21
「覚えてないのも無理はない。あまり俺にとってもリリアンにとってもいい思い出ではないからな。」
「小さい時に意地悪な男の子に泣かされたことは覚えていますが、それがジーク様だったとは思いませんでした。」
そう言った私を見てジーク様は少しすまなそうな顔をしました。
「まあ、自業自得なんだが少し落ち込むな。」
ジーク様は私のすぐ前で頭を下げて片膝をつき、両手で私の右手をそっと包み込んで言いました。
「あの時はすまなかった。」
急に跪かれてドキドキしてしまいます。これはお母様の書架にあるロマンス小説のプロポーズの時の体勢ですわ!
「あ、あの、その時のことはあんまり覚えてないので、謝らなくてもいいです。今もまた、ジーク様に謝っていただいたことですし、もう気にしていませんので頭を上げてください。」
「しかし、リリアンを傷つけてしまったのは確かなことだし、このことが原因で人と話すことが苦手になったと聞いた。今更謝っても遅過ぎるかもしれないが、ちゃんと謝罪をしておきたいし、手助けもしたい。」
「手助けですか?」
「対人関係が苦手なら俺の友人に会ってみてはどうかと思ってな。ハンスにも相談してみた。俺の部下なんだが、女性だし、案外気が利くので不快な思いはしないはずだ。向こうもリリアンと会ってみたいと言っている。」
「ジーク様の部下の方ですか?」
「ああ。そのことで今朝そいつと会っていたのだが、そいつの名はカレン=ハーミットという。」
「あの香水の方ですか?」
「ああ、そうなんだが、香水のにおいがきついようなら俺から注意をしておくよ。どうだろうか?」
『どうだろうか?』って、嫌に決まっています。心配してくれるのはありがたいですが、どこの国に自分の溺愛している恋人と、政略の婚約者を引き合わせる人がいるのでしょう。
しかも、婚約者に会いに来る前にその恋人と逢瀬をしているなんて私を馬鹿にしているとしか思えません。悲しみも通り越して怒りがわいてきましたわ。
「・・・わかりました。ジーク様の謝罪は受け入れます。ただ、ハーミット様のことは少し考えたいのでお時間をいただいてもよろしいですか?」
「・・・そうか。謝罪を受け入れてくれてありがとう。カレンのことは相手もいることなので、早急に返事が欲しい。」
ジーク様は片膝をついたまま少し考えるそぶりをして私の右手に添えている両手にグッと力を込めて握ります。
「そうだな・・・。来週に夜会が開かれるのは知っているか?」
「はい、知っております。」
「あの夜会の時にカレンと引き合わせようと思う。その時に少し話してみて、どうするか決めてみてはどうか?」
そんなことを言われましてもその夜会は王家主催のものではないですか!『必ずや、ジーク様のエスコートを!』と、目標にしていた夜会ですね。これはちょっと目標としていた状況とは違いますが、『目標達成』と言っても大丈夫なのでしょうか?
「あの、エスコートは・・・。」
「ああ、ハンスに頼んでおいた。下手な奴には頼めないからな。変な噂が立っては大変だし。」
---ああ、がっかりです。
なんだー。じーく様がエスコートしてくれているのかと期待してしまいましたわー。
「大丈夫か?リリアン。」
ああ、いけません。ちょっと意識が天に昇って行ってしまいそうになりましたわ。
「わかりました。それでは来週の夜会でハーミット様にお会いいたします。」
淑女の礼をします。あまりの肩すかしに怒りも悲しみも飛んで行ってしまいましたわ。
「すべてハンスに頼んである。ハンスがカレンと引き合わせてくれるはずだ。」
「はい。わかりましたわ。ハーミット様によろしくお伝えくださいませ。」
そうジーク様に言うと、満面の笑みを浮かべられました。
その笑顔は私に向けられたものだととてもうれしかったのですが、きっと最愛の恋人カレン様のことを思い出して浮かべたものでしょう。胸がチクチクと痛みますが、仕方ありませんね。
「それでは、ごきげんよう。」
「ああ、カレンを頼むよ。」
---本当に残念ですわ。
そのまま私は貼り付けた笑顔で仕事へと向かうジーク様を玄関までお見送りします。
それじゃあな。と、笑顔をのまま背を向けるジーク様に夢の中でのジーク様の背中が重なって、また私の胸が軋む音が聞こえました。
リリアンのセリフの一部を修正しました。内容は変更していません。申し訳ありませんでした。




