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「リリアン、その、香水のことなんだが・・・」
ジーク様が私の背中に向けて話し出しました。このままですと失礼ですのでちゃんと向き合います。
「はい、なんでしょう?」
「これは、緊急の仕事で、朝、会っていたんだ。その、報告が正しいかを判断するためにハンスと共にリリアンに会いに来たんだが・・・」
「そうですか。ご用はお済みになられたんですか?」
「あ、ああ。」
そうおっしゃると、ジーク様は少しほっとしたような様子になりました。
でも、近くに寄っただけでこんなにはっきりと香水の匂いって移るものなのかしら?
ちょっと香水の件については納得できませんが、早起きして散歩した分とにかくお腹がすきました。目の前においしそうな朝食があるのに食べれないなんて拷問ですわ!
「ジーク様。朝食はお済みですか?」
「いや、まだだ。」
「それでは私と一緒にいただきませんか?」
「! いいのか?」
ぐ~~~~~~~。
バッ、と、勢いよく両手でお腹を押さえるジーク様。ふふふ。昨日とは逆ですね。
あまりにもうれしくてくすぐったくてクスクス笑ってしまいました。
「ちょうどよかったみたいですね。ご一緒していただけますか?」
なんとなく眉間にシワがあるような気がしますが勢いで誘えましたし、気にしないことにします。
食事の間中、相変わらず眉間にシワがありますし、話がはずんだりなんてはしませんでしたが、なんとなく優しく穏やかな時間が過ぎていきます。ジーク様とハンス兄様との三人のお茶会やお出かけにはなかった雰囲気です。
---ん?ひょっとしてハンス兄様がいない方がうまくいくのかしら?
「ジーク様、お願いがあるのですけれど、いいでしょうか?」
「!あ、ああ。どんなことだ?」
急に話しかけたのがいけなかったのか、ジーク様が喉に食べ物をつまらせてしまったようです。
ごほごほしているジーク様にあわててかけ寄り、水を渡して背中をさすります。
「ごめんなさい。急に話しかけてしまったのがいけなかったのですね。」
「大丈夫だ。考え事をしていた自分も悪いのだ。」
「お仕事のことですか?」
「ああ、そうだ。」
「お仕事、大変なんですね。」
「ああ、まあな。」
お仕事が大変ならば二人で出掛けることもできないですね。口に出す前に気づいてよかったです。ジーク様に迷惑はかけたくありませんから。でもちょっとがっかりです。
「お願い事とはなんだ?」
「ああ、いいのです。お仕事が大変そうなので、また今度にします。」
「・・・そうなのか?」
今なら思いきって二人で出掛けてくださいとお願いできそうでしたが、仕方ありません。我慢することにします。今度またチャンスが来たときは誘えるように頑張りましょう!
ちょっと気合いを入れていると目の前の背中が震えています。どうやらジーク様は笑っているようです。
むむ。笑われるようなこと何かしてしまいましたか?
ちょっとむくれていると心持ち膨らました両頬にジーク様の指が触れました。
「悪い。なんだか面白かったから、つい。」
---ついですって?
ますますむくれていると両頬のお肉をムニムニつかまれました。絶妙な力加減で痛くはありませんがあんまりいいものではありません。
頬をつかんでいるジーク様の両手をどけてちょっと怒りつつ言います。
「何ですかこのムニムニは。淑女に対して失礼ですわ。」
「レディって、リリアンは昔から知っているからな。・・・妹みたいな感じだろう?」
そう言って、ジーク様はまた眉間にシワを寄せ始めました。
「い、妹、ですか。」
「ああ。いつもハンスの後を追いかけている妹だろ?」
そんな風に見られていたなんて思いもしませんでした。
「俺が呼んでも来ないのにハンスが呼ぶとすぐにやってくる。いつも俺はハンスの横にいるだけだった。
ハンスが大事にしている妹だから泣かさないように大事にしなければいけないといつも思っていたし、ハンスにも釘を刺されていた。」
「釘、ですか?」
「ああ。意地悪をするな、いじめるな、話しかけるな、だ。」
ええ!そんなことを言っていたなんて初めて知りました。
「今気づいたのか。」
「はい。」
「二人きりの時には普通に話しかけたりはしてたつもりなんだが・・・。」
そうでしたわ。考えてみれば微笑んでくれたのも二人きりの時でした。
「でも、どうしてハンス兄様はそんなことをいったのかしら?」
「それは、俺がお前を泣かしたからだ。」




