて出来ないのでしょうか? ちょっと落ち込みます。
御者さんのトントンという遠慮気味のノックの音が馬車の扉から聞こえてきます。
「どういたしましたか? お加減でも・・・。」
「大丈夫ですわ。今出ます。」
まだちょっと固まっているジーク様を振り返ってさよならのご挨拶をしましょうか。
「それでは、失礼いたします、ジーク様。あと、ハーミット様に『二人の時間を邪魔してしまって申し訳ありませんでした』と、謝っておいてくださいますか?」
お母様のように素敵な微笑みとはいきませんでしたので、ちょっと失敗したかしら?
でも、ちょっとくらい嫌味を言ってもいいですわよね?
こんなにたくさん私のいろいろな感情を引き出してくれるのは、やっぱりジーク様だけです。
でも、できればこんな『嫉妬』のような醜い感情はだしたくはなかったですわ。




