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「なあ、リリアン。今から俺のこと『リンゼイ兄様』じゃなくて『リンディ』って呼べ。」
夜会の準備をしようと街に出たときにリンゼイ兄様は急に変な事を言い出しました。確かに小さいころは『リンゼイ』が言えなくて『リンディ』兄様になっていましたけども・・・。
「なぜですか? リンゼイ兄様。どうかしたんですか?」
「昔みたいに呼んでほしいってのはだめか?」
「だめじゃないですけど、いきなりですね。まさか、もう休暇が終わってまた仕事にいかれてしまうのですか? 」
「それはまだ。今回はリリアンの婚約の話もあったから多めに休暇をもぎ取ってきた。」
そう言いながらリンゼイ兄様は馬車から降りようとする私をエスコートします。
「絶対にリリアンには幸せになって欲しいんだよ。」
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初めて入った仕立て屋さんはきれいな色と柔らかい光のあふれたとても雰囲気のいいところでした。壁一面に布が入った棚が並んでいて圧倒されてしまいます。
明るい色から渋めの色、素材もいろいろです。好きな紺色にもいろいろな濃淡があってワクワクしてきてしまい、リンゼイ兄様が店主と話している間中じっと眺めてしまいました。
その中にひとつ目を引いた生成りの生地がありました。そばによってその生地に触ってみると、サラサラとしていて少しひんやりしていました。
「リリアン、目がキラキラしているよ。楽しそうだね。」
リンゼイ兄様がニコニコと微笑みながらそばに来ました。
「その生地気に入ったみたいだね。あ、柔らかそうでいい色だ。プレゼントしてやるよ。」
「いえ、いいのです、リンゼイ兄様。それより早くドレスの色を決めましょう。」
「そう?もし欲しくなったら俺に言えよ?買ってやるぞ。それと、『リンディー』って呼んでくれって言っただろ?」
ちゃんと発音出来なかった昔を思い出してちょっと恥ずかしいです。
「何かあるんですか? 夜会と関係があるんでしょうか。」
「はは、ばれたか。う~~~ん。そうだな~~~。実は俺には夜会に誘いたい女性がいてな、その時のために練習したいんだよ。」
「ええっ! そうなんですか? どんな方なのですか!」
うわ~。リンゼイ兄様の好きな方なんて初めて聞きました。どんな方なのでしょうか。興味津々です。
「とってもかわいらしくて騙されやすくて後ろ向きなこともあるけど、頑張り屋の女の子だよ。」
「わ~。会ってみたいです。」
「そのうち会わせてやるよ。さぁ、ドレスを選ぶぞ。」
なんだか苦笑いをしているリンゼイ兄様ですが、私のやる気が上がってきました。さあ、寸法からですよね、サクサク進めますわよ。
「それではこちらのデザインとこちらの生地で進めさせていただきます。合わせは4日後、お届けは6日後という流れになります。よろしくお願いいたします。」
「ああ。急かして悪いがよろしく頼む。それでは4日後に。」
「いえ、こちらこそ当店を選んでいただいて大変光栄でございます。必ず満足いただけるものを持っていくようお約束さていただきます。」
「はい。とても楽しみにしておりますわ。よろしくお願いいたします。」
店員さんがドアを押し開けてくれました。お店の外に出ますと、待機していた御者さんが馬車の扉を開けて待っていてくれています。リンゼイ兄様の手を借り、馬車に乗り込みます。少し散策をして帰ろうかと、この間に私が迷い込んでしまった街中の広場に行くことになりました。
「それでは、お手をどうぞ。俺の子猫ちゃん。」
笑って左手を出してきたリンゼイ兄様。赤い髪の毛が日の光に反射してキラキラしています。
「はい。リンディー兄様。」
「違うよ。リンディーだよ。兄様はいらないの。」
「わかりました。リンディー様。これでいいのかしら?」
ちょっと笑ったリンゼイ兄様と手をつないで歩きます。小さい頃のことを思い出して懐かしい気分になり、ニコニコと笑ってしまいます。リンゼイ兄様のいなかった間にあった出来事を思い出す順に話します。最近お母様の蔵書の中にある本を読むようになったといった時、リンゼイ兄様は驚いて次に呆れた顔をしました。
「ったく、女はロマンス小説が好きだなぁ。あんななよなよしてたら好きな女なんて守れねーぜ。」
「いいのです。もちろんあんなことが普段から起こることなんてあるわけないことは知っています。でも、だからこそ、楽しいのですわ。」
「そういうもんか?」
「はい。たまにプレゼントでお花やちょっとした小物を頂けるだけでも幸せな気持ちになれるんです。好きな人からもらったものは宝物になるんですのよ?」
そう言って歩いているうちに向こう側の生垣に人がいることに気付きました。何やら話し合いをしていたそちらの人達も私たちに気付いたようで、顔を上げてこちらを見ました。目線があった時にあちらにいた男性が女性をかばう様に背に隠しました。
その二人はジーク様とハーミット様でした。




