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テラスに朝食の用意ができているから、と、リンゼイ兄様が私のことを持ち上げて運んでいきます。
小さい頃、失敗して落ち込んでいた時に私を抱き上げて、庭をよく散歩してもらいました。
いつもの視界と違って、高い所から見る景色はちょっと不安定ではあるけれど気持ちがよくて、沈んだ気分もすぐになくなっていきました。
「リンゼイ兄様、もう歩けますよ。」
「ううん、もうちょっと抱かせてくれよ。久し振りで俺も楽しい。」
鼻歌を歌いながら軽々と片手で私を持ち上げています。そういえば怪我した傷口は大丈夫でしょうか?
「リンゼイ兄様、傷口にさわります、おろしてください。」
「もう大丈夫だよ。痛みもないし、腫れも引いた。リリアンは心配性だなぁ」
リンゼイ兄様は私をそっと芝生の上におろしてくれました。
「じゃあさ、久しぶりに手をつなごうぜ。昔みたいにさ。」
「ふふふ、どうしたんですか?急に。」
「だめかー?」
「いいですよ。」
にこにこして差し出された手をつなぎます。しばらく咲いている花の話をして歩いていたら庭からテラスへとつながっている大きな窓からハンス兄様が顔を出しました。
「あー!!ずるいな!なんでリンゼイがリリアンと手をつないでいるんだよ!!」
「いいだろー。役得だぜ。」
二人で楽しそうにじゃれているみたいだったので、さっさと二人を置いて、お腹すいたな~なんて思いながら朝ご飯が置かれているテラスに近づいていきました。中に人がいるようで・・・す。
「おはよう。」
「・・・オハヨウゴザイマス。」
な、何でジーク様がこの場所に?途端に今朝見た夢がよみがえります。
リンゼイ兄様とハンス兄様の方を振り向くとまだ二人でじゃれあっています。このままジーク様と二人っきりでいると問い詰めてしまいそうです。
「ジーク・・・リオン様はなぜこちらに?」
「ああ、ハンスに用事があってな。」
「そうですか。朝早くから大変でしたね。」
「・・・」
危ないです!ジーク様と呼んでいいと許可をいただいたのはマリアンナ(変装した自分)でした。
そして沈黙がつらいです。どうしましょう。こんな時にハンス兄様がいてくれたら楽しい話題を振ってくれるんですが・・・。
ああ、何も話題がありません。こうなったら天気の話とか?
もじもじと羽織っている上着の裾のレースをいじっているとジーク様が近づいてきました。
目の前で止まるのかと思って見ていたらずんずん、ずんずん近づいてきます。
ドン!
「!!」
「ジーク。」
「は?」
「ジークだ。」
無言で至近距離で見つめられてこくこくとうなづく私。何だか昨日も同じような感じになったような?
「婚約者なんだからジークと呼べ。」
ジーク様からお許しをいただきました。よかったです。
---いや、よくないです。
ち、近い!昨日マリアンナの時にされた壁ドン?(お母様が教えてくれました)よりも距離が近いです。だんだん頭に血が上ってきました。こんなに近いとジーク様の匂いが、においが・・・。
「女性の香水の匂いがします。」
ギクッと体がこわばるジーク様。壁に手をついたまま固まってしまいました。
ツンツンと顔の横にある腕をつついても動きません。今のうちに距離を置いておきましょう。仕方がないのでお部屋で朝食をとることにします。
壁についた手の下からくぐって囲いの中から出て、ちょっと離れた場所に立ち、ジーク様の方を振り返ります。
何かをぶつぶつとつぶやいているジーク様に呼びかけます。
「わたくしはこれで失礼いたします。」
硬直が解けたジーク様は素早く振り返って言いました。
「これ、は!仕事で、一緒の副官の香水だ。ちょっと話をしただけで匂いが移ってしまったんだ。」
おお、いつもと違って慌てた様子で饒舌に話し始めましたよ。別に言い訳なんてしなくてもいいのに。
「言い訳じゃない!ハンスも一緒だったから・・・おい!ハンス!」
あら?口から出ちゃったかしら。
リンゼイ兄様とハンス兄様はジーク様の大声であわててテラスに入ってきました。
「なんだ、ジークリオン。大声なんか出して。」
「俺の子猫は無事か?」
入ってきたリンゼイ兄様を見たジーク様はびっくりしているようです。
「ああ、会ったことなかったか?こちらはリンゼイだ。リンゼイ、こちらはジークリオンだ。リリアンの婚約者だ。」
「はじめましてジークリオン。」
「・・・ジークリオンです。リリアンの婚約者だ。よろしく。」
何だか不穏な空気が流れています。あら?リンゼイ兄様のそばにシルフィ様がいらっしゃいますね。
なんだかじーっと、ジーク様を見ています。何かあったんでしょうか。
「ジークリオン、急に大声を出してどうしたんだ?」
「ああ、俺が仕事をしていたことを証言してほしいんだ。」
「?ああ、それくらいなら簡単だが、なんでだ?」
「リリアンが俺から女ものの香水が匂うと・・・」
「お、おまえ!リリアンに近づいたのか!」
「ああ、まあ。」
「香水の匂いがわかるほど!!近づいたんだな!」
急に怒り出して暴れているハンス兄様を、やれやれな顔で抑え込んでとめているリンゼイ兄様は、ずるずるとハンス兄様を引きずりながらテラスを出て行こうとしています。
「子猫、話したいことがあるんだろ?ちょっと予定が狂ったが、ぶちまけちまいな。」
ウインクをしてテラスを退出していくリンゼイ兄様は、口を押さえつけられてもごもごとしているハンス兄様を連れて行ってしまいました。大丈夫でしょうか。
二人が出ていくと、急に静かになりました。リンゼイ兄様と一緒に出て行ったのかシルフィ様もいません。
---大事なことを思い出しました。
ジーク様と二人っきりです。




